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4 リリアーヌ

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 私はリリアーヌ・デュボア。侯爵家の長女として生まれた。銀色の髪に紫の瞳。その色彩は初代大聖女と同じだった。
 もちろん、私の魔力属性は聖。とても、貴重なのよ。だって、癒しの魔力だもの。聖女が作る聖水は貴族や富豪が大金を出して手に入れようとする貴重なものよ。

 でも、私のただ一つだけの欠点は、体が弱いこと。生まれながら魔力核にひびが入っていて、魔力の生成と循環がうまくできない。赤子の時に全身が紫色になって死にかけたそうよ。
 優しいお父様とお母様は私のために法を犯してくださったの。

 私と同じ聖の魔力を持つ妹を生んでくれたわ。妹の魔力を私のものにすることで、私は病から逃れられることができたの。幼いころから質の良い聖の魔力を吸収できたから、私の魔力核の欠陥が修復されて、私はようやく健康になれたわ。

 そうなると、いろいろできることが増えるわね。やっぱり、貴重な聖属性なのだから、聖女を目指さないとね。でも神殿に管理されるだけの普通の聖女なんてつまらないわ。効果の強い聖水を作ったり、治癒魔法が使える聖女は大聖女に選ばれて、王子妃になることも可能なんですって。それなら上を目指さなきゃ。

 試しに、妹に聖水を作らせたら、聖なる泉の水が虹色に光って、品質のいい聖水が完成したわ。私では無理だったのに、健康に生まれた妹だけが作れるなんてずるいわね。

「ねえ、これなあに? お姉様」

「これはね、聖水って言って、人の病気やけがを治すものなのよ。あなたは人の助けになることをしているのよ。だから、がんばってたくさん作ってちょうだいね」

「うん、私、がんばる。お姉さま、大好き」

 地下室に閉じ込めている魔力人形は、愛情に飢えているから手なずけるのは簡単だった。お母様は私がこれを妹と呼ぶことを嫌がる。でも、戸籍には載せてないけれど、母の腹から生まれた娘なのは事実なのよ。魔法医が魔力操作で私と同じ属性を持つように操作して生まれた私の妹。一つ年下の双子のようなものだわね。魔力だけでなく、私と同じ銀色の髪に紫の瞳でそっくりな姿のかわいそうな妹。

 でも、不思議なことに、私と違って妹の瞳は光の加減で銀色に光ることがあるのよね。家族も使用人も誰もそれに気が付かない。だって、この子は顔と体に醜いやけどの跡があるのだもの。あんまりにもおぞましくて、みんなすぐに目を背ける。

 だけど、私はこれの醜いやけどの跡も気に入っているわ。だって、面白いんだもの。どんなに痛かったかしら? 想像するとゾクゾクするわ。

 赤子の時にお母様が魔法で焼いんたんですって。私にそっくりな美しい赤子を魔力人形とするために、誰からの愛情も得られないように、醜くするために焼いたなんて!

 本当に最高! ああ、その瞬間を見てみたかったわ。
 私のために生まれて、私のためだけに誰にも愛されない人形! 
 こんなステキな贈り物は他にないでしょう?
 だから、名前を付けてかわいがってあげていたのよ。
 おもちゃって意味の「ジュエ」ってね。いい名前でしょ。

 でも、

「お姉様、私も一緒にご飯が食べたい。家族はみんなで一緒にご飯を食べるって絵本に書いてあったの。私が一緒じゃダメ?」

 育つにつれて、だんだん、わがままになってきた。

「ああ、ごめんなさいね。私が体が弱いから、みんなは私に気を使って食事をするのよ。ジュエは健康でしょう。だから、がまんしてちょうだいね」

「うー、でも、お父様もお母様も健康でしょう? どうして私だけだめなの?」

「それはね、あなたが醜いからよ。お父様もお母様もあなたの醜い顔を見ると、私の食欲がなくなるんじゃないかって心配してるのよ」

「私、髪と服で隠すから。ねえ、一度でいいから、地下室以外でご飯を食べたいの」

 ああ、やっぱり妹扱いなんてするのじゃなかったかも。知恵をつけ始めると、面倒だわね。自分のことを家族の一員だとでも勘違いしてるのかしら。私たちと同じわけないのに。頭の悪い子ね。聖水を作るために、これの魔力は必要だけれど、なんとかならないかしら。

「ねえ、どうして、どうしてダメなの? 私もみんなと一緒がいい。一緒がいいのに」

「そんなこと言わないで。私は体が弱いのよ。ジュエは健康でしょう。それは素晴らしいことなのよ」

「でもっ」

 ああ、本当にうっとおしい。もういいわ、人形遊びをする年でもないもの。早く解決策を探さなきゃね。侯爵家といえど、未成年に魔力を譲渡させるのは法律違反で処罰対象だもの。バレる前に犯罪の証拠はきれいに消し去る必要があるわね。
 メイドを呼んで、お母様にこれをムチで叱ってもらうように伝言した。少しは反省してよね。まあ、処分するまでもうしばらくの間、おとなしくしていてね。



 好機はすぐに訪れた。妹の看護師のアンナが画期的な魔法医療を行う隣国の魔法医を紹介してきた。魔力核の移植手術に成功したんですって。隣国は医療が発達しているけれど、本当にそんな都合のいいことができるのか半信半疑だったわ。でも、魔法医のゼオン・イースタンに何度も会って話を聞くうちに、確信したわ。この若くて美しい男性は本当に天才的な医者だって。こんなにも素晴らしい技術があるなんて。本当に素敵な男性ね。

 あれの魔力核の移植に成功したら、私は完璧な聖女になれるのね。魔法契約でゼオンと守秘の誓いを結んで、手術の依頼をしたわ。でも、いざやると決意したら、少し恐ろしいわね。

「魔力核の移植は痛みを伴うのかしら?」

 私の心配にゼオンは真摯に答えてくれた。

「薬で痛覚を抑えますので、痛みはありませんよ。眠っている間に終わります。目覚めた時には快適な気持ちで、豊富な魔力を自由に操れるようになっていますよ」

「まあ、それはいいわね」

「ただ、妹様は確実に死にますが、それはよろしいでしょうか」

「ああ、死体の処分はこっちでするから気にする必要ないわ」

「分かりました。妹様もできるだけ痛みを感じないように処理します」

「そんなことはどうでもいいのよ。でも、父母を説得するのが大変そうね。あの人たち過保護で疲れるのよね」

 魔法医が帰った後、父母に説明したけど、なかなか了承してもらえない。健康になったから、もういいだなんて、向上心のかけらもないわね。侯爵家の者として、もっと上を目指さなきゃ。私は、最も上に立つべき人間なのだから。

 両親の説得に手間取っている時に、来客があった。いつまでも神殿に入らない私を見かねて、殿下と神殿長が訪ねて来た。ついでに、新しく神殿に入る聖女オディットの金銭面での後見を請われたわ。

 聖女オディットねぇ。平民の分際で強い聖の魔力を持つ者。私の地位を脅かしかねないわ。

 心は決まった。大義を成し遂げるには、少しの危険はつきものよ。魔法医ゼオンは信頼できるし、腕も確かなようだしね。
 それに、最近は魔力人形も反抗的だし、そろそろ潮時ね。

 魔力人形の姿をオディットに見られたことで、両親も処分に同意してくれたわ。いつまでも、このままではいられないもの。
 オディットには執事がうまくごまかしてくれたみたい。バカな平民ね。銀の髪に紫の瞳の娘が使用人のわけがないじゃない。
 ほんと、平民は無知ね。みんなアレの火傷の跡から目をそらすからそれに気が付かないのよ。火傷のない右半分は私と全く同じ姿をしているのにね。聖女オディットもたいしたことがない愚かな娘ね。でも、いいわ、後見人として、しっかり躾けてあげる。この家で見聞きしたことを他家に漏らすとどうなるかってことをね。平民は貴族が導いてあげないと、本当に無知で愚かだから。ああ、貴族は大変だわ。

 私は、由緒ある侯爵家の長女リリアーヌよ。恐れるものなどないわ。アレの魔力核を取り入れて、大聖女になってやるわ。

 この日、私、リリアーヌは自分にふさわしい魔力核を持つという勇気ある選択をした。
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