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16 緑の嫉妬〜ブリーゼ1
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私はブリーゼ。ヴィント伯爵家の三番目の子供よ。小さいころは体が弱かったから、領地で育てられたの。魔力が多かったせいよ。体になじむのに時間がかかったの。
でも、やっと健康になった時、髪色が一族の中でも、ひときわ濃い緑色になったの。
学園入学のために王都に来た時、私の婚約者はまだ決まってなかったわ。
お姉さまよりもずっと格上の相手と結婚してやるんだから。
高位貴族以外はお断りよ。
だって、私はヴィント伯爵家で一番の魔力持ちだもの。
入学式の時、運命の人を見かけたの。一目惚れよ。
「青い髪ならギルベルト様ね。ブラウローゼ公爵家の跡継ぎで、とても優秀な方よ」
同じクラスの友人が教えてくれる。
三大公爵家の跡継ぎなら、きっともう婚約者がいるわよね。
相手は、他の公爵家の娘? もしかして王女とか?
くやしい。私がもっと上の身分に生まれていたら。
お父様の爵位が、私に見合わないことを残念に思っていると、
「え? 婚約者はいないの?」
「ええ、だって、ねえ。あの条件がね」
「そうよね、色なしと一緒に暮らすなんてね」
友人たちは首をふる。色なし? あの方の兄弟に無色で生まれた恥知らずがいるの?
「まあ、あまり悪く言うのもかわいそうだけど、でも、色なしはねえ、不吉だもの」
「魔力がぜんぜんないんでしょう? 色なしが魔力を奪うって物語を読んだことがあるわ。ちょっと怖いわ」
ギルベルト様は色なしの従妹を、結婚後に引き取って一緒に住むそうだ。それが婚約相手に望む条件だとか。
たしかに、色なしなんて不吉で気持ち悪いわ。でも、それを我慢するだけで、あの方が手に入るのなら。
「色なしが魔力を奪うなんて、ただの迷信よ。色なしは魔法が使えないから、そんなことできるわけないじゃない。ギルベルト様は本当に優しい方ね。かわいそうな子供の世話をするなんて、崇高な方」
父に頼んで婚約を申し込みましょう。
だって、色なしってどうせ早死にするんだから。7歳まで生きられた子はいないって聞いたわ。だったら、数年だけの我慢よ。一緒に暮らすのはものすごく嫌だけど、寝たきりの子供よ。部屋に閉じ込めて、メイドに世話させればいいのよ。それだけで、あの方が私のモノになるのなら。私が公爵夫人になれるのなら。
「ええ、まあ、そうよね。ブリーゼさんがそれでいいのならね。だって、ギルベルト様は、とっても、とっても、優しい方だものね」
「そうそう。かわいそうな、ただの従妹に優しくしているだけよね」
ギルベルト様との結婚を夢見る私は、友人が意味ありげに目くばせしている理由に気が付かなかった。
すぐにまとまった婚約に浮かれて、契約書も読まずにサインした。難しい文章って大嫌い。だって頭が痛くなるんだもの。
お父様とお母様が、「本当にいいのか」って何度も聞いてきたけど、ギルベルト様と結婚できるのよ。なんだってするわ。
生徒会に入って忙しくなったギルベルト様は、婚約後も私とデートする時間を取ってくれなかった。
「ギルベルト様、ドレス選びに付き合ってくださいませ。公爵家の嫁として、ふさわしいドレスを仕立てたいわ。ギルベルト様に選んでほしいの」
「ああ、ごめん。その日は従妹とお茶会なんだ。君は何を着ても似合うから、任せるよ」
「でしたら、今日の帰りに髪飾りを選びに行くのに付き合ってください。婚約者の務めでしてよ」
「うん、そうだね。それくらいだったら。生徒会の後なら少し時間は取れるかな」
いつも従妹を最優先する婚約者に、イライラする。
我慢しなきゃ。相手は病弱な子供よ。すぐに死んでしまうんだから、優しいギルベルト様が放っておけないだけよ。こんなのは今だけ。私は、婚約者として、おおらかな心を示さないとね。そうよ。新居が完成する頃にはきっと、寝たきりの子供はこの世にはいないわ。
そうやって、自分を慰めているのに、優しいギルベルト様は放課後の買い物でも、
「このレモン飴を包んでくれ」
店員に命じているのを聞いて、てっきり私へのプレゼントだって思ったの。
「わたくしは、レモンよりもイチゴ味の方が好きですわ」
さりげなくギルベルト様の間違いを正したのに、
「ああ、そうなんだね。うちのアリアはレモン味が好きなんだ。口の中がさっぱりして、涼しくなった気がするって言ってたよ。かわいいだろう?」
「……ええ。そう、従妹のアリアちゃんのためなのね」
落ち着くのよ。そうよ、家から出ることのできない病弱な子供への贈り物よ。嫉妬することないわよね。
「そこの青いリボンも包んでくれ。アリアの髪には青色が一番似合うから。ああ、でもそれだと全身青色になってしまうかな。その紫色のレースのリボンにしようか。あの子には何色でも似合うから」
「ねえ、ギルベルト様。私、この青い髪留めが欲しいわ」
「ああ、そう? いいのでは?」
ギルベルト様は、子供へのプレゼントを選ぶのに夢中で、私の方を向いてもくれない。どうしたらこの方を振り向かせることができるの? 色なしの子供なんて、はやく死んでくれたらいいのに。そうしたら、私は悲しむ彼を慰めて、私のことだけを考えるようにしてあげられるのに。
きっともう少しの我慢よ。色なしには生きる力はないもの。
でも、それなのに……。
でも、やっと健康になった時、髪色が一族の中でも、ひときわ濃い緑色になったの。
学園入学のために王都に来た時、私の婚約者はまだ決まってなかったわ。
お姉さまよりもずっと格上の相手と結婚してやるんだから。
高位貴族以外はお断りよ。
だって、私はヴィント伯爵家で一番の魔力持ちだもの。
入学式の時、運命の人を見かけたの。一目惚れよ。
「青い髪ならギルベルト様ね。ブラウローゼ公爵家の跡継ぎで、とても優秀な方よ」
同じクラスの友人が教えてくれる。
三大公爵家の跡継ぎなら、きっともう婚約者がいるわよね。
相手は、他の公爵家の娘? もしかして王女とか?
くやしい。私がもっと上の身分に生まれていたら。
お父様の爵位が、私に見合わないことを残念に思っていると、
「え? 婚約者はいないの?」
「ええ、だって、ねえ。あの条件がね」
「そうよね、色なしと一緒に暮らすなんてね」
友人たちは首をふる。色なし? あの方の兄弟に無色で生まれた恥知らずがいるの?
「まあ、あまり悪く言うのもかわいそうだけど、でも、色なしはねえ、不吉だもの」
「魔力がぜんぜんないんでしょう? 色なしが魔力を奪うって物語を読んだことがあるわ。ちょっと怖いわ」
ギルベルト様は色なしの従妹を、結婚後に引き取って一緒に住むそうだ。それが婚約相手に望む条件だとか。
たしかに、色なしなんて不吉で気持ち悪いわ。でも、それを我慢するだけで、あの方が手に入るのなら。
「色なしが魔力を奪うなんて、ただの迷信よ。色なしは魔法が使えないから、そんなことできるわけないじゃない。ギルベルト様は本当に優しい方ね。かわいそうな子供の世話をするなんて、崇高な方」
父に頼んで婚約を申し込みましょう。
だって、色なしってどうせ早死にするんだから。7歳まで生きられた子はいないって聞いたわ。だったら、数年だけの我慢よ。一緒に暮らすのはものすごく嫌だけど、寝たきりの子供よ。部屋に閉じ込めて、メイドに世話させればいいのよ。それだけで、あの方が私のモノになるのなら。私が公爵夫人になれるのなら。
「ええ、まあ、そうよね。ブリーゼさんがそれでいいのならね。だって、ギルベルト様は、とっても、とっても、優しい方だものね」
「そうそう。かわいそうな、ただの従妹に優しくしているだけよね」
ギルベルト様との結婚を夢見る私は、友人が意味ありげに目くばせしている理由に気が付かなかった。
すぐにまとまった婚約に浮かれて、契約書も読まずにサインした。難しい文章って大嫌い。だって頭が痛くなるんだもの。
お父様とお母様が、「本当にいいのか」って何度も聞いてきたけど、ギルベルト様と結婚できるのよ。なんだってするわ。
生徒会に入って忙しくなったギルベルト様は、婚約後も私とデートする時間を取ってくれなかった。
「ギルベルト様、ドレス選びに付き合ってくださいませ。公爵家の嫁として、ふさわしいドレスを仕立てたいわ。ギルベルト様に選んでほしいの」
「ああ、ごめん。その日は従妹とお茶会なんだ。君は何を着ても似合うから、任せるよ」
「でしたら、今日の帰りに髪飾りを選びに行くのに付き合ってください。婚約者の務めでしてよ」
「うん、そうだね。それくらいだったら。生徒会の後なら少し時間は取れるかな」
いつも従妹を最優先する婚約者に、イライラする。
我慢しなきゃ。相手は病弱な子供よ。すぐに死んでしまうんだから、優しいギルベルト様が放っておけないだけよ。こんなのは今だけ。私は、婚約者として、おおらかな心を示さないとね。そうよ。新居が完成する頃にはきっと、寝たきりの子供はこの世にはいないわ。
そうやって、自分を慰めているのに、優しいギルベルト様は放課後の買い物でも、
「このレモン飴を包んでくれ」
店員に命じているのを聞いて、てっきり私へのプレゼントだって思ったの。
「わたくしは、レモンよりもイチゴ味の方が好きですわ」
さりげなくギルベルト様の間違いを正したのに、
「ああ、そうなんだね。うちのアリアはレモン味が好きなんだ。口の中がさっぱりして、涼しくなった気がするって言ってたよ。かわいいだろう?」
「……ええ。そう、従妹のアリアちゃんのためなのね」
落ち着くのよ。そうよ、家から出ることのできない病弱な子供への贈り物よ。嫉妬することないわよね。
「そこの青いリボンも包んでくれ。アリアの髪には青色が一番似合うから。ああ、でもそれだと全身青色になってしまうかな。その紫色のレースのリボンにしようか。あの子には何色でも似合うから」
「ねえ、ギルベルト様。私、この青い髪留めが欲しいわ」
「ああ、そう? いいのでは?」
ギルベルト様は、子供へのプレゼントを選ぶのに夢中で、私の方を向いてもくれない。どうしたらこの方を振り向かせることができるの? 色なしの子供なんて、はやく死んでくれたらいいのに。そうしたら、私は悲しむ彼を慰めて、私のことだけを考えるようにしてあげられるのに。
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でも、それなのに……。
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