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第1部 貴族学園編
35 喪失
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リョウ君がいない。
……リョウ君がいなくなった。
私はどうしたらいいんだろう。リョウ君がいないなんて、私は……?
何にもする気がおきない。一日中ベットの中にいる。
ずっとこのまま眠っていたい。夢の中でなら、リョウ君に会えるかもしれない。それが無理でも、眠っている間は、リョウ君がいないことを考えなくていいから。
それでも、朝になったら目が覚めて、お腹がすく。
メイドのメアリがトレーに入った朝食を置いて行った。私はちらっとそれを見てから、また枕に顔をうずめる。
何もしたくない。何もせずにこのままずっとベッドにいたら、リョウ君の所に行ける?
リョウ君が死んでしまったなんて、信じられなかった。
黒い炎に包まれたのを目の前で見たとしても……。だって、何も残ってない。何一つ残してくれないから。信じたくない……。
もしかして、どこかに隠れてるんじゃない? 「姉さま、ここだよ」っていって、見つけてもらうのを待ってるんじゃない?
私はふらふらと起き上がり、真っ暗な中、裸足で廊下をさまよった。リョウ君、どこにいるの? 姿を見せて。
食事をとってなかったので、ふらついて倒れそうになって壁に手をついた。奥の部屋から声が聞こえる。でも、リョウ君の声じゃない。耳障りな甲高い叫び声だ。
「あなたのせいよ! あなたがあの子を殺したのよ! あなたのせいで私は、子供を亡くしたかわいそうな母親になってしまったの! ひどいわ! こんなのってあんまりよ! もう出て行って! あなたの顔なんて見たくない! あの女の子どもも連れて行ってよ! 赤の他人を世話する気力なんてないわ!」
聞こえてくるのは、母様の声。大声で泣き叫ぶ声が廊下に響いている。
「レティは悪くない。弟をなくして母親まで失ってはかわいそうだ」
「私は、母親じゃないわ! 私の子は、リョウ君一人だけよ! どうしてリョウ君だったの? あの子が死ねばよかったのに」
「そんなこと言わないでくれ。もういい、わかった。俺は出て行く。レティのことも、兄に相談する。だから、彼女を気遣ってほしい。食事もとってないとか」
「私だって! 私も食事を満足に取れてないわよ! 子供が死んだのよ! 楽しく食事できるわけないじゃない! 私はものすごく不幸になってしまったの!」
わめき声に耳をふさいで、私は背を向けた。
食堂に行こう。リョウ君が消えた場所にいたら、もしかして戻ってくるかもしれない。
真っ暗な食堂に入って、ランプに火を灯した。薄暗い中で見たその場所は、誕生会の時と何も変わっていなかった。食事は片付けられていたけど、テーブルの上には魔道具の写真機が、あの時のまま置かれていた。そして、その隣には食べ損ねたチョコレートの箱も。
でも、リョウ君はどこにもいない。いつもリョウ君が座る席を見ても、リョウ君は現れない。
どうして?
いつも一緒だって、ずっと一緒だって約束したのに。どうして一人でいなくなったの?
ぽたりと床に涙が落ちた。ぽたりぽたり。
私は静かに泣いた。つらくて、声も出ないくらいに苦しくて、薄暗い食堂で、床に座って一人で泣いた。
だれか、助けて……。リョウ君を私に返して。
お願い。なんでもするから。お願い。リョウ君に会わせてよ。
涙がどんどんあふれて来て、このまま体中の水分がなくなってしまうんじゃないかってくらいに泣いた。
それも、いいのかもしれない。リョウ君がいないのなら、いっそ私も……。
「彼は寿命だったんだ」
泣き疲れて、床で丸まっている時に、その声が聞こえた。一度聞いたことのある、この世のものとは思えないぐらい美しい声は、残酷な言葉を言った。
……リョウ君がいなくなった。
私はどうしたらいいんだろう。リョウ君がいないなんて、私は……?
何にもする気がおきない。一日中ベットの中にいる。
ずっとこのまま眠っていたい。夢の中でなら、リョウ君に会えるかもしれない。それが無理でも、眠っている間は、リョウ君がいないことを考えなくていいから。
それでも、朝になったら目が覚めて、お腹がすく。
メイドのメアリがトレーに入った朝食を置いて行った。私はちらっとそれを見てから、また枕に顔をうずめる。
何もしたくない。何もせずにこのままずっとベッドにいたら、リョウ君の所に行ける?
リョウ君が死んでしまったなんて、信じられなかった。
黒い炎に包まれたのを目の前で見たとしても……。だって、何も残ってない。何一つ残してくれないから。信じたくない……。
もしかして、どこかに隠れてるんじゃない? 「姉さま、ここだよ」っていって、見つけてもらうのを待ってるんじゃない?
私はふらふらと起き上がり、真っ暗な中、裸足で廊下をさまよった。リョウ君、どこにいるの? 姿を見せて。
食事をとってなかったので、ふらついて倒れそうになって壁に手をついた。奥の部屋から声が聞こえる。でも、リョウ君の声じゃない。耳障りな甲高い叫び声だ。
「あなたのせいよ! あなたがあの子を殺したのよ! あなたのせいで私は、子供を亡くしたかわいそうな母親になってしまったの! ひどいわ! こんなのってあんまりよ! もう出て行って! あなたの顔なんて見たくない! あの女の子どもも連れて行ってよ! 赤の他人を世話する気力なんてないわ!」
聞こえてくるのは、母様の声。大声で泣き叫ぶ声が廊下に響いている。
「レティは悪くない。弟をなくして母親まで失ってはかわいそうだ」
「私は、母親じゃないわ! 私の子は、リョウ君一人だけよ! どうしてリョウ君だったの? あの子が死ねばよかったのに」
「そんなこと言わないでくれ。もういい、わかった。俺は出て行く。レティのことも、兄に相談する。だから、彼女を気遣ってほしい。食事もとってないとか」
「私だって! 私も食事を満足に取れてないわよ! 子供が死んだのよ! 楽しく食事できるわけないじゃない! 私はものすごく不幸になってしまったの!」
わめき声に耳をふさいで、私は背を向けた。
食堂に行こう。リョウ君が消えた場所にいたら、もしかして戻ってくるかもしれない。
真っ暗な食堂に入って、ランプに火を灯した。薄暗い中で見たその場所は、誕生会の時と何も変わっていなかった。食事は片付けられていたけど、テーブルの上には魔道具の写真機が、あの時のまま置かれていた。そして、その隣には食べ損ねたチョコレートの箱も。
でも、リョウ君はどこにもいない。いつもリョウ君が座る席を見ても、リョウ君は現れない。
どうして?
いつも一緒だって、ずっと一緒だって約束したのに。どうして一人でいなくなったの?
ぽたりと床に涙が落ちた。ぽたりぽたり。
私は静かに泣いた。つらくて、声も出ないくらいに苦しくて、薄暗い食堂で、床に座って一人で泣いた。
だれか、助けて……。リョウ君を私に返して。
お願い。なんでもするから。お願い。リョウ君に会わせてよ。
涙がどんどんあふれて来て、このまま体中の水分がなくなってしまうんじゃないかってくらいに泣いた。
それも、いいのかもしれない。リョウ君がいないのなら、いっそ私も……。
「彼は寿命だったんだ」
泣き疲れて、床で丸まっている時に、その声が聞こえた。一度聞いたことのある、この世のものとは思えないぐらい美しい声は、残酷な言葉を言った。
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