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第1部 貴族学園編
11 冒険者ギルド
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翌日、貴族学園のスパルタ式教育をこなした後で、私とリョウ君はメイドと一緒に冒険者ギルドに寄ることにした。人生初のギルド。リョウ君は朝からそわそわしている。
「いよいよだね。ぼく、わくわくする。父様みたいな冒険者がいっぱいいるかな?」
「うーん。父様と同じSランク冒険者は、世界に3人しかいないんだって」
「そうなんだ。でも、勇者様も冒険者だったんだよ! ギルドを作ったのも勇者様だって。嬉しいな。冒険者ギルドに行くのって、勇者様にちょっとだけ近づいたみたいだよ」
無邪気に喜んでいるリョウ君に、昨日、母様から聞いた話を思い出して憂鬱になる。
冒険者ってそんなにいいものじゃないみたい。この国ではダンジョンにしか出ない魔物を、わざわざ倒しに行くんだよ。当然、死ぬ危険もある。そんな仕事をするのは、一攫千金を狙う貧乏な命知らずばかりで、気性が荒い人の集まりだっていうのが貴族の考え。だから、貴族の依頼を受けられるAランクになるには、礼儀作法を学ぶ必要がある。さらに、Sランクになるには、礼儀作法に加えて、知識、教養、高い魔力が必要だ。父様は貴族を辞めたけど、貴族だったからこそSランクの素養があった。どんなに実力があっても教養がなかったらBランクで止まってしまう。
そして、そのBランク以下の冒険者は、ならず者に近いっていうのが母様の意見。人一倍人間嫌いの母様には、雇っていいのはAランク冒険者だけと言われたけど……。
「レティシア様、こちらです」
考え込んでいると、いつの間にか馬車はギルドの前に着いていた。
メイドのメアリに抱っこされて馬車から降りた。王都の職人街の外れにあるギルドの建物は、実用性重視の装飾のない四角い箱型だ。
「姉さま」
不安そうなリョウ君の手を強く握って、メアリに続いてドアをくぐった。
事前に連絡をしていたので、貴族の対応に慣れている中年の副ギルド長がロビーの一角の応接コーナーで対応してくれた。5歳の子供だけど、一応男爵家だからか、とても丁寧にもてなしてくれる。
「なるほど、貴族学園の運動会の護衛役ですか」
「うん、僕たちの契約獣を探しに行く予行演習だよ」
「そうですね、しかし」
浮かない顔の副ギルド長は、私たちの依頼に首を横に振った。
「申し訳ありません。王都ギルド所属のAランク冒険者は、1年前から予約が入っています」
ああ、やっぱりそうか。Aランク冒険者って、あまりいないんだよね。当然、争奪戦があっただろうし。
「じゃあ、Bランクの人は?」
リョウくんの質問に、副ギルド長はまた首を振った。
「貴族学園の来園許可はAランク冒険者にしか出ておりませんので、Bランク冒険者は園に入れないと思います」
「そんな」
ああ、やっぱりこうなった。母様の話を聞いていて、嫌な予感がしたんだよね。でも、じゃあ、どうする? 護衛役なしで出場する?
「それじゃ、父様を呼んでくれますか? ぼくの父様は、クリストファー・ゴールドウィンです。Sランク冒険者です!」
「ええっ!」
リョウ君の発言に、お茶を持ってきてくれた受付の女の人が、大声で悲鳴を上げた。
「うそっ! クリス様の子供! やだ!」
「えっ!? 紫眼のクリス様の! きゃ、どの子、どの子? 見たい!」
「あの子たちが?! えぇ、なんだ、全然似てない」
「うそ、クリス様の子だっていうのに、その程度? 母親が残念なのね」
「それなら私の方がいい女なのに。ちょっと、今からでもいけるんじゃない」
冒険者の女性や受付嬢が、好き勝手に言っている。全部丸聞こえだ。
「すみません。失礼なことを……。ここは、あまり、お貴族様の来られるような場所ではないので」
副ギルド長はたしなめるような視線を女性たちに送って、困ったような顔で私達を見た。
「いえ、気にしませんから」
仕方なく、私がフォローすると、隣でリョウ君は、ばっと立ち上がった。
「みんな、ぼくよりも父様のことを知ってるんだ。ねえ、副ギルド長さん、父様は今どこにいるの? 僕の運動会に来てほしいんだ。帰ってくるように言ってよ」
「申し訳ございません。クリス様は、その、連絡をせずに1人で遠方に行かれることがよくありますので、どこかのギルドに立ち寄ることがあれば、ギルド職員から知らせてもらうことはできますが……。先月は、勇者が魔王を倒したと言われる洞窟に行くようだと東支部のギルドから知らせがありました」
「そうなんだ」
しゅんとなって、リョウ君は椅子に腰かけた。
その間にも、応接コーナーのまわりには冒険者があふれて、こっちを覗きながら、好き勝手にしゃべっている。
「クリスの野郎、俺の彼女を取っておいて、他の女と子供を作っていただと?」
「お前の女はクリスに相手にされてなかったじゃないか。この子供は品があるから、きっと相手は貴族だな」
「ええぇ。結局クリス様も身分が大事ってこと? 私の方がいい女よ。ずるいわ」
中にはけっこう卑猥な冗談を言う声も聞こえて来て、リョウ君の耳をふさぎたくなった。こんなところ、長くいちゃダメだ。
「もう、帰ろう。リョウ君」
リョウ君の手を引っ張って、メイドに合図してギルドを出ようとした。
「あの、副ギルド長さん」
でも、リョウ君は立ち止まって、副ギルド長の目をじっと見てから頭を下げた。
「ぼくも、将来冒険者になります。勇者の遺産を父様が見つけられなかったら、ぼくが必ず見つけます。その時は、よろしくお願いします」
頭をあげた時には、いつもの笑顔になっていた。
「帰ろう。姉さま」
「……うん」
真っすぐにこっちを見てくるキラキラした紫の目に、私は一瞬、言葉を失った。
ああ、いいな。私の弟。かわいくて、強い。
運動会の護衛役は、どこで見つけたらいいのか分からないけど、絶対、リョウ君を勝たせてあげたい。
必ず、姉さまが何とかするからね。
「いよいよだね。ぼく、わくわくする。父様みたいな冒険者がいっぱいいるかな?」
「うーん。父様と同じSランク冒険者は、世界に3人しかいないんだって」
「そうなんだ。でも、勇者様も冒険者だったんだよ! ギルドを作ったのも勇者様だって。嬉しいな。冒険者ギルドに行くのって、勇者様にちょっとだけ近づいたみたいだよ」
無邪気に喜んでいるリョウ君に、昨日、母様から聞いた話を思い出して憂鬱になる。
冒険者ってそんなにいいものじゃないみたい。この国ではダンジョンにしか出ない魔物を、わざわざ倒しに行くんだよ。当然、死ぬ危険もある。そんな仕事をするのは、一攫千金を狙う貧乏な命知らずばかりで、気性が荒い人の集まりだっていうのが貴族の考え。だから、貴族の依頼を受けられるAランクになるには、礼儀作法を学ぶ必要がある。さらに、Sランクになるには、礼儀作法に加えて、知識、教養、高い魔力が必要だ。父様は貴族を辞めたけど、貴族だったからこそSランクの素養があった。どんなに実力があっても教養がなかったらBランクで止まってしまう。
そして、そのBランク以下の冒険者は、ならず者に近いっていうのが母様の意見。人一倍人間嫌いの母様には、雇っていいのはAランク冒険者だけと言われたけど……。
「レティシア様、こちらです」
考え込んでいると、いつの間にか馬車はギルドの前に着いていた。
メイドのメアリに抱っこされて馬車から降りた。王都の職人街の外れにあるギルドの建物は、実用性重視の装飾のない四角い箱型だ。
「姉さま」
不安そうなリョウ君の手を強く握って、メアリに続いてドアをくぐった。
事前に連絡をしていたので、貴族の対応に慣れている中年の副ギルド長がロビーの一角の応接コーナーで対応してくれた。5歳の子供だけど、一応男爵家だからか、とても丁寧にもてなしてくれる。
「なるほど、貴族学園の運動会の護衛役ですか」
「うん、僕たちの契約獣を探しに行く予行演習だよ」
「そうですね、しかし」
浮かない顔の副ギルド長は、私たちの依頼に首を横に振った。
「申し訳ありません。王都ギルド所属のAランク冒険者は、1年前から予約が入っています」
ああ、やっぱりそうか。Aランク冒険者って、あまりいないんだよね。当然、争奪戦があっただろうし。
「じゃあ、Bランクの人は?」
リョウくんの質問に、副ギルド長はまた首を振った。
「貴族学園の来園許可はAランク冒険者にしか出ておりませんので、Bランク冒険者は園に入れないと思います」
「そんな」
ああ、やっぱりこうなった。母様の話を聞いていて、嫌な予感がしたんだよね。でも、じゃあ、どうする? 護衛役なしで出場する?
「それじゃ、父様を呼んでくれますか? ぼくの父様は、クリストファー・ゴールドウィンです。Sランク冒険者です!」
「ええっ!」
リョウ君の発言に、お茶を持ってきてくれた受付の女の人が、大声で悲鳴を上げた。
「うそっ! クリス様の子供! やだ!」
「えっ!? 紫眼のクリス様の! きゃ、どの子、どの子? 見たい!」
「あの子たちが?! えぇ、なんだ、全然似てない」
「うそ、クリス様の子だっていうのに、その程度? 母親が残念なのね」
「それなら私の方がいい女なのに。ちょっと、今からでもいけるんじゃない」
冒険者の女性や受付嬢が、好き勝手に言っている。全部丸聞こえだ。
「すみません。失礼なことを……。ここは、あまり、お貴族様の来られるような場所ではないので」
副ギルド長はたしなめるような視線を女性たちに送って、困ったような顔で私達を見た。
「いえ、気にしませんから」
仕方なく、私がフォローすると、隣でリョウ君は、ばっと立ち上がった。
「みんな、ぼくよりも父様のことを知ってるんだ。ねえ、副ギルド長さん、父様は今どこにいるの? 僕の運動会に来てほしいんだ。帰ってくるように言ってよ」
「申し訳ございません。クリス様は、その、連絡をせずに1人で遠方に行かれることがよくありますので、どこかのギルドに立ち寄ることがあれば、ギルド職員から知らせてもらうことはできますが……。先月は、勇者が魔王を倒したと言われる洞窟に行くようだと東支部のギルドから知らせがありました」
「そうなんだ」
しゅんとなって、リョウ君は椅子に腰かけた。
その間にも、応接コーナーのまわりには冒険者があふれて、こっちを覗きながら、好き勝手にしゃべっている。
「クリスの野郎、俺の彼女を取っておいて、他の女と子供を作っていただと?」
「お前の女はクリスに相手にされてなかったじゃないか。この子供は品があるから、きっと相手は貴族だな」
「ええぇ。結局クリス様も身分が大事ってこと? 私の方がいい女よ。ずるいわ」
中にはけっこう卑猥な冗談を言う声も聞こえて来て、リョウ君の耳をふさぎたくなった。こんなところ、長くいちゃダメだ。
「もう、帰ろう。リョウ君」
リョウ君の手を引っ張って、メイドに合図してギルドを出ようとした。
「あの、副ギルド長さん」
でも、リョウ君は立ち止まって、副ギルド長の目をじっと見てから頭を下げた。
「ぼくも、将来冒険者になります。勇者の遺産を父様が見つけられなかったら、ぼくが必ず見つけます。その時は、よろしくお願いします」
頭をあげた時には、いつもの笑顔になっていた。
「帰ろう。姉さま」
「……うん」
真っすぐにこっちを見てくるキラキラした紫の目に、私は一瞬、言葉を失った。
ああ、いいな。私の弟。かわいくて、強い。
運動会の護衛役は、どこで見つけたらいいのか分からないけど、絶対、リョウ君を勝たせてあげたい。
必ず、姉さまが何とかするからね。
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