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35 結界の魔石
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果物が実らなくなったブルーデン公爵家は衰退していく。
そんな公爵家の状況を知らないのか、アーサーは、今日ものんきに婚約者の妹とお茶会をしている。
「なんだ。まだいたのか? 何の用だ?」
お茶会が終わり、一人になったアーサーを呼び止めた。
「私たちの婚約を解消しましょう」
もうアーサーに、アスラン様の影を追うのはやめる。
こんな偽物の姿に、アスラン様を追憶するのは無駄なこと。
だって、ちっとも似ていないもの。内面が違いすぎて、外面も全く似ていないと思うようになった。
「何を言っているんだ? 最近相手をしてやってないから拗ねてるのか?」
「いいえ。あなたには妹がお似合いです。私は身を引きます」
私の気遣いは、彼には通じなかったみたいだ。
運命の恋人たちが生まれ変わったなどと、気持ち悪い話を語り出した。
やめて。アスラン様の生まれだ変わりなんて、そんな侮辱は許さない。
「私は、あなたとは結婚しません」
はっきりそう言うと、彼は鞭をとりだした。
「ふざけたことを言うと、お仕置きだぞ!」
鞭から身を守るために、私は結界を張る。手の中に握った魔石に結界の魔法を込めてから、力を使う。
私が神聖力を使えることは、誰にも知られたくない。魔石の力だと思わせるためだ。
虹色の結界が私を包み込んだ。
あ、やりすぎた。結界の力を使うのって、久しぶりだったもの。
「な! なんだ! これは!?」
真っ二つに割れた鞭を持ったまま、アーサーはうろたえて後ずさった。
「結界魔法?」
後ろで控えている彼の従者が細い目を開いた。
「なぜ? まさか、神聖力?!」
「こ、怖かったから、これを使ったんです」
すぐに否定するために、私は手の中の魔石を見せる。まだ少しだけ力が残っているのか、わずかに銀色に光っている。
「それは! まさか、結界の魔石? どこで見つけたんです? いや、なんでこんなことに使うんですか?! もったいないでしょう! そんなくだらないことに使うなんて。渡してください!」
魔石を見たとたん、血相を変えた従者は、私に詰め寄った。
「結界の魔石だと? なんでおまえがそんな宝を持っているんだ! どこで盗んだ!」
アーサーも恐ろしい顔をして、私の腕をつかんだ。
「痛い。やめて。中庭に埋まってたの。何か銀色に光る石があったから、掘り出したら、……、これは結界石だったの?」
「どこです! 他にもあるかもしれない? どこにありました?」
顔色を変える従者に、私は適当な場所を指で示す。
翌日から、ブルーデン公爵家の使用人たちが、庭中を掘り返す姿を見ることになった。
そして私は離宮を追い出された。
離宮には聖女の遺産が眠っている。そんな噂が立ったからだ。
「汚い部屋ね」
王宮で与えられたのは、使用人の部屋だった。ずっと掃除していないのか、ほこりが積もっている。
「掃除します!」
雑巾を持ったマリリンがビシッと言ったけど、私はそれを断って、彼女を使いに出す。
「おいしいお茶とお菓子がほしいわ。買ってきてちょうだい」
「え? 今すぐですか? いや、掃除が先でしょう?」
マリリンは安っぽいテーブルに積もったほこりを拭う。ふっと吹き飛ばして、ゴホゴホと咳き込む。
「いいから、すぐに買ってきて」
こほんと私も空咳をして、袖口で口を覆う。
早く掃除しないとね。
マリリンを追い出した後、私はルリを呼び出した
「聖女さま~、なあに?」
青い鳥の姿の精霊に命令する。
「ここにあるほこりと塵を全部アーサーの部屋に転移してちょうだい。それから、ベッドや家具をレドリオン家から盗って来て」
「はーい」
ルリのおかげで、綺麗になった新しい部屋には、豪華な家具が置かれることになった。
「ふう」
ふかふかのベッドの上で寝返りを打つ。
誰が使っていたのか分からないので、ちゃんと浄化はしたわよ。本来なら、魔物の瘴気をきれいにする聖女の能力だけど、消毒効果もあるから有用ね。
昔は、自分のために神聖力を使うことは許されなかったけど。
今はもう、自分以外に力を使おうとは思わない。
このままベッドで寝ていたら、またアスラン様の夢を見られるかしら?
起きていたって何もいいことはないもの。
この国を守る王女であることをやめたら、私は何をしたらいいの?
何もやりたいことなんてない。
それなら、いっそこのまま……。
ゴロゴロとベッドで転がる。
え?
何か目の端で光った。
金色の光。
良く知っている輝きの……
「えええ?! なんで?」
床の上には、大きな金色が転がっていた。
「なんで、なんで、どうして?」
これ、あれだよね。
精霊界にあったやつ。
私がいつも温めていた。
「精霊王の卵がなんでここにあるの?!」
そんな公爵家の状況を知らないのか、アーサーは、今日ものんきに婚約者の妹とお茶会をしている。
「なんだ。まだいたのか? 何の用だ?」
お茶会が終わり、一人になったアーサーを呼び止めた。
「私たちの婚約を解消しましょう」
もうアーサーに、アスラン様の影を追うのはやめる。
こんな偽物の姿に、アスラン様を追憶するのは無駄なこと。
だって、ちっとも似ていないもの。内面が違いすぎて、外面も全く似ていないと思うようになった。
「何を言っているんだ? 最近相手をしてやってないから拗ねてるのか?」
「いいえ。あなたには妹がお似合いです。私は身を引きます」
私の気遣いは、彼には通じなかったみたいだ。
運命の恋人たちが生まれ変わったなどと、気持ち悪い話を語り出した。
やめて。アスラン様の生まれだ変わりなんて、そんな侮辱は許さない。
「私は、あなたとは結婚しません」
はっきりそう言うと、彼は鞭をとりだした。
「ふざけたことを言うと、お仕置きだぞ!」
鞭から身を守るために、私は結界を張る。手の中に握った魔石に結界の魔法を込めてから、力を使う。
私が神聖力を使えることは、誰にも知られたくない。魔石の力だと思わせるためだ。
虹色の結界が私を包み込んだ。
あ、やりすぎた。結界の力を使うのって、久しぶりだったもの。
「な! なんだ! これは!?」
真っ二つに割れた鞭を持ったまま、アーサーはうろたえて後ずさった。
「結界魔法?」
後ろで控えている彼の従者が細い目を開いた。
「なぜ? まさか、神聖力?!」
「こ、怖かったから、これを使ったんです」
すぐに否定するために、私は手の中の魔石を見せる。まだ少しだけ力が残っているのか、わずかに銀色に光っている。
「それは! まさか、結界の魔石? どこで見つけたんです? いや、なんでこんなことに使うんですか?! もったいないでしょう! そんなくだらないことに使うなんて。渡してください!」
魔石を見たとたん、血相を変えた従者は、私に詰め寄った。
「結界の魔石だと? なんでおまえがそんな宝を持っているんだ! どこで盗んだ!」
アーサーも恐ろしい顔をして、私の腕をつかんだ。
「痛い。やめて。中庭に埋まってたの。何か銀色に光る石があったから、掘り出したら、……、これは結界石だったの?」
「どこです! 他にもあるかもしれない? どこにありました?」
顔色を変える従者に、私は適当な場所を指で示す。
翌日から、ブルーデン公爵家の使用人たちが、庭中を掘り返す姿を見ることになった。
そして私は離宮を追い出された。
離宮には聖女の遺産が眠っている。そんな噂が立ったからだ。
「汚い部屋ね」
王宮で与えられたのは、使用人の部屋だった。ずっと掃除していないのか、ほこりが積もっている。
「掃除します!」
雑巾を持ったマリリンがビシッと言ったけど、私はそれを断って、彼女を使いに出す。
「おいしいお茶とお菓子がほしいわ。買ってきてちょうだい」
「え? 今すぐですか? いや、掃除が先でしょう?」
マリリンは安っぽいテーブルに積もったほこりを拭う。ふっと吹き飛ばして、ゴホゴホと咳き込む。
「いいから、すぐに買ってきて」
こほんと私も空咳をして、袖口で口を覆う。
早く掃除しないとね。
マリリンを追い出した後、私はルリを呼び出した
「聖女さま~、なあに?」
青い鳥の姿の精霊に命令する。
「ここにあるほこりと塵を全部アーサーの部屋に転移してちょうだい。それから、ベッドや家具をレドリオン家から盗って来て」
「はーい」
ルリのおかげで、綺麗になった新しい部屋には、豪華な家具が置かれることになった。
「ふう」
ふかふかのベッドの上で寝返りを打つ。
誰が使っていたのか分からないので、ちゃんと浄化はしたわよ。本来なら、魔物の瘴気をきれいにする聖女の能力だけど、消毒効果もあるから有用ね。
昔は、自分のために神聖力を使うことは許されなかったけど。
今はもう、自分以外に力を使おうとは思わない。
このままベッドで寝ていたら、またアスラン様の夢を見られるかしら?
起きていたって何もいいことはないもの。
この国を守る王女であることをやめたら、私は何をしたらいいの?
何もやりたいことなんてない。
それなら、いっそこのまま……。
ゴロゴロとベッドで転がる。
え?
何か目の端で光った。
金色の光。
良く知っている輝きの……
「えええ?! なんで?」
床の上には、大きな金色が転がっていた。
「なんで、なんで、どうして?」
これ、あれだよね。
精霊界にあったやつ。
私がいつも温めていた。
「精霊王の卵がなんでここにあるの?!」
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