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31 緑の飾りひも

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 招待状は必要なかった。
 ルルーシア様がフードを取って金髪を見せると、学園の門番は、すぐさま中に入れてくれた。

 そうだよね。金髪は王家の証だから。ルルーシア様の進行を妨げる者はいないって。

「さあ、行くわよ。まずは、そうね。魔法研究部から見ようかしら」

 赤いフードをかぶったルルーシア様は、はずむような足取りで、どんどん廊下を進んで行った。私も遅れないように、しっかりとフードをかぶって、一生懸命それに付いて行く。

 魔法研究部の部屋に行く途中、飲食コーナーの前を通った。
 大勢の人でにぎわっている。こんなにたくさんの人がいたら、誰も私達を気にしないよね。

「ギルベルト様!」

 なのに、どうして、一番会いたくない人に会ってしまうんだろう。

 ブリーゼさんが、緑の髪を揺らしながら、男子生徒に駆け寄っているのが見えた。

「ここにいらしたのね。ねえ、一緒にお店をまわりませんか? 私のクラスの展示を説明しますわ」

「悪いけど、今は生徒会の見回りが忙しくてね」

「じゃあ、私も一緒に見回りをしますわ。それならいいでしょう?」

「それは、……仕方ないか」

 お兄様は、青い髪を一つに束ねて、背中に流している。
 見覚えのある緑色の飾りひもが、髪にしっかりと巻かれていた。

 ブリーゼさんの色だ。

 受け取ってもらえたんだ。
 そうだよね。
 ブリーゼさんは、あんなにもお兄様が好きなんだから。
 お兄様は、ブリーゼさんの気持ちに答えて、プレゼントを髪に結んだんだ。

 なんだ……。
 二人はうまくいってるじゃない。
 契約結婚だなんて言ってたけど、こんな風にブリーゼさんと幸せになれるんじゃない。
 だって、結局は、魔力の強い子供を生むことができる人が、求められてるんだから。

 後は、邪魔な私がお兄様の前から消えることだけだよね。
 ほら、お兄様はこんなに近くにいる私には、全然気が付かないんだから。

 腕にブリーゼさんをぶら下げて遠ざかるギルお兄様の背中を、静かな気持ちで見送った。

「アリアちゃん?」

 後ろから手をつかまれた。
 驚いて振り向くと、帽子をかぶった男子学生がいた。帽子の中から短い金髪が見える。
 リュカ様!

「ああ、アリアちゃんだ。よかった。やっと会えたよー」

 リュカ様はポケットから何かを出して、私の手首に結んだ。
 これは、飾りひも? 私が染めた金色の糸で編まれた飾りひもに、小さな金色の石が付いてる。
 腕輪のように金色のひもをきゅっと結んで、リュカ様は満足そうにっこり笑った。

「金眼魔物の魔石を狩りに行ってたんだ。アリアちゃんに会えなくて寂しかったよ」

「金眼魔物?」

「そう、黄金の目をした巨大なヘビ型魔物だよ。王家の森にしか生息していないんだ。ずっと森にこもって探したんだけど、ようやく見つけたのが小さい魔物だったから。小さな魔石しか取れなくてごめんね」

「そんな。そんな貴重なものを、私がもらうわけにはいけません」

「もらってくれないと困るよ。今日は好きな子に、自分の色の飾りひもをプレゼントする日だからね」

「え?」

 今、好きな子って言った? まさか、そんなわけないよね。
 リュカ様は王子様なんだから。

「アリアちゃんは、一人で来たの? まさかギルベルトと一緒?」

「いえ、私はルルーシア様と……あっ、ルルーシア様?」

 見渡したけど、どこにも赤いマントはいなかった。

「どうしよう!? 私、ルルーシア様のお付きで来たのに! ああ、どこに?」

 さあっと顔から血が引く。
 私はルルーシア様の侍女なのに。
 ああ、もう。
 自分のことばかり気にして、主人を見失うなんて。
 最低、侍女失格だ。

「そんなに慌てないでも大丈夫だよ。ここは学園だし。あ、でも、今日は部外者がたくさん入り込んでるんだったね」

「私、探してきます!」

 群衆に分け入って、廊下を進もうとする私を、リュカ様が追いかけてくる。でも、途中で帽子が脱げて、王子だってバレて、皆に囲まれた。

 私はそれを横目で見ながら、ルルーシア様が向っていた魔法研究部の部屋を目指した。
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