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第1部 貴族学園編
31 親子遠足
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そして、ハードな毎日を過ごしているうちに、あっという間に、親子遠足とは名ばかりの、契約獣ダンジョンの日になった。
父様とはずっと連絡がとれなかった。母様は近頃は体調が良くまともだけど……。
「ごめん。母様は、やっぱり行けない! リョウ君が契約獣を見つけるのを、ダンジョンの前で見てあげたいけど。でも、やっぱり、ママ友とか、こわいのよ。みんな私のこと仲間はずれにするし、いじわるな人もいるし。それに……」
「いいよ! 母様は家で待ってて。すぐに戻ってくるから」
「でも、だって、親子遠足なのに……。リョウ君の一番の見せ場を見に行かないなんて!」
「ぜんぜん! 僕は平気だよ。ほら、ぼくは姉さまもいるし。それに、辺境伯から護衛騎士が来てくれるし」
「でもね、他の人が、私のことを悪い母親だって言うかもしれないし」
「大丈夫! 母様は悪くないよ」
こういう時の母様は、調子が悪い時よりもずっとめんどくさい。何度もリョウ君になだめられて、母様は玄関で手を振って私達を送り出した。
そして、貴族学園で辺境伯の騎士さんと合流して、さあ、いよいよ契約獣ダンジョンだ。
ってわけなんだけど、学校の最奥に作られた転移門をくぐるのは薔薇組から。私たちは一番最後。
騎士さんと一緒に門をくぐった時には、もうすでに薔薇組さんは全員ダンジョンに出発していた。
タンポポ組の一番はルビアナちゃんで、両親に見守られながら、3人の護衛と一緒にダンジョンの扉を開けた。
このダンジョンは年に一回、一日しか開かない。しかも、入ることができるのは5、6歳の貴族の子女とその護衛に限定され、人数制限まである。
この中は白い壁の迷路になっていて、奥に行くほど良い契約獣が得られるとか。
「じゃあ行ってくる。入口で待ってるから、一緒に行こう」
「うん」
一緒にドアから入ることはできないけど、途中で合流することはできる。
私は、リョウ君を見送って、ダンジョン管理者の学園長の許可が出てから出発する。
「おう、嬢ちゃん、俺たちが付いてるぞ」
「よろしくお願いします」
ちょっと怖かったけど、大きな体の騎士さんに励まされて、私は扉を開けた。重そうな大きな扉は、子供の力でも簡単に開いた。
さあ、初めてのダンジョン。
「姉さま!」
入ってすぐの所でリョウ君は待っててくれた。
白い壁がそびえ立つ迷路ダンジョン。ランプもないのに明るい。壁自体が光っている。今日のために買った歩きやすいブーツで、床をしっかり踏む。床も白い。距離感がおかしくなりそうだ。
「行こう。多分、こっちだよ」
リョウ君は自信ありげに、分かれ道で進路を選ぶ。時々、小さな黄色いスライムが、ピョンピョン跳ねて来るけど、騎士さんがにらむと、おとなしくなった。
「今日は討伐が目的じゃないからな。さあ、どんどん進もう」
白い壁と床で目がチカチカしながらも、ずんずん先へ進むと、今度は洞窟みたいな場所に出た。
「こっちのような気がするんだ」
リョウ君は迷いのない足で、曲がった道を行く。私たちはそれについて行った。
「あ!」
リョウ君が立ち止まった。またスライム?
「いた。君だね。僕を呼んでたのは?」
スライムじゃなかった。
洞窟の壁に張り付いていたのは、緑色のトカゲだ。手のひらサイズのトカゲは、リョウ君の側まですばやく壁を這って来た。
「運動会で引いたカードと同じトカゲだ。決めた。君と契約するよ」
あっさりと、リョウ君は契約獣を決めてしまった。まだ、ダンジョンに入ってそれほど時間がたってない。こんなに早く決めていいの?
「リョウ君、他の子は探さないの?」
私が聞くと、リョウ君は大きくうなずいて、手のひらにのせたトカゲを見た。
「この子がいいんだ。どうやって契約したらいいの?」
リョウ君の問いかけに、トカゲはリョウ君の手を長い舌でぺろりと舐めた。
もしかして、これで契約?
「うん、契約できたみたい。これからよろしくね。トカゲさん」
トカゲは嬉しそうにリョウ君の腕をするする登って、上着の胸ポケットに入り込んだ。
「えっと、おめでとう」
展開が早くてついていけなかったけど、とりあえず褒める。
速いよ。リョウ君。
でも、本心では、リョウ君は父様の白狼みたいな大物と契約するんじゃないかなって期待してたから、小さなトカゲを選んだことに、ちょっとがっかりしてしまった。
「運動会で引いたカードがね、頭に残ってて、それで、同じ契約獣を知らないうちに呼び寄せるんだって」
私の不満げな顔を見て、リョウ君は説明した。
え? あのカードにそんな役割が?
いやだ。私のは、気持ち悪い虫のカードだったよ。絶対にそんな虫はお断り!
リョウ君がすぐに契約獣を見つけたので、私も簡単に見つけられるって思ってたのだけど、洞窟みたいなダンジョンをひたすら歩いても何も出てこない。いや、本当に何も。モンスターさえも皆無。なぜ?
何も出ない洞窟を歩き続ける。
もう、何キロ歩いたのか。疲れて私は無言になった。
体力が余ってる騎士さん6人は、歩くだけなのは物足りないみたいで、
「なあ、嬢ちゃん。もっとこう、強いモンスターのいるところには行かないのか」
「この辺には、何の気配もないぞ」
「おかしいな。上の坊ちゃんの時は、それなりにモンスターが出現したって言ってたぞ」
元気に後ろで話をしている。
「はあ。……ねえ、リョウ君。契約獣の場所はどうやって分かったの?」
「なんか、呼ばれた気がしたんだ。僕に、『見つけて、早く来て』って言ってるような」
そんな声はどこからも聞こえない。それなら、いっそのこと、こっちから呼ぶ?
「契約獣さん。私の契約獣さん。お願い、出てきて」
小さい声で呟いてみた。
すると、
「姉さま! あそこ! なんかいるよ!」
リョウ君が石の影を指さした。
私の契約獣! どこ?
近寄ってみたら、そこにいたのは、
「ひぃ、いや、いやだっ、無理。ムカデ!」
「ムカデじゃないよ。よく見て、節から2本の足が出てる」
それでも、ダメ! それは無理。見るのでさえ無理なのに、リョウ君みたいにポケットに入れる? 私、気絶する!
私が激しく拒絶すると、それは、するすると石の割れ目に消えた。
はあ、怖かった。
「でも、姉さまの運動会のカードは……」
リョウ君は「存在的記憶が呼び寄せる」とかなんとか難しい言葉をつぶやいているけど、聞きたくないから、かき消すように私は叫んだ。
「契約獣さん! お願い。出てきて! 虫以外なら、なんでもいいから! お願い。虫以外なら、契約するから!」
やけになって大声で叫ぶ。声が洞窟に反響した。
「いいぞ! もっと叫べ!」
「魂の叫びを響かせろ!」
騎士さんがよく分からない応援をしてくれる。きっと、ただ歩き回るのに飽きたんだろう。
私は、自分でもばかばかしくなって、叫ぶのをやめて足を動かすことにした。
でも、いきなり、まぶしい光が爆発して、近くでバタバタと倒れる音がした。
!何!?
「いいよ。僕と契約しよう。ずっと待っていた。僕の契約者」
光の中から、私の呼びかけに答える声がした。
父様とはずっと連絡がとれなかった。母様は近頃は体調が良くまともだけど……。
「ごめん。母様は、やっぱり行けない! リョウ君が契約獣を見つけるのを、ダンジョンの前で見てあげたいけど。でも、やっぱり、ママ友とか、こわいのよ。みんな私のこと仲間はずれにするし、いじわるな人もいるし。それに……」
「いいよ! 母様は家で待ってて。すぐに戻ってくるから」
「でも、だって、親子遠足なのに……。リョウ君の一番の見せ場を見に行かないなんて!」
「ぜんぜん! 僕は平気だよ。ほら、ぼくは姉さまもいるし。それに、辺境伯から護衛騎士が来てくれるし」
「でもね、他の人が、私のことを悪い母親だって言うかもしれないし」
「大丈夫! 母様は悪くないよ」
こういう時の母様は、調子が悪い時よりもずっとめんどくさい。何度もリョウ君になだめられて、母様は玄関で手を振って私達を送り出した。
そして、貴族学園で辺境伯の騎士さんと合流して、さあ、いよいよ契約獣ダンジョンだ。
ってわけなんだけど、学校の最奥に作られた転移門をくぐるのは薔薇組から。私たちは一番最後。
騎士さんと一緒に門をくぐった時には、もうすでに薔薇組さんは全員ダンジョンに出発していた。
タンポポ組の一番はルビアナちゃんで、両親に見守られながら、3人の護衛と一緒にダンジョンの扉を開けた。
このダンジョンは年に一回、一日しか開かない。しかも、入ることができるのは5、6歳の貴族の子女とその護衛に限定され、人数制限まである。
この中は白い壁の迷路になっていて、奥に行くほど良い契約獣が得られるとか。
「じゃあ行ってくる。入口で待ってるから、一緒に行こう」
「うん」
一緒にドアから入ることはできないけど、途中で合流することはできる。
私は、リョウ君を見送って、ダンジョン管理者の学園長の許可が出てから出発する。
「おう、嬢ちゃん、俺たちが付いてるぞ」
「よろしくお願いします」
ちょっと怖かったけど、大きな体の騎士さんに励まされて、私は扉を開けた。重そうな大きな扉は、子供の力でも簡単に開いた。
さあ、初めてのダンジョン。
「姉さま!」
入ってすぐの所でリョウ君は待っててくれた。
白い壁がそびえ立つ迷路ダンジョン。ランプもないのに明るい。壁自体が光っている。今日のために買った歩きやすいブーツで、床をしっかり踏む。床も白い。距離感がおかしくなりそうだ。
「行こう。多分、こっちだよ」
リョウ君は自信ありげに、分かれ道で進路を選ぶ。時々、小さな黄色いスライムが、ピョンピョン跳ねて来るけど、騎士さんがにらむと、おとなしくなった。
「今日は討伐が目的じゃないからな。さあ、どんどん進もう」
白い壁と床で目がチカチカしながらも、ずんずん先へ進むと、今度は洞窟みたいな場所に出た。
「こっちのような気がするんだ」
リョウ君は迷いのない足で、曲がった道を行く。私たちはそれについて行った。
「あ!」
リョウ君が立ち止まった。またスライム?
「いた。君だね。僕を呼んでたのは?」
スライムじゃなかった。
洞窟の壁に張り付いていたのは、緑色のトカゲだ。手のひらサイズのトカゲは、リョウ君の側まですばやく壁を這って来た。
「運動会で引いたカードと同じトカゲだ。決めた。君と契約するよ」
あっさりと、リョウ君は契約獣を決めてしまった。まだ、ダンジョンに入ってそれほど時間がたってない。こんなに早く決めていいの?
「リョウ君、他の子は探さないの?」
私が聞くと、リョウ君は大きくうなずいて、手のひらにのせたトカゲを見た。
「この子がいいんだ。どうやって契約したらいいの?」
リョウ君の問いかけに、トカゲはリョウ君の手を長い舌でぺろりと舐めた。
もしかして、これで契約?
「うん、契約できたみたい。これからよろしくね。トカゲさん」
トカゲは嬉しそうにリョウ君の腕をするする登って、上着の胸ポケットに入り込んだ。
「えっと、おめでとう」
展開が早くてついていけなかったけど、とりあえず褒める。
速いよ。リョウ君。
でも、本心では、リョウ君は父様の白狼みたいな大物と契約するんじゃないかなって期待してたから、小さなトカゲを選んだことに、ちょっとがっかりしてしまった。
「運動会で引いたカードがね、頭に残ってて、それで、同じ契約獣を知らないうちに呼び寄せるんだって」
私の不満げな顔を見て、リョウ君は説明した。
え? あのカードにそんな役割が?
いやだ。私のは、気持ち悪い虫のカードだったよ。絶対にそんな虫はお断り!
リョウ君がすぐに契約獣を見つけたので、私も簡単に見つけられるって思ってたのだけど、洞窟みたいなダンジョンをひたすら歩いても何も出てこない。いや、本当に何も。モンスターさえも皆無。なぜ?
何も出ない洞窟を歩き続ける。
もう、何キロ歩いたのか。疲れて私は無言になった。
体力が余ってる騎士さん6人は、歩くだけなのは物足りないみたいで、
「なあ、嬢ちゃん。もっとこう、強いモンスターのいるところには行かないのか」
「この辺には、何の気配もないぞ」
「おかしいな。上の坊ちゃんの時は、それなりにモンスターが出現したって言ってたぞ」
元気に後ろで話をしている。
「はあ。……ねえ、リョウ君。契約獣の場所はどうやって分かったの?」
「なんか、呼ばれた気がしたんだ。僕に、『見つけて、早く来て』って言ってるような」
そんな声はどこからも聞こえない。それなら、いっそのこと、こっちから呼ぶ?
「契約獣さん。私の契約獣さん。お願い、出てきて」
小さい声で呟いてみた。
すると、
「姉さま! あそこ! なんかいるよ!」
リョウ君が石の影を指さした。
私の契約獣! どこ?
近寄ってみたら、そこにいたのは、
「ひぃ、いや、いやだっ、無理。ムカデ!」
「ムカデじゃないよ。よく見て、節から2本の足が出てる」
それでも、ダメ! それは無理。見るのでさえ無理なのに、リョウ君みたいにポケットに入れる? 私、気絶する!
私が激しく拒絶すると、それは、するすると石の割れ目に消えた。
はあ、怖かった。
「でも、姉さまの運動会のカードは……」
リョウ君は「存在的記憶が呼び寄せる」とかなんとか難しい言葉をつぶやいているけど、聞きたくないから、かき消すように私は叫んだ。
「契約獣さん! お願い。出てきて! 虫以外なら、なんでもいいから! お願い。虫以外なら、契約するから!」
やけになって大声で叫ぶ。声が洞窟に反響した。
「いいぞ! もっと叫べ!」
「魂の叫びを響かせろ!」
騎士さんがよく分からない応援をしてくれる。きっと、ただ歩き回るのに飽きたんだろう。
私は、自分でもばかばかしくなって、叫ぶのをやめて足を動かすことにした。
でも、いきなり、まぶしい光が爆発して、近くでバタバタと倒れる音がした。
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