24 / 41
24 金色の威圧
しおりを挟む
「少しは見られるようになったわね」
ルルーシア様は私をちらっと見て、そう言った。
サリア先生の授業は順調だった。
一般知識がないことに初めは眉を顰められたけれど、最近は、覚えが良いと褒められることも多くなった。
「お茶をお入れします」
紅茶にジャムをたっぷり入れるのが、ルルーシア様のお好みだ。教わったやり方で、温めたカップに紅茶を注ぐ。
上手くできてるかな?
ふと、視線を感じて顔をあげると、ルルーシア様が私の髪留めを見ていた。
「黄金の髪飾り。それはどうしたの?」
「リュカ殿下から渡されました。侍女に支給されるものだそうです」
「お兄様が? あはっ。何それ? そんな高級品を侍女に支給するわけないでしょう」
「え?」
どういうこと? 支給品じゃないの?
「あの、これはお返ししておきます」
きっと、髪飾りをつけてない私を憐れんだリュカ様が、支給品ってことにしてくださったんだ。気を遣わせてしまったみたい。髪飾りは、お兄様にもらったものをたくさん持ってる。でも、全部青色。ブリーゼさんのせいで、青い物は身に着けにくくなったから。
「別に返さなくてもいいわよ。そんなことしたら、お兄様に失礼よ」
ぷいと視線をそらして、ルルーシア様は手元の本を読む。表紙には、『魔法学第245巻』と書かれていた。
245巻目の本? すごいな。1巻から読んだのかな?
することが何もないので、私も近くの椅子に座って、教本を読むことにする。
『王族と光の魔法』この本には、王族がどれだけ尊い存在なのかが詳しく書かれている。貴重な光の魔法は王族にしか使えないのに、王族はどんどん人数が少なくなっている。大切な王族を守るため、常に王女様の側に控えて、いざという時には身を挺してお守りしろと教育を受けた。魔物がこの国に入ってこないのは、光の魔法のおかげなのだから。
ちらりとルルーシア様の横顔をのぞき見する。軽くカーブを描いた淡い金の髪が頬にかかっている。
ルルーシア様には、まだ婚約者がいないそうだけど、どこかの公爵家に降嫁されるのかな? それとも、大公家の誰かに嫁がれるの?
王太子様には去年、男の子が二人生まれた。二人とも魔力が多かった。それでルルーシア様には、自由が与えられているって聞いた。でも、王族だから、政略結婚は免れないよね。
私の視線に気が付いたのか、ルルーシア様が顔をあげた。
「今日の侍女教育は終わったんでしょう? もう帰ったら? 側に人がいると集中できないの」
「はい。すみません」
ルルーシア様は一人でいるのを好まれるから、やっぱり邪魔だったんだ。私は素直に帰ることにした。
「もう帰るの?」
部屋から出たとたん、声をかけられた。リュカ様だ。
「送っていくよ。それに、ちょっと頼みもあるから」
リュカ様は私の手をとって歩き出す。
「殿下、ダメです。私は侍女ですから」
王子と手をつないで歩くなんて、周囲に見られたらひんしゅく者だ。ほら、すれ違う人が頭を下げた後、私のことをさげずむような視線を送っている。ただでさえ、色なしの私が王宮にいることは、受け入れられないだろうに。
「殿下だなんて冷たい呼び方だな。いつものように名を呼んでよ。それから、」
リュカ様は私を側に引き寄せる。そして、壁際に寄って頭を下げている王宮の召使たちに向けて、冷たい声をだした。
「彼女は、王女のただ一人の侍女だ。代わりの存在はいない。敬意を払え。これは、命令だ」
リュカ様の全身から金色の光が漏れだした。つないだ手が一瞬熱くなる。
「っ! ごめんっ! 魔力制御が!……何ともない?」
あわてた様子で、手を持ち上げられて、確かめるように指で触られる。廊下にいた近衛騎士や侍女たちが、ぐったりと床に座り込んでいるのが見えた。
「良かった。魔力抵抗が高いんだね。そうか。……やっぱり君は色なしじゃないんだね」
リュカ様がつぶやいた言葉が、小さくて聞き取れなかったので、確認しようとしたら、すぐ近くで金色の瞳が輝いていた。
「じゃあ、行こう。邪魔者もついてこれないようだしね」
手をぎゅっと握られて、引っ張られるように駆け足で、私は馬車まで連れていかれた。
ルルーシア様は私をちらっと見て、そう言った。
サリア先生の授業は順調だった。
一般知識がないことに初めは眉を顰められたけれど、最近は、覚えが良いと褒められることも多くなった。
「お茶をお入れします」
紅茶にジャムをたっぷり入れるのが、ルルーシア様のお好みだ。教わったやり方で、温めたカップに紅茶を注ぐ。
上手くできてるかな?
ふと、視線を感じて顔をあげると、ルルーシア様が私の髪留めを見ていた。
「黄金の髪飾り。それはどうしたの?」
「リュカ殿下から渡されました。侍女に支給されるものだそうです」
「お兄様が? あはっ。何それ? そんな高級品を侍女に支給するわけないでしょう」
「え?」
どういうこと? 支給品じゃないの?
「あの、これはお返ししておきます」
きっと、髪飾りをつけてない私を憐れんだリュカ様が、支給品ってことにしてくださったんだ。気を遣わせてしまったみたい。髪飾りは、お兄様にもらったものをたくさん持ってる。でも、全部青色。ブリーゼさんのせいで、青い物は身に着けにくくなったから。
「別に返さなくてもいいわよ。そんなことしたら、お兄様に失礼よ」
ぷいと視線をそらして、ルルーシア様は手元の本を読む。表紙には、『魔法学第245巻』と書かれていた。
245巻目の本? すごいな。1巻から読んだのかな?
することが何もないので、私も近くの椅子に座って、教本を読むことにする。
『王族と光の魔法』この本には、王族がどれだけ尊い存在なのかが詳しく書かれている。貴重な光の魔法は王族にしか使えないのに、王族はどんどん人数が少なくなっている。大切な王族を守るため、常に王女様の側に控えて、いざという時には身を挺してお守りしろと教育を受けた。魔物がこの国に入ってこないのは、光の魔法のおかげなのだから。
ちらりとルルーシア様の横顔をのぞき見する。軽くカーブを描いた淡い金の髪が頬にかかっている。
ルルーシア様には、まだ婚約者がいないそうだけど、どこかの公爵家に降嫁されるのかな? それとも、大公家の誰かに嫁がれるの?
王太子様には去年、男の子が二人生まれた。二人とも魔力が多かった。それでルルーシア様には、自由が与えられているって聞いた。でも、王族だから、政略結婚は免れないよね。
私の視線に気が付いたのか、ルルーシア様が顔をあげた。
「今日の侍女教育は終わったんでしょう? もう帰ったら? 側に人がいると集中できないの」
「はい。すみません」
ルルーシア様は一人でいるのを好まれるから、やっぱり邪魔だったんだ。私は素直に帰ることにした。
「もう帰るの?」
部屋から出たとたん、声をかけられた。リュカ様だ。
「送っていくよ。それに、ちょっと頼みもあるから」
リュカ様は私の手をとって歩き出す。
「殿下、ダメです。私は侍女ですから」
王子と手をつないで歩くなんて、周囲に見られたらひんしゅく者だ。ほら、すれ違う人が頭を下げた後、私のことをさげずむような視線を送っている。ただでさえ、色なしの私が王宮にいることは、受け入れられないだろうに。
「殿下だなんて冷たい呼び方だな。いつものように名を呼んでよ。それから、」
リュカ様は私を側に引き寄せる。そして、壁際に寄って頭を下げている王宮の召使たちに向けて、冷たい声をだした。
「彼女は、王女のただ一人の侍女だ。代わりの存在はいない。敬意を払え。これは、命令だ」
リュカ様の全身から金色の光が漏れだした。つないだ手が一瞬熱くなる。
「っ! ごめんっ! 魔力制御が!……何ともない?」
あわてた様子で、手を持ち上げられて、確かめるように指で触られる。廊下にいた近衛騎士や侍女たちが、ぐったりと床に座り込んでいるのが見えた。
「良かった。魔力抵抗が高いんだね。そうか。……やっぱり君は色なしじゃないんだね」
リュカ様がつぶやいた言葉が、小さくて聞き取れなかったので、確認しようとしたら、すぐ近くで金色の瞳が輝いていた。
「じゃあ、行こう。邪魔者もついてこれないようだしね」
手をぎゅっと握られて、引っ張られるように駆け足で、私は馬車まで連れていかれた。
7
お気に入りに追加
397
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで
海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。
さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。
従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。
目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。
そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!?
素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。
しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。
未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。
アデリーナの本当に大切なものは何なのか。
捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ!
※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。

【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる