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第1部 貴族学園編
38 復讐
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やってしまった。光の精霊王と契約してしまった。
後悔するにはもう遅かった。
私は、にこにこと上機嫌の光の精霊王をにらんだ。
「ねえ、これで契約が成立したってこと?」
ついさっき、精霊王に口づけられた手を見つめる。なんかこれ、前にもあった。契約獣のダンジョンで、手に口をつけられたよね。
「うん。僕のことはルシルってよんでね」
「ルシル……」
「そう、僕の名前! うれしいな」
名前をつぶやいただけで大喜びする美貌の精霊王を見上げて、問い詰めたかったことには口をつぐんだ。
ダンジョンで会った時に、すでに契約してたんじゃないかって。
でも、まあ、どっちにしろ、今となっては契約しちゃったからいいけど。
どうしよう、リョウ君。……姉さまは予言の王女様になっちゃったよ。光の精霊王の契約者だよ。そんなの、私らしくない。平民になりたかったのに。
でも、どうしようもない。私は彼の力を利用して、勇者の遺産を探すんだから。そして、リョウ君にそれを捧げるのがこれからの目標なんだから。
いっぱい泣き叫んだからか、お腹が空いた。リョウ君がいなくなってから、ほとんど食べてない。
テーブルの上の菓子箱が目に入ったので、薔薇の形のチョコレートを一つ手に取った。一口サイズのそれを口にいれようとしたら、
「それ、毒だよ」
すぐ側でささやかれて、驚いて手を放す。チョコレートはテーブルの上にコロンと転がった。
「毒?」
精霊王は私に顔をくっつけて返事をした。
「うん、それ食べないほうがいいよ」
顔を精霊王から遠ざけて、その菓子箱を手に取ってよく見た。
このお菓子は、貴族学園からの恒例の誕生日プレゼントだって母様が言ってた。
菓子箱をひっくり返すと、チョコレートがばらばらと床に落ちた。箱の裏には封筒に入ったカードがくっついていた。
そっとそのカードを取り出す。
「レティシアちゃんへ お誕生日おめでとう」
カードに書かれていた名前は、私だった。
どういうこと? なんで私に? それに……毒?
このチョコレートを、リョウ君が食べた。私は、母様に邪魔されて、食べられなかったけど。
その後で、母様が魔道具で写真を……。
私はテーブルの上の魔道写真機を手に取った。一瞬ためらってから、ボタンを押す。ジーッという音がして、写真が出て来た。
それに写っていたのは、にっこり笑った父様と笑顔の私、そして、その間にいるのは、ブレて写ったリョウ君だった。
顔立ちも体の線も、はっきりと写っていない。写真を撮った瞬間に、リョウ君は動いていたんだ。それで、こんなにブレまくった写真になったんだ。……魔道具が光る直前に、リョウ君が咳き込む声を聞いた。あの時、……。
「毒で苦しんで、彼の魔力が暴走したんだろうね。それが魔石に影響を与えて、黒い炎になった。全ての原因はこれだろうね」
精霊王はテーブルの上に転がった薔薇の形のチョコレートを指でつまんだ。そして銀色の光で消滅させた。
「……リョウ君は、……事故じゃなかったの?」
魔石の暴発じゃなかったの? 父様のせいじゃなかったの? チョコレートを食べたせいなの?
私に贈られてきたチョコレートが?!
リョウ君は殺された?……誰がそんなことを? 貴族学園の先生? 本当は私を殺そうとした?
頭が混乱した。
さっきまで、悲しくて悲しくて、凍り付いたように感じた私の心に、じわじわと炎が燃え広がっていく。私からリョウ君を奪った相手に対する憎しみの炎が、黒炎のように体中を支配する。
誰がリョウ君を殺したの? 何のために?
本当は私を殺したかったの? 私の代わりにリョウ君が死んだの?
それが誰でも、そして、理由が何であれ、私がやることは一つだけだ。リョウ君の未来を奪った犯人。私からリョウ君を奪ったやつを絶対に許さない。
怒りで目の前が真っ赤になる。体中が熱い。
……殺してやる。
リョウ君を奪った犯人に復讐してやる。
そのためなら、私は、なんだってやる。
「ルシル、私に力を貸して。このチョコレートを贈った犯人を捜すの。それから、そいつを殺すの!」
やることが増えた。
後悔するにはもう遅かった。
私は、にこにこと上機嫌の光の精霊王をにらんだ。
「ねえ、これで契約が成立したってこと?」
ついさっき、精霊王に口づけられた手を見つめる。なんかこれ、前にもあった。契約獣のダンジョンで、手に口をつけられたよね。
「うん。僕のことはルシルってよんでね」
「ルシル……」
「そう、僕の名前! うれしいな」
名前をつぶやいただけで大喜びする美貌の精霊王を見上げて、問い詰めたかったことには口をつぐんだ。
ダンジョンで会った時に、すでに契約してたんじゃないかって。
でも、まあ、どっちにしろ、今となっては契約しちゃったからいいけど。
どうしよう、リョウ君。……姉さまは予言の王女様になっちゃったよ。光の精霊王の契約者だよ。そんなの、私らしくない。平民になりたかったのに。
でも、どうしようもない。私は彼の力を利用して、勇者の遺産を探すんだから。そして、リョウ君にそれを捧げるのがこれからの目標なんだから。
いっぱい泣き叫んだからか、お腹が空いた。リョウ君がいなくなってから、ほとんど食べてない。
テーブルの上の菓子箱が目に入ったので、薔薇の形のチョコレートを一つ手に取った。一口サイズのそれを口にいれようとしたら、
「それ、毒だよ」
すぐ側でささやかれて、驚いて手を放す。チョコレートはテーブルの上にコロンと転がった。
「毒?」
精霊王は私に顔をくっつけて返事をした。
「うん、それ食べないほうがいいよ」
顔を精霊王から遠ざけて、その菓子箱を手に取ってよく見た。
このお菓子は、貴族学園からの恒例の誕生日プレゼントだって母様が言ってた。
菓子箱をひっくり返すと、チョコレートがばらばらと床に落ちた。箱の裏には封筒に入ったカードがくっついていた。
そっとそのカードを取り出す。
「レティシアちゃんへ お誕生日おめでとう」
カードに書かれていた名前は、私だった。
どういうこと? なんで私に? それに……毒?
このチョコレートを、リョウ君が食べた。私は、母様に邪魔されて、食べられなかったけど。
その後で、母様が魔道具で写真を……。
私はテーブルの上の魔道写真機を手に取った。一瞬ためらってから、ボタンを押す。ジーッという音がして、写真が出て来た。
それに写っていたのは、にっこり笑った父様と笑顔の私、そして、その間にいるのは、ブレて写ったリョウ君だった。
顔立ちも体の線も、はっきりと写っていない。写真を撮った瞬間に、リョウ君は動いていたんだ。それで、こんなにブレまくった写真になったんだ。……魔道具が光る直前に、リョウ君が咳き込む声を聞いた。あの時、……。
「毒で苦しんで、彼の魔力が暴走したんだろうね。それが魔石に影響を与えて、黒い炎になった。全ての原因はこれだろうね」
精霊王はテーブルの上に転がった薔薇の形のチョコレートを指でつまんだ。そして銀色の光で消滅させた。
「……リョウ君は、……事故じゃなかったの?」
魔石の暴発じゃなかったの? 父様のせいじゃなかったの? チョコレートを食べたせいなの?
私に贈られてきたチョコレートが?!
リョウ君は殺された?……誰がそんなことを? 貴族学園の先生? 本当は私を殺そうとした?
頭が混乱した。
さっきまで、悲しくて悲しくて、凍り付いたように感じた私の心に、じわじわと炎が燃え広がっていく。私からリョウ君を奪った相手に対する憎しみの炎が、黒炎のように体中を支配する。
誰がリョウ君を殺したの? 何のために?
本当は私を殺したかったの? 私の代わりにリョウ君が死んだの?
それが誰でも、そして、理由が何であれ、私がやることは一つだけだ。リョウ君の未来を奪った犯人。私からリョウ君を奪ったやつを絶対に許さない。
怒りで目の前が真っ赤になる。体中が熱い。
……殺してやる。
リョウ君を奪った犯人に復讐してやる。
そのためなら、私は、なんだってやる。
「ルシル、私に力を貸して。このチョコレートを贈った犯人を捜すの。それから、そいつを殺すの!」
やることが増えた。
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