【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

白崎りか

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13 白く光る

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 馬車から降りて家に入ると緊張が解けて、涙がぶわっとあふれ出した。

「わたし、侍女になんてなりたくない! すごくこわい! 学園になんて、行きたくない!」

 誰もいない廊下に向って大声で叫んだ。持っていたポシェットが床に落ちる。
 ゆるんだ開閉口から、小枝に巻き付けた糸が散らばり落ちた。
 たくさんの金色の糸。
 実験だと言われて、何度も染色させられた。リュカ様の黄金色の糸がほんのりと光って見える。

「これ、全部売ってやるんだから。金色の糸なんて珍しいから、高値で売れるんだから」

 涙をぬぐって、こぼれた糸をひらう。

 廊下の向こうまで転がった糸を拾いに行く途中で、暗闇で白く光る巨大な塊が見えた。
 魔物蟹の巣だ。

 朝にはなかったのに……。

 私の背の半分ぐらいの大きさの巣の前には、脱皮したのか大きな黒いハサミが落ちていた。
 黒光りする鋭い刃を拾って、柱と巣の間の糸を断ち切る。パチン、パチンと大きな音を立てて切り放すと、床に白い塊がゴトンと落ちた。
 中に何も入っていないことにほっとする。
 この大きさの巣の持ち主には、出会いたくない。
 きっと、恐怖で叫んでしまうだろう。


 水を張ったバスタブに、ねばねばした巣の塊を入れる。そして腕を入れて、ぐるぐるかき混ぜる。少しずつ、粘りが取り除かれて、巣が糸に変わっていく。
 ぐるぐるぐるぐる。
 腕が痛くなるくらい混ぜ続ける。水と一緒に、白く光る糸も回る。

 今までで一番太い糸。乾いたら少し縮むかもしれないけれど、この太さならレース編みができるかも。綺麗な色に染めて、細かいレースを編んで、ハンカチの縁飾りにする? そのままリボンにしてもいいかもしれない。たくさん作って、ドレスを飾るのも悪くないかも。

 この糸を干して乾かして、たくさんレース編みをしよう。きっと、今日のことをうんざりするほど考えて、不安になるから。気を紛らわすための手作業が必要になるはず。

 自由奔放で好き勝手なことをする王族。

 でも、……王女様は、引きこもりだと言われていたけれど、そうじゃなかったのね。

 魔法塔で魔力と血筋の研究をしているんだって。その実力は次期魔法当主と言われるほど、頭がいいと評判だって。

 それに、リュカ様は、まだ学生なのに騎士団と一緒に辺境まで出向いて、魔物を討伐しているって言ってた。

 辺境には、黒い髪に黒い目の一族が住んでいるとか。
 魔物と同じ黒色の人間がいるなんて、恐ろしい……。
 きっと、色なしの私と同じくらい気味悪がられているのだろう。

 王族の二人は、しっかりと自分の考えを持っていて活躍している。私とは全然違う。
 だって、私は色なしだから、何もできなくても仕方ないから……。

 ううん、違う。色なしを理由に、何もしようとしなかったんだ。

 リュカ様は、私が侍女になるのが良いことだって言ってた。
 これは、私が代わるチャンスなのかもしれない。
 でも、本当に、侍女なんて私にできるの?
 みんなに嫌がられるって分かってるのに。

 でも……。

 王族の二人は、私を混乱させたけれど、強い影響を与えた。

 きっと、色なしの私はひどいことを言われて、いじめられるだろう。でも、もしも学園で学ぶことができたのなら……。

 私にも少しは価値が出てくるのだろうか。

 打ち消しても打ち消しても、そんな夢のような希望を抱かずにはいられなくなった。
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