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25 青い魔力

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「これでいいの? おかしいな。糸にならないんだけど」

 リュカ様は、バケツにいれた魔物蟹の巣をかき交ぜた。
 その様子をみて、私も首をかしげる。リュカ様が水の中で、ぐるぐるかき回すたびに、巣がボロボロと崩れて、小さなかけらが浮いてくる。

「俺には無理みたいだ」

 リュカ様は、ため息をついて、右腕を水の中からだした。


 王宮を出た後、リュカ様は魔物蟹の糸が欲しいと言って、家について来た。
 今はないと言うと、自分で作るって言いだした。
 王子様にそんなことをさせてもいいの? 
 でも、もう礼儀とかは、今更って気もするし。
 侍女教育で王族に対する礼儀作法を習った時、さっそくリュカ様に実践したら、ものすごく機嫌を悪くされた。
 そして、二度とそんな態度はとらないようにって命令された。
 だから、仕方ないよね。

 ボロボロになった巣は、もう使い物になりそうになかったから、取り除いて別の巣を水につける。袖をまくって、バケツに腕を入れて、ぐるぐるとかき回す。白い巣の塊は、すぐにほどけて、キラキラ光る糸になる。

「へぇ。すごいね。ねえ、これって特別な水を使わないとできないんだよ」

「え? 私は、普通の井戸水を使っているんですけど」

「うん。あれから調べたんだけど、魔物蟹の巣を糸にできるのは、魔法で出した水だけらしいんだ。青い魔石の水の魔力で、魔物蟹の巣はほどけて糸になるそうだ。だから、きっと無意識にアリアちゃんは水の魔法を使ってるんだよ」

 魔法!?
 私は糸を作る魔法を使っているの? 糸に色を付けるだけじゃなくて、糸を作る魔法も?
 それが青の水の魔力?
 私にも、お母様とお父様と同じ、青の水の魔力があるの?

 リュカ様の言葉に胸が熱くなった。小さな灯がともったように。ほろほろと熱いものがほほに流れ落ちてくる。

「! アリアちゃん? どうしたの?!」

 突然、笑顔で泣き出した私にリュカ様は、びっくりしたように側に来て手を握った。水につけていたせいで、冷たくなった私の手を、リュカ様の熱くて大きな手がすっぽりと覆って温めてくれる。

「私、嬉しくて……」

 私は、水の魔力を使ってるんだ。ちゃんとお父様とお母様の子供なんだ。髪の色は青くなくても、両親の血を受け継いでるんだ。

 そのことを教えてくれたリュカ様に、
 ありがとうって言おうとしたら、

 ゆっくりと、金色の瞳が近づいてきた。

「!」

 息をのんで固まっていると、

 リュカ様の唇が、私の頬に触れた。
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