【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

文字の大きさ
上 下
44 / 70
第2部 魔法学校編

44 引っ越し(8年前)

しおりを挟む
 自室のベッドで目が覚めた。

 頭を私の顔に擦り付ける猫の誘惑に屈して、手を伸ばしてスノウを胸の上に抱き上げた。

 ああ、これの元の姿は、あの精霊王だって分かってるけど、分かってるんだけど! この愛らしい生き物には勝てないって……。

 スノウが精霊王だってことは、初めから気が付いてた気がする。気が付かないよう、自分をごまかしていただけで。

 だって、そうでしょ? 銀色で時々虹色に光る瞳に、同じく銀色で虹色の光を放つ髪をした精霊王との契約を拒んだ直後に、全く同じ色合いの目をした猫ちゃんが現れたんだよ。そんな偶然ないってば。

 スノウは私の顔をぺろぺろ舐めた。この猫ちゃんの実態は美形の人型精霊……。精霊王に顔をなめられるところを想像して、かあっと熱くなった。

 やだ、やだ、もう!

 スノウを横にのけて、起き上がる。

 そうだ、こんなことしてる場合じゃない。あれから、どうなった? 伯父たちに、ルシルを紹介してそれで?

 わたし、寝ちゃった?

「レティシア様」

 ノックの音がして、メイドのメアリが静かに部屋に入ってきた。

「荷づくりをいたします。その間、朝食をお取りください」

 私の着替えを手伝いながら、メアリがそう言った。

「荷造り?」

「はい、この家を出て行かれるとお嬢様が言われてました」

 お嬢様っていうのは、この家では母様のことね。
 そっか。私、追い出されるんだ。それなら、さっさと出て行こう。でも、

「リョウ君の物も、持って行っていい?」

「リョウ様の物は……全て処分するよう命じられています。ただ、処分方法は決められていませんので、この家からなくなるのであれば、構わないでしょう」

 母様はわたしと父様だけじゃなく、リョウ君まで追い出すんだ。でも、それを母様が望むなら。それで、母様の気持ちが落ち着くのなら……。

「じゃあ、全部! リョウ君の部屋の物は何も捨てないで! 全部持っていくから」

「かしこまりました」

 いそがないと。やることはいっぱいある。母様が追い出すって決めたら、執事はすぐに取り掛かるだろう。
 でも、私はどこに行ったらいいの? まだこの国でやらなきゃいけないことがある。

 床で毛づくろいするスノウを抱き上げて、小走りで廊下に出た。急いで父様の部屋へ向かう。

「レティ。おはよう」

 父様は部屋で朝食をとっていた。その後ろで執事が荷物を片付けてる。食事の間さえ待てないんだ。

「私、どこに行ったらいい?」

 質問した私を父様は紫色の瞳でじっと見た。リョウ君と同じ色だ。

「兄さんの所へ行こう。それが望みだろう?」

「いいの?」

 私の望みは昨夜言った。公爵家の養女になって、王太子の婚約者候補になって、リョウ君を殺したやつを探し出して復讐する。

「それがレティのやりたいことなら。俺は力になるよ」

 そう言った父様の人形のように整った顔からは、悲しみが感じられた。父様も、私を見てリョウ君を想ってる?

「分かった。じゃ、よろしく」

 私は踵を返して、リョウ君の部屋に行った。捨てられる前に、全部私が持って行こう。




 その日のうちに私たちは荷物をまとめて、ゴールドウィン公爵家へ入った。家を出る時、ドア越しに母様にさよならを言った。何も返事はなかった。

 ハロルド伯父様は、私を養女にする書類を書いた。王太子の婚約者候補になるには、男爵令嬢では都合が悪いそうだ。そして、私は、婚約者候補になるための条件を王家につきつけた。そのうちの一つは、父様が勇者の遺産を探すのに協力することだ。王家所有のダンジョンや、その他の領地のダンジョン、父様はどこにも立ち入り自由。王家所有の書物も自由に読める。これは、リョウ君の願いのために絶対必要なこと。今は体力のない子供の私よりも、Sランク冒険者の父様に任せよう。

 そして、公爵令嬢として教育を受けながら、忙しく過ごしているうちに、貴族学園の卒園式の日が来た。

 貴族学園のことなんて、すっかり忘れていたよ。ああ、どうしよう。

 これまでに、タンポポ組のみんなからは、リョウ君の弔意の見舞いが届いていた。オスカー様は家にまで来てくれたとか。でも、母様が私に知らせずに、追い返してしまった。

 リョウ君の葬儀はしていない……。どうしても、リョウ君の死を受け入れられないから。犯人を見つけて復讐して、それから、勇者の遺産を見つけるまで、私の中のリョウ君は死ぬことはない。

 憂鬱な気持ちで、学園の制服を着た。豪華な馬車から降りて、向かった先は、薔薇組の教室だった。

 だって、公爵令嬢になっちゃったんだもん。タンポポ組から薔薇組に、勝手にクラス替えされたんだよ! もうっ!
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...