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21 黄緑の侍女
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「まずは服装を変えましょう。こちらでドレスを支給します。ルルーシア様の侍女として恥ずかしくない装いをすること。それから、礼儀作法も。言葉遣いや細かい所作等を一刻も早く覚えなさい」
侍女教育のために、王宮に行くと、侍女頭補佐のサリアさんから厳しい指導を受けた。
「何よりもまず、知識をつける必要があります。初等教育を終えていないんですか? このままでは、入学テストで最下層になってしまいます。ルルーシア様はトップクラスなので、それに釣り合う成績を取ってもらわないといけません。いいですか、今からあなたには自由な時間などありません」
黄緑色の髪と目をしたサリアさんは、緑の子爵家の出身で、王宮侍女として20年以上仕えているとか。とても厳しいことを言われたけれど、これが今の私の実力だ。
「あの、質問してもいいですか?」
「なんです?」
「王女様に挨拶に行かなくていいんでしょうか?」
「姫様は今日は、魔法塔に行っています。しばらく王宮には帰ってこないでしょう」
そうなんだ。王女様には会えないんだ。リュカ様には会ってるのに。
あれから、毎日のようにリュカ様はうちに来るようになった。学園から歩いてこれる場所にあるのが、ちょうどよかったみたい。授業をサボる口実にされている。
リュカ様は突然やって来ては、私にいっぱいお土産を渡してくれる。学園前のケーキ屋で買ったチョコレートプリンとか、キャンディショップのカラフルな飴の入ったビンとか。
一緒に食べながら、私の勉強を見てくれるのが日課になってしまった。最近は、全然会えないギルお兄様の代わりに、私の話を聞いてくれる。
「とにかく、早急に教育が必要です。ところで、王族についてはどれくらい学びました?」
「金色の髪と目で、光魔法が使える高貴な方々です」
机についてさっそく、サリア先生のテストが始まった。
私は本で読んだ知識を思い出しながら答える。
「この国に魔物が入れない結界を張るために、絶対に必要な力が光魔法です。光魔法は王族にしか出現しないため、最も偉大で敬うべき方です」
「そうですね。結界魔道具は、光の魔力を注がなければ起動できません。光の魔力は結界の維持に必要不可欠なのです。でも、王族の力はそれだけではないですよね」
「はい。魔物を消滅させる浄化の力があります」
「その通り。三大魔法を使って、魔物を焼き殺したり、切り殺したりはできます。でも、光の魔法は、一瞬で魔物を消滅させることができるほど強力な魔法なのです。その力は、三大魔法をしのぎます。そして、また、治療にも使えます」
「あ、魔障の、魔物障害の浄化治療ですね」
「そう。稀に、魔物に強い拒否反応を起こす者がいます。魔障により、皮膚の黒石化が進み、やがて石になってしまいます。それを治療するのが光の魔法です」
魔物障害は、乳母が一番怖がっていた病気だ。魔物に近よると危ないからと外出を禁じられていた。そんな私が、今は魔物蟹と一緒に元気に暮らしているなんて。亡くなった乳母が聞いたらひっくり返りそうだわ。
なんてことを考えていると、サリア先生が難しそうな顔をした。
「ルルーシア様はそのどれも、力を使うことを拒否されています」
「え?」
「王族の務めである光の魔法を使うことを、強く拒否されているのです」
「それは、……」
どうしてなの? 貴族が嫌いって言ってたから、やりたくないの?
公爵家のギルお兄様は、小さいころから結界道具の魔石に魔力を補充していた。それが貴族の務めだからと。私だって、もしも力があったなら、子爵家の結界魔石に魔力を使いたかった。でも、私は色なしだから、できない。
「ルルーシア様の分は、リュカ殿下が補っているので、今の所、問題は起きておりませんが。あなたが侍女となったなら、光魔法を使うようにルルーシア様を諭すのも、大切な仕事ですよ」
「はい」
そう答えたけれど、私にそんなことできるわけがない。あのルルーシア様に言うことを聞いてもらうなんて無理だよ。サリア先生にできないことが私にできるとは思えない。
どうしてルルーシア様は魔法を使わないんだろう?
「あなたを侍女にすることで、ますますルルーシア様は立場を落とされるでしょうに……」
つぶやき声に、顔がこわばる。
分かってる。私みたいな色なしが侍女になったら、ルルーシア様の評判が悪くなる。
「まあでも、いいでしょう。あなたは、多分、特別なのでしょうね。その年まで健康に生きている色なしの令嬢には、初めて会いましたから。魔法が使えないのは平民も同じですし。平民を侍女にするわけにもいけませんからね。幸い、あなたの見た目は、色以外は悪くないです。さあ、しっかり学びなさい」
「……はい」
がんばろう。少なくとも、サリア先生は私に勉強を教えてくれる。色なしに対しての嫌悪感はあるかもしれないけれど、それをぶつけてくることもない。きっと、一番良い教師をつけてくれたんだ。
私は、がんばってルルーシア様の侍女になる。
お兄様に認めてもらうために。
私は一人で大丈夫だって分かってもらえたら、きっと、
お兄様は本当に好きな人と結婚できる。
あんな、意地悪なブリーゼさんじゃなくて、もっとお兄様にふさわしい優しい人と。
サリア先生のきっちりまとめた黄緑色の髪を見ながら、ブリーゼさんのくせの強い緑色の髪を思い出した。
侍女教育のために、王宮に行くと、侍女頭補佐のサリアさんから厳しい指導を受けた。
「何よりもまず、知識をつける必要があります。初等教育を終えていないんですか? このままでは、入学テストで最下層になってしまいます。ルルーシア様はトップクラスなので、それに釣り合う成績を取ってもらわないといけません。いいですか、今からあなたには自由な時間などありません」
黄緑色の髪と目をしたサリアさんは、緑の子爵家の出身で、王宮侍女として20年以上仕えているとか。とても厳しいことを言われたけれど、これが今の私の実力だ。
「あの、質問してもいいですか?」
「なんです?」
「王女様に挨拶に行かなくていいんでしょうか?」
「姫様は今日は、魔法塔に行っています。しばらく王宮には帰ってこないでしょう」
そうなんだ。王女様には会えないんだ。リュカ様には会ってるのに。
あれから、毎日のようにリュカ様はうちに来るようになった。学園から歩いてこれる場所にあるのが、ちょうどよかったみたい。授業をサボる口実にされている。
リュカ様は突然やって来ては、私にいっぱいお土産を渡してくれる。学園前のケーキ屋で買ったチョコレートプリンとか、キャンディショップのカラフルな飴の入ったビンとか。
一緒に食べながら、私の勉強を見てくれるのが日課になってしまった。最近は、全然会えないギルお兄様の代わりに、私の話を聞いてくれる。
「とにかく、早急に教育が必要です。ところで、王族についてはどれくらい学びました?」
「金色の髪と目で、光魔法が使える高貴な方々です」
机についてさっそく、サリア先生のテストが始まった。
私は本で読んだ知識を思い出しながら答える。
「この国に魔物が入れない結界を張るために、絶対に必要な力が光魔法です。光魔法は王族にしか出現しないため、最も偉大で敬うべき方です」
「そうですね。結界魔道具は、光の魔力を注がなければ起動できません。光の魔力は結界の維持に必要不可欠なのです。でも、王族の力はそれだけではないですよね」
「はい。魔物を消滅させる浄化の力があります」
「その通り。三大魔法を使って、魔物を焼き殺したり、切り殺したりはできます。でも、光の魔法は、一瞬で魔物を消滅させることができるほど強力な魔法なのです。その力は、三大魔法をしのぎます。そして、また、治療にも使えます」
「あ、魔障の、魔物障害の浄化治療ですね」
「そう。稀に、魔物に強い拒否反応を起こす者がいます。魔障により、皮膚の黒石化が進み、やがて石になってしまいます。それを治療するのが光の魔法です」
魔物障害は、乳母が一番怖がっていた病気だ。魔物に近よると危ないからと外出を禁じられていた。そんな私が、今は魔物蟹と一緒に元気に暮らしているなんて。亡くなった乳母が聞いたらひっくり返りそうだわ。
なんてことを考えていると、サリア先生が難しそうな顔をした。
「ルルーシア様はそのどれも、力を使うことを拒否されています」
「え?」
「王族の務めである光の魔法を使うことを、強く拒否されているのです」
「それは、……」
どうしてなの? 貴族が嫌いって言ってたから、やりたくないの?
公爵家のギルお兄様は、小さいころから結界道具の魔石に魔力を補充していた。それが貴族の務めだからと。私だって、もしも力があったなら、子爵家の結界魔石に魔力を使いたかった。でも、私は色なしだから、できない。
「ルルーシア様の分は、リュカ殿下が補っているので、今の所、問題は起きておりませんが。あなたが侍女となったなら、光魔法を使うようにルルーシア様を諭すのも、大切な仕事ですよ」
「はい」
そう答えたけれど、私にそんなことできるわけがない。あのルルーシア様に言うことを聞いてもらうなんて無理だよ。サリア先生にできないことが私にできるとは思えない。
どうしてルルーシア様は魔法を使わないんだろう?
「あなたを侍女にすることで、ますますルルーシア様は立場を落とされるでしょうに……」
つぶやき声に、顔がこわばる。
分かってる。私みたいな色なしが侍女になったら、ルルーシア様の評判が悪くなる。
「まあでも、いいでしょう。あなたは、多分、特別なのでしょうね。その年まで健康に生きている色なしの令嬢には、初めて会いましたから。魔法が使えないのは平民も同じですし。平民を侍女にするわけにもいけませんからね。幸い、あなたの見た目は、色以外は悪くないです。さあ、しっかり学びなさい」
「……はい」
がんばろう。少なくとも、サリア先生は私に勉強を教えてくれる。色なしに対しての嫌悪感はあるかもしれないけれど、それをぶつけてくることもない。きっと、一番良い教師をつけてくれたんだ。
私は、がんばってルルーシア様の侍女になる。
お兄様に認めてもらうために。
私は一人で大丈夫だって分かってもらえたら、きっと、
お兄様は本当に好きな人と結婚できる。
あんな、意地悪なブリーゼさんじゃなくて、もっとお兄様にふさわしい優しい人と。
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