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30 メアリー

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私はメアリー。侯爵令嬢のリリアーヌ様の侍女に選ばれたの。

 領地に静養に来るリリアーヌ様を迎えに王都へ行ったわ。初めて会ったリリアーヌ様は美しいと評判の姿とは違って、全身包帯でぐるぐる巻きになっていて、びっくりしたわ。でも、その包帯の中で光った紫色の瞳がとてもきれいだったから、一目で好きになったの。この方にお仕えできることが、とてもうれしかった。

 領地に向う途中で、馬車の中で泣き出したお嬢様の包帯が取れたの。すごく綺麗な顔をしていたわ。こんな美人は田舎には絶対いない。お仕えする方がきれいだと、やる気が出るわね。それに、きれいなだけじゃなくて優しい。私にもお菓子を分けてくれるし。

 領地に行ってから、リリアーヌ様はすっかり元気になった。
 毎日、羊を追いかけて丘を駆け回っている。大貴族のお嬢様なのに、全然威張ったところがない。健康的なお嬢様よ。私はますますお嬢様が大好きになった。でも、家庭教師がお嬢様に余計なことを言ったみたい。急によそよそしくなってしまった。そりゃあね、私はほとんど平民に近い男爵家の娘だし、侍女として雇われてる身だから、仕方ないのかな。でも、さみしい。
 一緒に伯母様のお茶会に参加した時には、すっかり貴族的なお嬢様になっていた。そこで、すごい美貌の魔法医に会った気がするんだけど、なんかよく覚えてないわ。

 領地から王都に帰る時に、私も侍女として一緒に連れて行ってもらったのよ。でも、幼馴染のトビーと婚約が決まりそうだから、1年だけの約束で。

 お嬢様はすぐに神殿に入ったわ。
 神殿って、相当儲かる場所なのね。豪華で大きな建物がいくつもあるのよ。中に入るとお金がかかってそうなカーペットが敷いてあって、あちこちに高級そうな絵画が飾ってあるの。どこでお金を稼いでいるのかと思っていたら、全部お嬢様の聖水のおかげだった。

 リリアーヌお嬢様は虹色の聖水を作ることができて、それは、どんな怪我や病気も一瞬で治すことができる奇跡の効果があるんだって。金貨100枚で売られているそうよ。平民には手が届かない価格だわ。平民の聖女の中で次の大聖女だって言われて調子に乗っている聖女オディットの聖水の2倍の金額よ。
 でも、その売り上げは一切リリアーヌお嬢様には還元されない。それどころか、自分で余分に作った聖水を自分でお金をだして買わなきゃいけないの? そんなのおかしくない?
 でも、アルフレッド王子様に嬉しそうにそれを届けるリリアーヌ様を見ていると、何も言えなくなった。いつも悲しそうに微笑んでいるリリアーヌ様が、アルフレッド王子様に会った時だけは、満開の花のようにキラキラした笑顔を見せるのよ。紫の綺麗な瞳を輝かせながら、アルフレッド王子様の隣に寄り添うリリアーヌ様は、神殿に飾ってある絵画よりも美しかった。二人は親密になって、オディットなんかに負けずに一緒に幸せになるって思っていたのに……。

 王妃様のお茶会から帰って来てから、リリアーヌお嬢様はベッドから出ずに泣いてばかりだった。何があったの? 私は一緒に行くことができなかった。近衛兵が強引に連れて行ったから。すぐに侯爵家に連絡して抗議してもらったからか、その後すぐにお嬢様が神殿に帰ってこられたんだけど……。
 何も話さずにずっとベッドにいるお嬢様に、神殿長が聖水を作るように命令して、私は仕方なく聖なる泉の水の入った瓶を渡した。でも、奇跡の聖水はできなかった。それを報告したら、苦々しそうな顔をした神殿長の顔を見てしまった。いつもの優し気な顔はやっぱり作り物だったのね。聖水の売上金を懐に入れて、自分の趣味の骨とう品を買いあさっているって噂は本当なんだろうな。

 嫌な人。こんな場所にリリアーヌ様がいる必要ないわ。この世の中、魔力が少ない人だって大勢いるのよ。私だってそうだけど、何にも困ることはないわ。聖の魔力がなくなったからって、なんでそんなに責めるような目で見るの? 

 私はリリアーヌ様に侯爵家に戻るように勧めた。そしたらお嬢様は、私に田舎に帰るようにおっしゃったの。
 とても、つらい。私はお嬢様の側でお仕えしたかったのに。
 私はもう、いらないの? 
 お嬢様は私に、故郷に戻って幼馴染と結婚して幸せな家庭を築くように命令した。
 私達は泣きながらお別れした。

 故郷に帰る寄り合い馬車の中でゴシップ誌を読んでいる人がいたので、見せてもらった。
 何てこと! 
『次の大聖女はオディット様。アルフレッド王子と手を取り合って魔物を退治した。守銭奴聖女は退場!』
 見出しを見て、破り捨てたくなった。
 あれだけリリアーヌ様の聖水を褒めていたのに、神殿長が代金を徴収したせいで、リリアーヌ様が貶められている。
 オディットなんかが褒められてる。

 私は寄り合い馬車の乗客に、オディットの悪口とリリアーヌ様の優しさを道中ずっと話した。
 うるさがられたけどね。
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