5 / 33
5 目覚め
しおりを挟む
目覚めは突然だった。
「ごほっ、ごほ」
咳き込んだら、メイドがあわてて側に来た。
背中を起こしてさすってくれる。
ああ、ここは寝室。このメイドの名前はメイ。
ああ、そうだ。
思い出した。
手術したのね。
魔力核を移植する手術が行われて、
そして、私は……。
「うっ、ごほ、こほっ」
メイドの1人が急いで部屋を出て行った。両親を呼びに行ったのだろう。
メイに渡されたコップの水をゆっくりと口の中に入れて飲み込んだ。
咳が落ち着いたころ、父と母が急いで部屋に走ってきた。
「リリアーヌ、ああ、良かった」
「リリアーヌ、大丈夫なのか?」
心配そうな顔をした両親が呼びかけるけれど、私は違和感を覚えて少し戸惑った。ぐるぐると包帯が巻かれた手で、顔を触る。顔にも布が巻かれている。どうして?
「か、鏡」
しわがれた声で、メイドに鏡を持ってくるように頼んだ。
「!」
顔全体に包帯が巻かれている。
白い布の中で、紫色の大きな瞳だけがぎょろっと鏡の中から私を見返した。
鏡から目を反らすと、腕も足も全てに包帯が巻かれていることに気が付いた。この感触ではきっと、全身が包帯で包まれている。
驚く私を、両親が慰めてくれた。
「大丈夫よ。手術の副作用で、今は全身が紫色に変色しているんですって。魔力核が体に馴染むまで、外気に触れないほうが良いとかで、魔法医が魔法布を巻いていったの。それが自然に取れる頃には全部元通りになっているそうよ」
魔法布。これが?
「ごほ、喉が……、ごほっ」
「ああ、喉の痛みも魔力核移植の副作用らしい。1ヶ月ほどで元の声に戻るとか。心配しなくていいと言っていた」
無事に私が目覚めたことを心の底から喜んでいる両親の様子をじっと観察した。娘のことを愛している両親。だから私はゆっくりと笑顔を作った。いつものリリアーヌならこんな風にほほ笑む。たとえ包帯で見えなくても。
何にも問題はないって風に、優しく、気高く、自信ありげに。
「こほっ、だいじょうぶよ。お父様、お母様。心配しないで」
それを聞いて、両親は「ああ」と安心したように息を吐いた。
「良かった。本当に良かったわ。目が覚めたら心配ないって医者が言っていたわ。もう、こんな怖い思いはさせないでね。大切なリリアーヌ」
「ああ、リリアーヌ。大切な娘よ」
そうね。リリアーヌはこの家でとても愛されている。
リリアーヌの言うことは何でも叶えてもらえる。
魔力人形を殺して魔力を奪うこともためらわない。
私は素晴らしく恵まれているリリアーヌなんだ。
「早く体を治さないとね。早く、行かないと」
「リリアーヌ?」
包帯で覆われた両腕をさする両親に私は宣言した。
「早く、聖女にならなきゃね。私の聖水が必要とされているんですもの。殿下に期待されてるものね」
そう、それなら私は必ず大聖女になってやる。
大聖女になって、誰からも求められる存在になる。
王子様の隣に立つには、この聖の魔力があればいい。
「私、精一杯、がんばるわ」
だって、リリアーヌとして目覚めた私は、ジュエなのだから。
「ごほっ、ごほ」
咳き込んだら、メイドがあわてて側に来た。
背中を起こしてさすってくれる。
ああ、ここは寝室。このメイドの名前はメイ。
ああ、そうだ。
思い出した。
手術したのね。
魔力核を移植する手術が行われて、
そして、私は……。
「うっ、ごほ、こほっ」
メイドの1人が急いで部屋を出て行った。両親を呼びに行ったのだろう。
メイに渡されたコップの水をゆっくりと口の中に入れて飲み込んだ。
咳が落ち着いたころ、父と母が急いで部屋に走ってきた。
「リリアーヌ、ああ、良かった」
「リリアーヌ、大丈夫なのか?」
心配そうな顔をした両親が呼びかけるけれど、私は違和感を覚えて少し戸惑った。ぐるぐると包帯が巻かれた手で、顔を触る。顔にも布が巻かれている。どうして?
「か、鏡」
しわがれた声で、メイドに鏡を持ってくるように頼んだ。
「!」
顔全体に包帯が巻かれている。
白い布の中で、紫色の大きな瞳だけがぎょろっと鏡の中から私を見返した。
鏡から目を反らすと、腕も足も全てに包帯が巻かれていることに気が付いた。この感触ではきっと、全身が包帯で包まれている。
驚く私を、両親が慰めてくれた。
「大丈夫よ。手術の副作用で、今は全身が紫色に変色しているんですって。魔力核が体に馴染むまで、外気に触れないほうが良いとかで、魔法医が魔法布を巻いていったの。それが自然に取れる頃には全部元通りになっているそうよ」
魔法布。これが?
「ごほ、喉が……、ごほっ」
「ああ、喉の痛みも魔力核移植の副作用らしい。1ヶ月ほどで元の声に戻るとか。心配しなくていいと言っていた」
無事に私が目覚めたことを心の底から喜んでいる両親の様子をじっと観察した。娘のことを愛している両親。だから私はゆっくりと笑顔を作った。いつものリリアーヌならこんな風にほほ笑む。たとえ包帯で見えなくても。
何にも問題はないって風に、優しく、気高く、自信ありげに。
「こほっ、だいじょうぶよ。お父様、お母様。心配しないで」
それを聞いて、両親は「ああ」と安心したように息を吐いた。
「良かった。本当に良かったわ。目が覚めたら心配ないって医者が言っていたわ。もう、こんな怖い思いはさせないでね。大切なリリアーヌ」
「ああ、リリアーヌ。大切な娘よ」
そうね。リリアーヌはこの家でとても愛されている。
リリアーヌの言うことは何でも叶えてもらえる。
魔力人形を殺して魔力を奪うこともためらわない。
私は素晴らしく恵まれているリリアーヌなんだ。
「早く体を治さないとね。早く、行かないと」
「リリアーヌ?」
包帯で覆われた両腕をさする両親に私は宣言した。
「早く、聖女にならなきゃね。私の聖水が必要とされているんですもの。殿下に期待されてるものね」
そう、それなら私は必ず大聖女になってやる。
大聖女になって、誰からも求められる存在になる。
王子様の隣に立つには、この聖の魔力があればいい。
「私、精一杯、がんばるわ」
だって、リリアーヌとして目覚めた私は、ジュエなのだから。
26
お気に入りに追加
1,090
あなたにおすすめの小説
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる