【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか

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番外編

幼女がいる?

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「っふふふふ」

 異世界人の私が王太子妃になるなんて、黒髪を見下してた人たちに、ざまぁできるんじゃない?
 ニマニマしてたら、明日の歴史のテストのこと思い出した。いけない。赤点だったら補習がある。しかもノートを教室に置き忘れてる。少し怖いけど、教室に取りに行くしかないかなぁ。
 こういうとき同室の子がいたら、ついてきてもらうんだけど、女子に友達いないって、不便だな。男子寮には入れないし。
 私って可哀想、って思いながら薄暗い教室に入って、ノートを探す。

 ん、あれ? ない。おかしいなあ。
 確かに、ここに入れたはずだけど。

 シャッシャッシャッ。

 物音がして、後ろを向くと、さっきまで誰もいなかった教室に、うつむいて座っている子がいた。
 
 シャッシャッシャッ。

 うつむいて、何かを一心不乱に描いている。
 白っぽい、小さな子供?
 なんで、ここに子供が。
 誰かの家族?
 固まって見ていた私に、その女の子は、顔を上げ、大きな目で見上げてきた。人形みたい。白い顔に長い髪。温度のない瞳。3歳ぐらいの子供のお人形。

 ふらふらと引き寄せられたみたいに、その子供に近づくと、子供はすっと絵を描いたノートを差し出してきた。 

 !うわぁ、うまい。

 何本もの線で陰影をつけて、繊密に描かれた絵。
 うらめしそうに顔を歪めて、生首を差し出す鬼女の姿。
 生首はノートから飛び出すかのように描かれていて、切り口から血が滴り落ちているように見える。

 怖っ! この子供がこれ描いたの?

 つらい経験をした子供は、残酷な絵を描くってテレビで見たけど、もしかして虐待されてる?
 子供に怪我がないかチェックしようと、受け取ったノートから顔をあげたら、もう、どこにもいなかった。


 子供のことが気になったせいで、歴史のテストで赤点を取ってしまった。誰かに相談したほうがいいかな。児童相談所とか異世界にあるのかなあ。あの怖い絵は、私のノートに描いてあった。ってことは、私に、助けてって言うメッセージだよね。先生に言おうか? でもその先生が親だったら、もっと虐待されるし。やっぱりマキシム王子に相談かな。うん、国民のことだしね。早く来ないかな。


 グラスの水を飲みながら、ランチを食べる約束をした食堂で王子達を待つ。まだかな。王子の金髪は目立つから、すぐに分かるんだよね。
 ぐるっと周りを見渡すと、あの子供がいた!
 小さい手に、水が縁まで入った大きなグラスを持って、ゆっくりゆっくりと歩いている。転んだらグラスを落としそう。危なっかしい。
 ちょっと、誰か手伝ってあげないの?
 ゆっくりとこっちの方に向かってくる子供を、誰も気にすることはない。酷い世界。私が助けてあげなきゃ。

 立ち上がって、子供の近くに行こうとした時、なぜかすぐ目の前に子供がいた。大きな目と目があった瞬間、子供のコップが傾けられて、頭の上から大量の水が降ってきた。

「なっ、なに?  げほっ、げほ。なんで? ごほっ」

 びしょぬれの顔を拭った後、子供はまた消えていた。



 これはもしかして。

 寮に戻って、制服を着替えながら、いやな考えをまとめる。やっぱり、あの子はもう、この世に存在してないんじゃ? ……幽霊!?

 鬼女のような母親に、殺されて、首を切り落とされて、水に沈められたんだよ。きっと。

 うわ~、私、取り憑かれちゃった? ゾワゾワする。お祓いしなきゃ。この国だと、どこでできるの? えっと、南無阿弥陀仏? 南妙法蓮華経?? お祓いの呪文って何だっけ?
 子供の幽霊なんて無理。怖すぎる。子供の出てくる映画って、めちゃくちゃ怖いんだよね。どうしよう。怖いよ。
 
 そうだ。こういう時こそ、彼氏に相談しなきゃ。
 急いで、教室に行こうと、階段を駆け上がっていると、

 ! 出た! 出たよー。ひぇーん。

 階段の真ん中で、足がすくんで動かない。
 無表情で歩いてくるフランス人形。
 こんなとこに子供がいるのに、誰も気に留めないってことは、やっぱり私にしか見えないんだ。
 子供はまっすぐにこっちにむかってくる。
 逃げなきゃ。
 一歩下がろうとして、足を後ろにだすと、目の前に子供の幽霊。こっちに腕を伸ばしている。怖い。嫌だ怖い。怖い。
 あせって足がもつれて、階段から落ちてしまった。


 怪我がなかったのは、たまたま下にマキシム王子がいたから。呪われた私を助けてくれるヒーロー。

「フェミアに突き落とされたのか?」

 ん?
 フェミアって王子の婚約者の名前じゃなかった?

「階段の上にフェミアを見たぞ」

 性格悪いって言う婚約者なら、何かしてくるかもしれないけど、これは幽霊のせいだから。

「銀髪の小さな子供がいただろ。それがフェミアだ」

 んん? 銀髪の子供? それって幽霊? 幽霊がフェミア? どういうこと?

「あれは成長しない化け物のような姿をしている。私がヒナコを選んだのを知って、邪魔をしてくるかもと思ったが、まさか突き落とすとは」

 ちょっと待って、待って。
 新事実が多すぎ。
 どういうこと?

 ええ!? じゃぁ、マキシム君の婚約者は、あのちっちゃい子供幽霊ってこと? 悪女で、美幼女で、合法ロリ?!

 いやいやいや。
 待って、待って。
 どういうことよ。

 つまりは、簡単にまとめると、
 私は、王子の婚約者に、嫌がらせされてたんだってことだよね。
 ノートに落書きされて
 水をかけられて、
 階段から落とされた。

「これって悪役令嬢じゃん」

「悪役令嬢?」

 呟いた私に、マキシム君が反応する。

「うん。私の世界ではね、王子の恋人に嫉妬した悪役令嬢が嫌がらせするの」

「嫉妬……。」

「でね、卒業パーティで、王子が婚約破棄して、ヒロインと結ばれてハッピーエンド。まあ、小説だけどね」

「婚約破棄……。そうか、その手があったか」

「ん?」

「卒業式なら生徒の家族も大勢来る。その目の前で婚約破棄をしたなら、父上も聞き入れてくださるはず」

 マキシム君が、きりっとした目をして、手を握ってきた。

「するぞ。婚約破棄」 
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