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神殿に入った聖女は、魔力量を計測し、杖を貸与されて治療魔法の使い方を教わる。他の属性の魔法とは違って、聖属性の杖は全て神殿が管理している。魔法を使うには魔道具である杖が絶対に必要で、貴重な杖は数が限られているからだ。
ただ、聖水は杖がなくても作ることができる。体から漏れ出る魔力を濃縮して聖なる泉の水へと送るのだ。平民が小銭を稼ぐために魔石を作るのに似ている。火の魔力を持つ平民は火の魔石を作る。でも、高価な杖が買えないので、火の魔法は使えない。
「こちらに手を置いてください」
神官の言葉に従って、石舞台の上に置かれた初代大聖女像の前の大きな白い石に手を当てた。
ぱぁっとまばゆい光が石から出てくる。
「これはすばらしい。これほどとは……」
周りにいる神官や聖女から驚きの声が上がる。
そうでしょう。私の魔力は幼いころからの魔力譲渡で鍛えられているのよ。
「それでは治癒魔法を使いなさい。この杖を使うがよい」
神殿長から白い装飾の杖を受け取った。聖女が治癒魔法を使うのに必要な聖属性の杖だ。
「魔力を杖に送り、この子供の怪我が治るように呪文を唱えて祈るのだ」
神官が連れて来た孤児院の子供は片足を引きずっていた。
「こんにちは。あなたのお名前は?」
「トロンです。聖女様、僕の足を治してくれるの?」
「ええ、大丈夫よ」
まだ幼いのに、かわいそうに。
私のこの豊富な聖の魔力で、この子供の足を必ず治してみせるわ。神殿長や神官や他の聖女に、私が一番大聖女にふさわしいと見せつけてやる。
ゆっくりと杖に魔力を流す。教わった方法で、心臓の横にある魔力核を感じて、聖の魔力が杖へと移動するように……。
?!
どうして?
何度やっても、魔力が杖へと移動しない。外に出ようとしても、また私の体の中に戻ってしまうのだ。
だめよ。もう一度、もう一度。
ああ、どうしてできないの?
「リリアーヌ殿?」
神殿長の声に返事などできない。
早く魔力を杖へと移動させないと。
治癒魔法を使わないと。
私は一番の聖女になれない!
「リリアーヌ殿、もうやめるのだ。きっと、まだ体が本調子ではないのだろう。今日のところは」
待って、私はできるわ。必ずやり遂げるから。
だから、もう一度、お願い、魔力よ、杖へと移動して!
「私がトロン君を治します!」
焦る私の目の前で、しゃしゃり出て来たオディットが杖をかざして、いとも簡単に子供に治癒魔法をかけた。
「うわ! 足が動く。 すごい! 聖女様ありがとうございます」
「まだ、しばらくは安静にしていてね。治ったばかりで、バランスが保てないから、走っていいのは1週間後だよ」
大喜びの子供と得意げなオディットを前にして、私はとても惨めな気持ちになった。こんなのは完璧なリリアーヌじゃない。こんなのはだめだ。
それでも、これ以上みじめな姿をさらすのは許せないから、私は一緒になってオディットをほめた。
「ありがとうオディットさん。すばらしいお手本だったわ。ごめんなさいね、トロン君。私はまだ病気が治りきってなかったみたい。あなたの足が治ってよかったわ」
しゃがみこんで、子供の目を見て語りかけると、私の笑顔を見た子供の頬が赤く染まった。
なぜか治癒魔法が発動しなかったけど、こんな思いは二度としたくない。私は原因を調べるために神殿の書庫にこもった。
ただ、聖水は杖がなくても作ることができる。体から漏れ出る魔力を濃縮して聖なる泉の水へと送るのだ。平民が小銭を稼ぐために魔石を作るのに似ている。火の魔力を持つ平民は火の魔石を作る。でも、高価な杖が買えないので、火の魔法は使えない。
「こちらに手を置いてください」
神官の言葉に従って、石舞台の上に置かれた初代大聖女像の前の大きな白い石に手を当てた。
ぱぁっとまばゆい光が石から出てくる。
「これはすばらしい。これほどとは……」
周りにいる神官や聖女から驚きの声が上がる。
そうでしょう。私の魔力は幼いころからの魔力譲渡で鍛えられているのよ。
「それでは治癒魔法を使いなさい。この杖を使うがよい」
神殿長から白い装飾の杖を受け取った。聖女が治癒魔法を使うのに必要な聖属性の杖だ。
「魔力を杖に送り、この子供の怪我が治るように呪文を唱えて祈るのだ」
神官が連れて来た孤児院の子供は片足を引きずっていた。
「こんにちは。あなたのお名前は?」
「トロンです。聖女様、僕の足を治してくれるの?」
「ええ、大丈夫よ」
まだ幼いのに、かわいそうに。
私のこの豊富な聖の魔力で、この子供の足を必ず治してみせるわ。神殿長や神官や他の聖女に、私が一番大聖女にふさわしいと見せつけてやる。
ゆっくりと杖に魔力を流す。教わった方法で、心臓の横にある魔力核を感じて、聖の魔力が杖へと移動するように……。
?!
どうして?
何度やっても、魔力が杖へと移動しない。外に出ようとしても、また私の体の中に戻ってしまうのだ。
だめよ。もう一度、もう一度。
ああ、どうしてできないの?
「リリアーヌ殿?」
神殿長の声に返事などできない。
早く魔力を杖へと移動させないと。
治癒魔法を使わないと。
私は一番の聖女になれない!
「リリアーヌ殿、もうやめるのだ。きっと、まだ体が本調子ではないのだろう。今日のところは」
待って、私はできるわ。必ずやり遂げるから。
だから、もう一度、お願い、魔力よ、杖へと移動して!
「私がトロン君を治します!」
焦る私の目の前で、しゃしゃり出て来たオディットが杖をかざして、いとも簡単に子供に治癒魔法をかけた。
「うわ! 足が動く。 すごい! 聖女様ありがとうございます」
「まだ、しばらくは安静にしていてね。治ったばかりで、バランスが保てないから、走っていいのは1週間後だよ」
大喜びの子供と得意げなオディットを前にして、私はとても惨めな気持ちになった。こんなのは完璧なリリアーヌじゃない。こんなのはだめだ。
それでも、これ以上みじめな姿をさらすのは許せないから、私は一緒になってオディットをほめた。
「ありがとうオディットさん。すばらしいお手本だったわ。ごめんなさいね、トロン君。私はまだ病気が治りきってなかったみたい。あなたの足が治ってよかったわ」
しゃがみこんで、子供の目を見て語りかけると、私の笑顔を見た子供の頬が赤く染まった。
なぜか治癒魔法が発動しなかったけど、こんな思いは二度としたくない。私は原因を調べるために神殿の書庫にこもった。
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