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17 緑の嫉妬〜ブリーゼ2
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待ちに待った婚約発表パーティの日、両親とともに公爵夫妻に挨拶していると、ギルベルト様の姿が見えなくなった。
どこにいるの?
使用人に問いただしても、意味ありげに目くばせをしあうだけ。
いいわよ。自分で探すわ。
広い公爵家の庭で、薔薇園を見つけたわ。本当はこの場所でパーティを開きたかったのに。そこは亡き妹のための庭だったからと公爵に断られたのよね。公爵の妹って、身分違いの恋愛をして勘当されたって聞いたわ。貧乏な子爵なんかと結婚したから、色なしの子供を生むのよ。まったく、迷惑だわ。厄介者の色なしなんて……。
イライラしながら、薔薇の匂いをたどっていくと、そこには、青い髪のギルベルト様が見えた。
「ギルベルト様! こちらにいらしたのですね!」
駆け寄って声を掛けるまで、彼は私に気づかずに隣の女と話をしていた。親密そうに。まぶしい光が反射して虹色に見える髪色の女。
どこの女よ! 人の婚約者と何をしてるのよ!
! ギルベルト様の手が、女の手にくっついているわ!
許せない!
「何をしているんですの!」
かっとなって、私はその女の腕を引っ張って、離れさせた。
「ブリーゼ嬢! 何をするんだ」
ギルベルト様は女をかばうように立ちあがって、私をにらみつけた。
どうして?! 信じられないわ!
「私という婚約者がいながら、目の前で浮気なんてあんまりですわ!」
でも、私の訴えを、ギルベルト様は否定した。
「浮気だなんて、彼女は僕の従妹だ! 妹のような子だ」
「従妹?! この子が? うそ! うそよ。だって、それって、色なしの子どもだって……。」
そんな、まさか。
色なしは子供の時に死ぬんでしょう? この女は、そんな年齢じゃないじゃないわ。それに、髪の色もなんだか光っているし。でも、そうね、よく見ると、
「白髪なの? でも、だって、とても健康に見えるわ」
色なしの子供は病弱で起き上がることもできないんじゃなかったの? ベッドで一生を過ごすはずでしょう? 7歳まで生きられないって言われてるのに。
「彼女は奇跡なんだよ。この年まで、元気に生きてくれている。髪と目も、白ではなく美しい銀色だ。僕のとても大切な従妹だ」
「そんな……。色なしだっていうから、てっきり、寝たきりでベッドから出てこれないと思ってたのに……。」
「アリアは、健康だけど、かわいそうな子なんだ。色なしで、魔力なしだから苦しんでいる。両親を亡くして寂しい思いをしているんだ。アリアを守れるのは僕だけだ。僕と結婚したいのなら、契約通りアリアに優しくしてほしい」
そんなの、ありえない!
だって、それじゃあ、私はこの女と一緒に住まないといけないの? そんな、まさか。
「だって、色なしの子は、病弱ですぐに死ぬって聞いたから……だから私、契約を」
「なんてひどいことを言うんだ!」
私の正直な言葉に、ギルベルト様は眉を寄せて声を荒げた。
「ち、違うわ! ギルベルト様がいけないのよ。婚約発表の時間なのに、私のことを放っておいて、こんな子と二人きりでいるなんて! みんな探してたのに!」
「ああ……婚約発表か」
ギルベルト様は、やっと自分の失敗を分かってくれた。そうよ。今日は婚約発表よ。私を放って、こんな女と一緒にいるなんて許されないのよ。
「ごめん、アリア。もう行かないと。メイドにケーキを持ってこさせるから、ここでゆっくりして行くといいよ。また、来るからね」
彼は、私には向けたこともないような優しい笑顔を色なしの女に向ける。
女も、彼をすがるような目で見つめる。
なによ、これ。まるで、二人がとても親密な間柄みたいに見えるじゃない。
ひどいわ。ギルベルト様の婚約者は、私よ。
許せない。この女。色なしのくせに!!
あんたなんて、早く死ねばいいのよ!
ギルベルト様は私のものよ。絶対に渡さないんだから!
その後、ギルベルト様との婚約発表はあっさりと終わった。
招待客から祝いの言葉をもらって、ギルベルト様は私の側を離れて友人たちと談笑している。
私はまた、放っておかれた。
テーブルの上を見ると、さっきギルベルト様が公爵に自慢していた刺繍入りのハンカチが置いてあった。
「アリアが僕のために縫ってくれたんだ」
そう言った時のギルベルト様の甘い声が、自分以外の女に向けられていることに激しい怒りを感じた。
あの女に思い知らせてやらなきゃ。
私は、ハンカチをつかんで立ち上がった。
どこにいるの?
使用人に問いただしても、意味ありげに目くばせをしあうだけ。
いいわよ。自分で探すわ。
広い公爵家の庭で、薔薇園を見つけたわ。本当はこの場所でパーティを開きたかったのに。そこは亡き妹のための庭だったからと公爵に断られたのよね。公爵の妹って、身分違いの恋愛をして勘当されたって聞いたわ。貧乏な子爵なんかと結婚したから、色なしの子供を生むのよ。まったく、迷惑だわ。厄介者の色なしなんて……。
イライラしながら、薔薇の匂いをたどっていくと、そこには、青い髪のギルベルト様が見えた。
「ギルベルト様! こちらにいらしたのですね!」
駆け寄って声を掛けるまで、彼は私に気づかずに隣の女と話をしていた。親密そうに。まぶしい光が反射して虹色に見える髪色の女。
どこの女よ! 人の婚約者と何をしてるのよ!
! ギルベルト様の手が、女の手にくっついているわ!
許せない!
「何をしているんですの!」
かっとなって、私はその女の腕を引っ張って、離れさせた。
「ブリーゼ嬢! 何をするんだ」
ギルベルト様は女をかばうように立ちあがって、私をにらみつけた。
どうして?! 信じられないわ!
「私という婚約者がいながら、目の前で浮気なんてあんまりですわ!」
でも、私の訴えを、ギルベルト様は否定した。
「浮気だなんて、彼女は僕の従妹だ! 妹のような子だ」
「従妹?! この子が? うそ! うそよ。だって、それって、色なしの子どもだって……。」
そんな、まさか。
色なしは子供の時に死ぬんでしょう? この女は、そんな年齢じゃないじゃないわ。それに、髪の色もなんだか光っているし。でも、そうね、よく見ると、
「白髪なの? でも、だって、とても健康に見えるわ」
色なしの子供は病弱で起き上がることもできないんじゃなかったの? ベッドで一生を過ごすはずでしょう? 7歳まで生きられないって言われてるのに。
「彼女は奇跡なんだよ。この年まで、元気に生きてくれている。髪と目も、白ではなく美しい銀色だ。僕のとても大切な従妹だ」
「そんな……。色なしだっていうから、てっきり、寝たきりでベッドから出てこれないと思ってたのに……。」
「アリアは、健康だけど、かわいそうな子なんだ。色なしで、魔力なしだから苦しんでいる。両親を亡くして寂しい思いをしているんだ。アリアを守れるのは僕だけだ。僕と結婚したいのなら、契約通りアリアに優しくしてほしい」
そんなの、ありえない!
だって、それじゃあ、私はこの女と一緒に住まないといけないの? そんな、まさか。
「だって、色なしの子は、病弱ですぐに死ぬって聞いたから……だから私、契約を」
「なんてひどいことを言うんだ!」
私の正直な言葉に、ギルベルト様は眉を寄せて声を荒げた。
「ち、違うわ! ギルベルト様がいけないのよ。婚約発表の時間なのに、私のことを放っておいて、こんな子と二人きりでいるなんて! みんな探してたのに!」
「ああ……婚約発表か」
ギルベルト様は、やっと自分の失敗を分かってくれた。そうよ。今日は婚約発表よ。私を放って、こんな女と一緒にいるなんて許されないのよ。
「ごめん、アリア。もう行かないと。メイドにケーキを持ってこさせるから、ここでゆっくりして行くといいよ。また、来るからね」
彼は、私には向けたこともないような優しい笑顔を色なしの女に向ける。
女も、彼をすがるような目で見つめる。
なによ、これ。まるで、二人がとても親密な間柄みたいに見えるじゃない。
ひどいわ。ギルベルト様の婚約者は、私よ。
許せない。この女。色なしのくせに!!
あんたなんて、早く死ねばいいのよ!
ギルベルト様は私のものよ。絶対に渡さないんだから!
その後、ギルベルト様との婚約発表はあっさりと終わった。
招待客から祝いの言葉をもらって、ギルベルト様は私の側を離れて友人たちと談笑している。
私はまた、放っておかれた。
テーブルの上を見ると、さっきギルベルト様が公爵に自慢していた刺繍入りのハンカチが置いてあった。
「アリアが僕のために縫ってくれたんだ」
そう言った時のギルベルト様の甘い声が、自分以外の女に向けられていることに激しい怒りを感じた。
あの女に思い知らせてやらなきゃ。
私は、ハンカチをつかんで立ち上がった。
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