【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

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第1部 貴族学園編

24 初めての魔物祭り

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 オスカー様一家に勧められるまま、一月近くも滞在してしまった。でも、もうそろそろ、帰らなきゃ。アニータちゃんの領地のお祭りを見に行くって約束してたし。

「初めての魔物祭り? ああ、うちの隣のグリーデン男爵家の領地の祭りだね。俺も一緒に行くよ」

 オスカー様は私達の予定を聞くと、執事に命じてアニータちゃんのお父さんに手紙を書いた。返事は「了解」だそうだ。
 このあたりの領主は、みんな辺境伯の派閥なので、領館での滞在は大歓迎だそうだ。

 そして、辺境伯の家族の「嫁に来い」コールを聞き流して、私達は3人でアニータちゃんのおうちに行った。

「レティシアちゃん! それから、リョウ君! オスカー様!」

 グリーデン男爵夫妻と一緒に、アニータちゃんが出迎えてくれた。アニータちゃんのお母さんは、どっしりしたしっかり者って感じの女性で、お父さんはアニータちゃんによく似たえくぼのできる笑顔で迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました。辺境伯令息様」

「オスカーでいいよ。突然悪かったね」

 オスカー様が謝罪しながら手土産の魔石を渡すと、恐縮した男爵夫妻は二人とも同じ勢いで首を振った。

「いいえ、とんでもない。こんな光栄なことはありません。ぜひ、わが村の祭りを見て行ってください」

「何もない村ですが、祭りだけは楽しいので……、そうだ、せっかく勇者の末裔の黒髪黒目のオスカー様がいらっしゃったんだ。勇者の役はオスカー様に頼めば……。そっちのお嬢さんは金髪紫眼、聖女様の役にぴったりだ」

「あなた! 何を言ってるのです! そんなことでお客様を煩わせないでください。だいたい、お芝居は半年も前から、みんな練習してるんですよ」

「ああ、そうだった、すまんすまん。悪かったです。いや、この魔物祭りの時期に、こんなぴったりな子供たちがきてくれたからな。もしかして、精霊王でも現れてくれないかなと、いやいや、本当に申し訳ない」

「もう! パパったら、私の聖女リシア役が楽しみだって言ってたじゃない! それは嘘だったの?」

「いやいやいや、もちろん。世界中で一番聖女リシアの役が似合うのは、かわいいアニータだよ」

 にぎやかで仲良しの家族だ。
 その後、私達は部屋に案内された。
 オスカー様とリョウ君が同じ部屋で、私はアニータちゃんの部屋で一緒に寝ることになった。
 まだ5歳だから1人部屋は寂しいだろうっていう男爵夫人の考えだ。
 アニータちゃんは、貴族の子としては珍しく、両親と妹と一緒に、いつも4人で一緒に寝てるそうだ。

 食事の後、みんなと別れて、アニータちゃんと二人でパジャマでおしゃべりするのは楽しかった。
 貴族学園ではしっかり者のアニータちゃんは、家では年相応で、お友達と過ごす夜に、はしゃいでいた。

「ねえねえ、オスカー様とどうなの? どこまでいった?」

 しつこく、アニータちゃんが恋愛話をしたがるのは困ったけどね。



 翌朝、寝坊してから食堂に行ったら、

「おはよう! アニータちゃんと男爵夫妻は、演劇の準備で先に会場に行ったそうだよ。僕たちも見に行こう。出店があるんだって」

 オスカー様が護衛の騎士さんと一緒にさわやかに登場した。今まで、日課の朝の筋トレを一緒にやっていたそうだ。
 朝食を済ませた私たちは、馬車に乗って村の広場まで行った。

 道沿いに張られたテントの下で、木箱には果物が山のように積まれ、テーブルの上にはおいしそうなお菓子や料理が並んでいた。祭りの出店だ。

「坊ちゃん、やっていくかい?」

 村人のふりしてフードをかぶって変装した私達に、スリングショットを持ったおじさんが声をかけた。
 でも、その後、後ろに立っている護衛の騎士さんの大きな体を見上げて、おじさんはぎょっとして固まった。

「ごめんね。おどろかせて、今日はお忍びなんだ。それ、おもしろそう。やってもいい?」

 フードをちょっとだけあげて、黒髪を見せるオスカー様に、屋台のおじさんは、目を丸くした。

「光栄です! 勇者の末裔様! どうぞ、何回でもやって行ってください!」

 スリングショットは、先が二つに分かれた木の枝にゴムを張って玉を飛ばして獲物を狙う武器だ。
 獲物は離れた台の上に置かれた木彫りの置物。勇者に聖女、女騎士、女魔法使いにブラックドラゴン。

「ぼく、絶対にブラックドラゴンを取る!」

 宣言どおり、リョウ君は一発でブラックドラゴンを落とした。オスカー様は3回挑戦して、勇者の像を取った。

「なんでブラックドラゴンにしたの? 君なら、勇者にすると思ったんだけど」

「だって、このドラゴンすごく小さいよ。羽も短いし、ちょっとトカゲみたいだ。どうしてこんな形なのか気になって」

 二人の話し声を聞いて、近くで井戸端会議していたおばあさんたちが話に加わった。

「そりゃあ、この村においでなすった時は、まだドラゴン様が小さかったからじゃの」

「そうそう、羽の生えた黒いトカゲのようだったって言い伝えられとる」

「勇者様もはじめは、剣の握り方もまだまだで、かわいらしかったって先祖が言っておったのぉ」

「初めてなのは剣だけじゃなくて、女もだったそうじゃぞ。女騎士と女魔法使いの両方にせまられて、聖女様の背中に逃げておったとか」

「いやいや、でも、聖女様と一つの部屋にこもって、朝までお楽しみだったのを、うちの先祖が目撃しとるのじゃよ」

「ああ、勇者様の一番好きな女は聖女様じゃの。でも、聖女様はこの後、お城に行って王子様と恋に落ちたんじゃろ? 振られてしまったのかの?」

「仕方ないじゃろ。王子様は顔が良かったそうじゃ。聖女様が一目で惚れてしまったのじゃよ」

「まあ、でも、勇者様は、女魔法使いと女剣士の両方に子供をさずけたからの。ひゃっひゃ。お盛んだったんじゃろ」

 この後、おばあさんたちは、勇者の女性歴を面白おかしく下ネタ交じりで語りだしたので、私はリョウ君をひっぱって急いでその場を離れた。

「ハーレム勇者、気持ち悪い」

「姉さま……」

 私のつぶやきをリョウ君が拾って、悲しそうな顔をした。
 ああ、ごめんね。リョウ君の大好きな勇者様の悪口言って。



 祭りのメイン、「勇者様と初めての魔物」の劇が始まるところだった。

 私たちは男爵に取ってもらった2階の閲覧席から、劇をしている子供たちを見下ろした。

 勇者パーティを演じる子供と、魔物役の大人たち。魔物は黄色と青のスライムが描かれたお面をかぶっていた。

 光の聖協会に召喚された勇者が、魔王討伐の命を受けるために、仲間とともに王城へ向かう。その途中で立ち寄ったこの村で、初めて魔物と戦闘するというストーリー。

 魔物の群れに囲まれた勇者一行は戦う。

「やだぁー、なによ、このスライム、気持ち悪ーい」

「おいっ、スライム。酸を吐くな。やめろ。服が溶ける」

「みんな、怪我してない? お薬あるよ。聖なる光よ、みんなを守って」

 勇者リョウを囲んだ女の子たちが、スライムをやっつけようと奮闘する。なんだかゆるい劇だ。勇者の戦闘を忠実に再現したと言ってたけど……。アニータちゃん、がんばれ……。

 あれ? あの勇者の着ている衣装はなに? 真っ黒で金のボタン。ひざ丈まである詰襟。

「学ラン?」

 学ランだよね。どう見ても、昭和のヤンキーが来ているやつ。ドラマとかアニメでしか見たことないけど。黒い詰襟の男子学生の制服。

「そう、学ランだよ。よく知ってるね。召喚された時に勇者が着ていたんだって。最近、光の聖協会でレプリカを売り出したら大人気商品になったそうだよ。王都には、まだ入ってないみたいだけど」

「え! ほしい! ぼくも着てみたい!」

 舞台の上では、黄色のスライム役を、勇者がこん棒で倒した後、今度は青いスライムに囲まれる。アニータちゃん扮する聖女が、勇者をかばう。

「リョウ君は私が守る! 聖なる光よ、浄化して」

「まって、リシア。この子たちは違う」

 杖を振り上げた聖女の前に勇者が立って、青いスライムをかばう。

「この子たちは、悪いスライムじゃないよ。ゴミを食べてくれる良いスライムなんだ。害のない魔物なら、人間と一緒に暮らせるんだ」

「そうなの? それじゃあ、みんなで仲良く暮らしましょう」

「そうして、良いスライムは、この村でお掃除係として一緒に暮らしました。終わり」

 ナレーションを子供が読むと、観客は一斉に拍手した。

「すごいぞ!」
「かわいかったぞ!」
「アニータ! 最高だ! パパはうれしいぞ!」

 私達も一生懸命拍手した。

「うわぁ。いいお話だったね。なんか、教会で聞いている勇者様のお話と、ちょっと違っておもしろかった」

「うん、史実に基づいた劇を作ってるようだね。セリフも当時を再現しているそうだ。実際に、この村は青スライムを育てて共同生活している。各家庭に1匹はペットでいるよ」

「ふーん。ぼくも欲しいな」

 物欲しそうにしているリョウ君に首をふる。
 潔癖症なところがある母様には、きっと許可してもらえないよ。

 私達は代わりに、青スライムのぬいぐるみとゼリーをお土産に買って帰ることにした。オスカー様は、私に自分が取った勇者の木彫りをプレゼントしてくれた。

 この日、アニータちゃんの家はお祝いムードで、みんなでわいわい騒いで、とても楽しい時間を過ごした。もしも、宿題に絵日記があったなら、絶対に今日のことを書くってぐらい、とても楽しい一日だった。
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