【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

白崎りか

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40 青い鳥〜ギルベルト(6歳)

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 僕の名前はギルベルト。ブラウローゼ公爵家の嫡男として生まれた。
 父と母は僕を生むために、契約結婚をしたそうだ。
 二人は別々の館で暮らしている。それぞれの大切な人といっしょに。

 両親の大切な人は、僕ではなかった。
 僕は一人で残された。育ててくれたのは、一流の家庭教師たち。そして、大勢の召使い。



「半年前に生まれた妹がさ、めちゃくちゃかわいいんだ」

「おまえんちは継母じゃなかったのか? あまり家族仲が良くなかったんだろう?」

「いや、でもさ。妹が生まれてからは、家の空気が変わってさ」

 見習い騎士たちが無駄話をするのを聞きながら、僕は一人で剣を練習する。青の公爵家の跡継ぎとして、全てを完ぺきにこなさなければならない。それが僕の役割だから。

「なんかさ、こう、妹っていいよな。家族みんなが笑顔になれるっていうか」

「まあ、そうだな。貴族にとっては、子供が増えるのは良いことだからな」

「そうじゃなくて、妹がかわいいって話だよ。家の中が明るくなっていく感じでさ」

 そう言って笑った騎士のことが頭に残っていた。
 家庭教師に聞いてみる。

「妹とは良いものなの?」

「ええ、もちろん。私にも妹がいますが、仲は良いですよ。私が言うのもなんですが、器量よしで、かしこくて、今は結婚して家を出ましたが、何かあったら、絶対に私が守ると決めています」

 剣術の教師は、強面の顔をくしゃっとゆがめて、笑顔になった。

 彼には大切に思っている人がいるんだ。
 僕にはその気持ちは分からない。
 大切に思う気持ち、愛情って言うのが、僕には全然分からない。

 でも、守ってあげたいって気持ちは少しわかる。

 鳥かごの中で、青い鳥がピイピイと鳴いた。
 六歳の誕生日の贈り物だった。
 動物を世話するなんて、面倒だ。
 学ばないといけないことがたくさんあるから、動物に関わる時間なんてもったいない。

 そう思っていたけれど、手ずから餌を食べる様子に、何となく部屋に置いておくことに決めた。

「鳥。おまえはいつも鳴いてばかりだな」

 話しかけると、こっちを見て首をかしげる。
 そして、ピイピイと鳴く。

「僕が守ってやりたいと思うのは、おまえだけだよ」

 鳥かごに手を入れて、鳥の体温を感じようと手の中に握りしめた。
 きつく握りすぎたのか、鳥はピイーと苦しそうに鳴いた。

「!」

 とっさに手を放したら、青い翼をバタバタ羽ばたかせ、僕の頭の上を超えて飛んだ。

 そして、開いていた窓から出て行った。

「鳥が! 僕の鳥!」

 部屋から駆け出して、家来たちに命令する。

「僕の鳥が逃げた! 捕まえろ! 鳥が逃げたんだ!」

 庭に出て探したけれど、もうどこにも鳥の姿はなかった。
 ああ、どうしよう。
 僕から逃げて、どこに行くんだよ。
 僕を一人にするなよ。

 その日の勉強は身が入らなくて、家庭教師に叱られた。

「鳥が帰ってくるかもしれないから」

 そういって、部屋に戻ろうとしたら、恐ろしいことを言われた。

「飼われていた小鳥は、外では生きられません。もうすでに肉食の鳥や獣の餌になっているでしょうね」

 鳥はもう死んでしまったの?
 僕は、守ることができなかった。
 僕のたった一人の友達だったのに。
 手の中にあった鳥のぬくもりを思い出す。

 もう一度チャンスがあれば。
 次は絶対に守ってみせるから。

 執事から書くように言われた七歳の誕生日プレゼントの要望書に、僕は「青い鳥」と書いた。

 でも、思い直して、破って捨てる。

 新しい紙には「妹」と書いた。

 人間なら、鳥みたいにすぐ死なないだろう。翼を持たないから、僕から逃げて空に羽ばたくこともない。
 騎士が話していたような、みんなを笑顔にする妹が、どうしても欲しくなった。

 ドキドキして迎えた七歳の誕生日。
 僕はすばらしい贈り物をもらった。

 綺麗な銀色の髪の「妹」は一人ぼっちの色なしの従妹だった。
 僕しか頼れる人はいない。

 色なしは病弱で、すぐに死んでしまうそうだ。
 そんなことは、させない。
 今度は絶対に守るって決めたから。

 大切に大切に育てよう。
 僕だけの、愛する妹。

「妹」に会って、僕は生まれて初めて笑顔を浮かべた。
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