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13 聖水
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神殿には聖なる泉がある。この泉を囲むように祈りの間が建てられていた。
神官が、細長い小さなビンに泉の水を汲んだ。私はそれを受け取って、片手で握りしめた。魔力がビンの中の水に移っていくように願う。すぐに、手の中のビンは虹色に光り、聖水が完成した。
「なんとも美しい虹色の聖水だ」
神殿長は私の作り出す聖水をとても気に入っている。
普通の聖女は、1日に5本の聖水を作るのが限度だけれど、私は10本以上作ることができる。しかも、他の聖女が作る無色の聖水とは違って、私の作り出す聖水は虹色をしていて、その効果は一瞬で瀕死の患者を治せるほど高い。
もしかして、これがあったら治癒魔法はいらないんじゃない?
「オディット殿の聖水も素晴らしいと思っていたが、これほど差があるとは」
「えー。じゃあ、私は聖水作りを免除してくださいよ。できるだけ治療院や騎士団で患者を診たいんです」
私よりだいぶ遅れて完成させたオディットの聖水は金色をしている。その効果は骨折を1日で治せるそうだ。オディットは聖水を作って間接的に治療するよりも、治癒魔法で直接治すことを得意としているそうだ。
「私は、病弱なため魔法をうまく使えません。そのかわりに聖水を作ることで皆様のお役に立ちたいと思いますわ。もっと作る量を増やせるように努力しますわね」
自分の作る聖水が下だと言われて、頬を膨らませてふてくされているオディットの横で、私はしおらしく神殿長に訴えた。
体調が悪いという言い訳がいつまで使えるのか分からない。だから、今のうちに実績をつくらなければいけない。
「やった! じゃあ、聖水作りはリリアーヌ様にお任せします。さっそく治療院の方に行ってきますね! だって真夜中から順番待ちで並んでるんですよ。遠くから来て、並んでる人を早く治してあげたいんです! 時間がもったいないです!」
「これ。待ちなさいオディット、……まったくもう」
苦言を言いながらも、神殿長はまるで孫を見るような温かい目でオディットを見ている。なぜ、こんな子が好かれているの? ここでの私の敵はやっぱりオディットだわね。
私は聖なる泉の水の入った小瓶を手に取り、魔力を込めた。
魔道具である杖には魔力が入らないけれど、漏れ出た魔力を泉の水に込めることは簡単だ。ただ、この聖水の欠点は2日しかもたないこと。2日たてばただの水に戻ってしまう。だから、聖女は毎日聖水を作らなければいけない。
私以外にも平民の聖女がせっせと聖水を作っている。1つ作るのに魔力が弱い聖女だと、半日はビンを握っていないといけない。地味で退屈な作業のため、貴族の聖女には人気がないのだ。貴族の聖女に人気がある仕事は……、
「リリアーヌ様。騎士団へ一緒に行きませんか?」
先日のお茶会から仲良くなった伯爵令嬢のアデルと子爵令嬢のソフィアが迎えに来た。
「二人とも、リリアーヌ殿はまだ体調が戻っておらず、治癒魔法が使えないのだぞ」
神殿長が優しくたしなめると、アデルは残念そうな顔をした。
私は手に持っている聖水を見て、神殿長に尋ねた。
「でしたら、私はこの聖水を持って行ってもよろしいでしょうか。今日は提出する10本よりも多く作りすぎてしまったので、このまま、処分するよりも、騎士の方に使っていただきたいのです」
治癒魔法が使えなくても、この虹色の聖水があったら何も問題ないんじゃないかしら。手元に5本もあるのだから。
「ああ、いや、うーん。まあ、いいだろう。聖水はとても高価なものだが、リリアーヌ殿なら適切に使用できるだろう」
悩みながらも神殿長は許可をくれた。この聖水が私の助けになるかもしれない。
「早く着替えましょう、リリアーヌ様」
「私はピンク色のドレスにしますわ。ソフィアは何色にするの?」
「私はオレンジ色よ。だって、レイナルド様の瞳の色だもの」
「いいわね。恋人がいる人は。でも、今日は騎士団の訓練にアルフレッド殿下も視察に来るかもしれないって噂があるんですのよ。リリアーヌ様は青色のドレスがいいんじゃないかしら」
「ああ、アルフレッド殿下の瞳の色ね、素敵。きっとリリアーヌ様によくお似合いだわ」
騎士団の治療所にはドレス姿で行くものらしい。
楽しそうな令嬢たちに勧められて、クローゼットから青味の強いエメラルドグリーンのドレスを選んだ。青いドレスもあったけれど、アルフレッド様の瞳の色を着るなんて恥ずかしすぎる。
華やかに着飾った5人の令嬢の中ではまだ落ち着いたデザインのドレス姿で、私は騎士団の訓練所へと馬車で行った。もちろん、それぞれの侍女と神殿騎士も一緒だ。大人数で移動した。
オディットがここにいたら、「これだから貴族の聖女は……」、って言われるんだろうなと思いながらも、年の近い女の子に交じって、どの騎士が一番かっこいいかを言い合うのを聞いているのは、楽しかった。
まるで、自分が普通の貴族令嬢になったようで、束の間、完璧なリリアーヌを忘れることができたから。
私もこんな風に、みんなとたわいもない会話をしてみたい。アルフレッド様の素晴らしい所はすぐに10個以上あげられるもの。
でも、騎士団に着いたら、そこは戦場のようだった。
「ああ、聖女殿! よかった、早く治療院へ!」
血だらけの騎士が迎えに来た。
神官が、細長い小さなビンに泉の水を汲んだ。私はそれを受け取って、片手で握りしめた。魔力がビンの中の水に移っていくように願う。すぐに、手の中のビンは虹色に光り、聖水が完成した。
「なんとも美しい虹色の聖水だ」
神殿長は私の作り出す聖水をとても気に入っている。
普通の聖女は、1日に5本の聖水を作るのが限度だけれど、私は10本以上作ることができる。しかも、他の聖女が作る無色の聖水とは違って、私の作り出す聖水は虹色をしていて、その効果は一瞬で瀕死の患者を治せるほど高い。
もしかして、これがあったら治癒魔法はいらないんじゃない?
「オディット殿の聖水も素晴らしいと思っていたが、これほど差があるとは」
「えー。じゃあ、私は聖水作りを免除してくださいよ。できるだけ治療院や騎士団で患者を診たいんです」
私よりだいぶ遅れて完成させたオディットの聖水は金色をしている。その効果は骨折を1日で治せるそうだ。オディットは聖水を作って間接的に治療するよりも、治癒魔法で直接治すことを得意としているそうだ。
「私は、病弱なため魔法をうまく使えません。そのかわりに聖水を作ることで皆様のお役に立ちたいと思いますわ。もっと作る量を増やせるように努力しますわね」
自分の作る聖水が下だと言われて、頬を膨らませてふてくされているオディットの横で、私はしおらしく神殿長に訴えた。
体調が悪いという言い訳がいつまで使えるのか分からない。だから、今のうちに実績をつくらなければいけない。
「やった! じゃあ、聖水作りはリリアーヌ様にお任せします。さっそく治療院の方に行ってきますね! だって真夜中から順番待ちで並んでるんですよ。遠くから来て、並んでる人を早く治してあげたいんです! 時間がもったいないです!」
「これ。待ちなさいオディット、……まったくもう」
苦言を言いながらも、神殿長はまるで孫を見るような温かい目でオディットを見ている。なぜ、こんな子が好かれているの? ここでの私の敵はやっぱりオディットだわね。
私は聖なる泉の水の入った小瓶を手に取り、魔力を込めた。
魔道具である杖には魔力が入らないけれど、漏れ出た魔力を泉の水に込めることは簡単だ。ただ、この聖水の欠点は2日しかもたないこと。2日たてばただの水に戻ってしまう。だから、聖女は毎日聖水を作らなければいけない。
私以外にも平民の聖女がせっせと聖水を作っている。1つ作るのに魔力が弱い聖女だと、半日はビンを握っていないといけない。地味で退屈な作業のため、貴族の聖女には人気がないのだ。貴族の聖女に人気がある仕事は……、
「リリアーヌ様。騎士団へ一緒に行きませんか?」
先日のお茶会から仲良くなった伯爵令嬢のアデルと子爵令嬢のソフィアが迎えに来た。
「二人とも、リリアーヌ殿はまだ体調が戻っておらず、治癒魔法が使えないのだぞ」
神殿長が優しくたしなめると、アデルは残念そうな顔をした。
私は手に持っている聖水を見て、神殿長に尋ねた。
「でしたら、私はこの聖水を持って行ってもよろしいでしょうか。今日は提出する10本よりも多く作りすぎてしまったので、このまま、処分するよりも、騎士の方に使っていただきたいのです」
治癒魔法が使えなくても、この虹色の聖水があったら何も問題ないんじゃないかしら。手元に5本もあるのだから。
「ああ、いや、うーん。まあ、いいだろう。聖水はとても高価なものだが、リリアーヌ殿なら適切に使用できるだろう」
悩みながらも神殿長は許可をくれた。この聖水が私の助けになるかもしれない。
「早く着替えましょう、リリアーヌ様」
「私はピンク色のドレスにしますわ。ソフィアは何色にするの?」
「私はオレンジ色よ。だって、レイナルド様の瞳の色だもの」
「いいわね。恋人がいる人は。でも、今日は騎士団の訓練にアルフレッド殿下も視察に来るかもしれないって噂があるんですのよ。リリアーヌ様は青色のドレスがいいんじゃないかしら」
「ああ、アルフレッド殿下の瞳の色ね、素敵。きっとリリアーヌ様によくお似合いだわ」
騎士団の治療所にはドレス姿で行くものらしい。
楽しそうな令嬢たちに勧められて、クローゼットから青味の強いエメラルドグリーンのドレスを選んだ。青いドレスもあったけれど、アルフレッド様の瞳の色を着るなんて恥ずかしすぎる。
華やかに着飾った5人の令嬢の中ではまだ落ち着いたデザインのドレス姿で、私は騎士団の訓練所へと馬車で行った。もちろん、それぞれの侍女と神殿騎士も一緒だ。大人数で移動した。
オディットがここにいたら、「これだから貴族の聖女は……」、って言われるんだろうなと思いながらも、年の近い女の子に交じって、どの騎士が一番かっこいいかを言い合うのを聞いているのは、楽しかった。
まるで、自分が普通の貴族令嬢になったようで、束の間、完璧なリリアーヌを忘れることができたから。
私もこんな風に、みんなとたわいもない会話をしてみたい。アルフレッド様の素晴らしい所はすぐに10個以上あげられるもの。
でも、騎士団に着いたら、そこは戦場のようだった。
「ああ、聖女殿! よかった、早く治療院へ!」
血だらけの騎士が迎えに来た。
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