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妖精令嬢と精霊執事 後編
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「何をしているのだ」
慌てて会場に来た王と王妃は、仁王立ちの王太子の前ですわりこんでいるフェミアを見て血相を変えた。
「父上! 私はこの邪悪なフェミアとは結婚できません。王太子妃にふさわしいのは、心優しい、ヒナコのような人物です」
マキシムは、ヒナコと手をつなぎ、必死に訴える。
倒れ込みそうになる王妃を侍女に任せ、王は金髪を掻きむしった。
「何を言っておる。お前はフェミアと結婚するのだ。そして王家に妖精の血を入れるのだ! フェミアとの子供を作ることが、何よりお前の使命だと言っただろうが」
「子供を作る」の言葉にフェミアが悲鳴を上げた。
「いやぁー。ミアできない。ミアはまだちっちゃいのに、あかちゃんなんて産めないよー。いやだぁ。子供を作ることなんてできないよー。いや、いやー、うぇーん。こわいよー」
大声で泣きじゃくるフェミアに、保護者たちはもう、見ていることもできず、幼い子供を助けるため結界を壊そうと杖を取り出し、呪文を唱え出した。
「あんな小さい子供になんてこと」
「王家の横暴だ」
「変質者」
「ロリコン」
「犯罪」
ざわめきはどんどん広がっていく。
「あなた、もう、これ以上は……」
非難の目に耐えかねて、王妃が王の腕に触れた。
「いや、だが、しかし、精霊契約が」
「父上っ」
「あなた」
「うぇーん、いやだよぉ」
フェミアを助けようと結界に突撃する保護者。
御婦人方からの冷たい軽蔑するような視線。
愛する王妃の悲しみに満ちた眼差しに、王はがっくりとうなだれた。
「わかった。二人の婚約を解消しよう」
王が宣言した途端、パァッと転移魔法の青い光が走って、その場に白い長髪の青年が現れた。
「王家からの婚約解消、受け入れました」
青年は優雅にお辞儀して、持参の書類を差し出した。
「つきましては、契約書のとおり、違約金として、王家直轄地のうち、オーロラの森とエメラルドの湖、オリハルコン鉱山は、ただいまから我が妖精伯爵、ローデグリーン家の領地となります」
「なんだって?! そんなこと聞いてないぞ」
貴重な土地を奪われた。王太子はどういうことかとローデグリーン家の美貌の精霊執事に詰め寄る。
王は息子を止めるように首を振った。
「おまえとフェミアの婚約を結ぶための条件だったのだ」
ローデグリーン家の反対を抑えるために、婚約の解消時の違約事項として多くを担保にした。
そこまでしてでも、魔力が減っている王家に妖精の血を入れることが必要だったのだ。
「し、しかし、悪虐非道なことをしたのはフェミアの方です。悪いのはローデグリーン家の方ではないですか?」
納得行かないと言い募るマキシムに、人外美貌の執事は紅い瞳を向けた。
「契約書には、解消を申し出た方が有責となっております。精霊契約は厳守していただかないと」
「そんな」
精霊との契約を破った場合に起きる恐ろしいことを想像し、マキシムは肩をおとした。
その隣では、王家が失ってしまう領地の価値を知らないヒナコが小さくガッツポーズしている。
「悪役令嬢が婚約破棄されたから、私が王太子妃ね」
ヒナコのつぶやきは、愕然とするマキシムの耳に入らない。
そして、美幼女フェミアは、立ち上がると、結界に向けて指をくるっと回した。
杖も呪文も使わずに、結界が解除された。
「あー、疲れた。やっと終わった。もう、早くパーティ会場に移動するわよ。料理が冷めちゃう」
髪をかき上げ、気だるげに執事の方に向かう表情は、さっきまで泣いていた、いたいけな子供のものではない。
「お疲れ様です、お嬢様。床に座っていたせいで、ドレスが汚れていますが、お着がえになりますか?」
「あー、そうね。やだっ、背中に足型が付いてるじゃない。あいつ後で半殺しにしてやる。ああ、すぐに着替えを用意して」
「かしこまりました。ドレスは子供用と大人用どちらに?」
「決まってるじゃない。パーティだと大人の体の方が、いっぱいごちそうを食べられるでしょう」
何を当たり前のことを言ってるの、と、つぶやきながら、執事が収納魔法で取り出した紫色のドレスと宝石を受け取り、自分に魔法をかけた。
パッと白光の後に現れたのは、紫のドレスを着こなした、女性の美を集めたような妖艶な美女。
さっきまでの美幼女の面影は、銀色の髪と虹色の大きな瞳にしか見当たらない。
幼女を助けようとしていた紳士達は何が起きたのか分からず、きょろきょろと幼女を探したが、代わりに立つ美女を見るなり目が釘づけになる。
美女になったフェミアの豊かなバストラインや、けだるげな虹色の眼差し、横に流した銀の髪の下のうなじから目が離せない。
「みなさま」
成長魔法で18歳の外見になったフェミアは、今まで舞台を遠巻きにしていた卒業生に視線をやる。
目があった生徒はビクリとして、ぴしっと背筋を伸ばした。
「私事でパーティの開始を遅らせてごめんなさいね」
「いえ、トンデモナイです!」
「完璧な結界魔法を見せていただき光栄です」
「今日もお美しい」
「歴代一位の魔力、すばらしい」
口々に生徒と、それに混じって教員からの賛辞が響く。
妖精の血。
王家が何より望んだもの。
人間を遥かに超える魔力量と技術で、フェミアの成績は歴代一位。魔法関係だけでなく、座学でも一位の実力。記憶魔法を使うことで、読んだ本は全て記憶できるのだ。
さらには、小さい体では無理な剣術も、成長魔法によって筋肉や骨を成長させて、トーナメントで一位になったのだ。
魔力至上主義の魔法学園において、ヒエラルキーのトップは王太子ではなく、伯爵令嬢にすぎないフェミアだった。
外見年齢が3歳だとしても。
妖精の寿命は人間より遥かに長い。そのため妖精の子供時代は成長に人間の6倍の時間が必要だった。
体は3歳までしか成長してないが、フェミアの固有魔法である成長魔法によって、短時間だけなら、見た目を自由に変えることができた。
主に体育の時は、パッと、同級生と同じ年齢の姿に。他者にはまねできない魔法力を持つフェミアは、生徒だけでなく教師からも尊敬の的だった。
絶対に逆らってはいけない権力者は、この学園においては、魔力が一番多いフェミアだったのだ。
「皆、この邪悪な女に騙されてるんだ」
ブツブツとマキシムは独りごちる。
「あら、マキシム様の望み通り婚約解消しましたでしょ。そちらから無理に結んだ婚約ですもの。これくらいの慰謝料は当然ですわ」
紫色の羽飾りの付いた扇を口元に寄せ、フェミアは優雅に笑う。
その隣では、美貌の精霊が、執着を込めた紅い瞳でうっとりとフェミアを見つめていた。
マキシムはそれを横目に思った。
たとえこの先、王家が破産することになっても、この女を王太子妃に迎えずに済んだのは、結果として良かったのだと。
慌てて会場に来た王と王妃は、仁王立ちの王太子の前ですわりこんでいるフェミアを見て血相を変えた。
「父上! 私はこの邪悪なフェミアとは結婚できません。王太子妃にふさわしいのは、心優しい、ヒナコのような人物です」
マキシムは、ヒナコと手をつなぎ、必死に訴える。
倒れ込みそうになる王妃を侍女に任せ、王は金髪を掻きむしった。
「何を言っておる。お前はフェミアと結婚するのだ。そして王家に妖精の血を入れるのだ! フェミアとの子供を作ることが、何よりお前の使命だと言っただろうが」
「子供を作る」の言葉にフェミアが悲鳴を上げた。
「いやぁー。ミアできない。ミアはまだちっちゃいのに、あかちゃんなんて産めないよー。いやだぁ。子供を作ることなんてできないよー。いや、いやー、うぇーん。こわいよー」
大声で泣きじゃくるフェミアに、保護者たちはもう、見ていることもできず、幼い子供を助けるため結界を壊そうと杖を取り出し、呪文を唱え出した。
「あんな小さい子供になんてこと」
「王家の横暴だ」
「変質者」
「ロリコン」
「犯罪」
ざわめきはどんどん広がっていく。
「あなた、もう、これ以上は……」
非難の目に耐えかねて、王妃が王の腕に触れた。
「いや、だが、しかし、精霊契約が」
「父上っ」
「あなた」
「うぇーん、いやだよぉ」
フェミアを助けようと結界に突撃する保護者。
御婦人方からの冷たい軽蔑するような視線。
愛する王妃の悲しみに満ちた眼差しに、王はがっくりとうなだれた。
「わかった。二人の婚約を解消しよう」
王が宣言した途端、パァッと転移魔法の青い光が走って、その場に白い長髪の青年が現れた。
「王家からの婚約解消、受け入れました」
青年は優雅にお辞儀して、持参の書類を差し出した。
「つきましては、契約書のとおり、違約金として、王家直轄地のうち、オーロラの森とエメラルドの湖、オリハルコン鉱山は、ただいまから我が妖精伯爵、ローデグリーン家の領地となります」
「なんだって?! そんなこと聞いてないぞ」
貴重な土地を奪われた。王太子はどういうことかとローデグリーン家の美貌の精霊執事に詰め寄る。
王は息子を止めるように首を振った。
「おまえとフェミアの婚約を結ぶための条件だったのだ」
ローデグリーン家の反対を抑えるために、婚約の解消時の違約事項として多くを担保にした。
そこまでしてでも、魔力が減っている王家に妖精の血を入れることが必要だったのだ。
「し、しかし、悪虐非道なことをしたのはフェミアの方です。悪いのはローデグリーン家の方ではないですか?」
納得行かないと言い募るマキシムに、人外美貌の執事は紅い瞳を向けた。
「契約書には、解消を申し出た方が有責となっております。精霊契約は厳守していただかないと」
「そんな」
精霊との契約を破った場合に起きる恐ろしいことを想像し、マキシムは肩をおとした。
その隣では、王家が失ってしまう領地の価値を知らないヒナコが小さくガッツポーズしている。
「悪役令嬢が婚約破棄されたから、私が王太子妃ね」
ヒナコのつぶやきは、愕然とするマキシムの耳に入らない。
そして、美幼女フェミアは、立ち上がると、結界に向けて指をくるっと回した。
杖も呪文も使わずに、結界が解除された。
「あー、疲れた。やっと終わった。もう、早くパーティ会場に移動するわよ。料理が冷めちゃう」
髪をかき上げ、気だるげに執事の方に向かう表情は、さっきまで泣いていた、いたいけな子供のものではない。
「お疲れ様です、お嬢様。床に座っていたせいで、ドレスが汚れていますが、お着がえになりますか?」
「あー、そうね。やだっ、背中に足型が付いてるじゃない。あいつ後で半殺しにしてやる。ああ、すぐに着替えを用意して」
「かしこまりました。ドレスは子供用と大人用どちらに?」
「決まってるじゃない。パーティだと大人の体の方が、いっぱいごちそうを食べられるでしょう」
何を当たり前のことを言ってるの、と、つぶやきながら、執事が収納魔法で取り出した紫色のドレスと宝石を受け取り、自分に魔法をかけた。
パッと白光の後に現れたのは、紫のドレスを着こなした、女性の美を集めたような妖艶な美女。
さっきまでの美幼女の面影は、銀色の髪と虹色の大きな瞳にしか見当たらない。
幼女を助けようとしていた紳士達は何が起きたのか分からず、きょろきょろと幼女を探したが、代わりに立つ美女を見るなり目が釘づけになる。
美女になったフェミアの豊かなバストラインや、けだるげな虹色の眼差し、横に流した銀の髪の下のうなじから目が離せない。
「みなさま」
成長魔法で18歳の外見になったフェミアは、今まで舞台を遠巻きにしていた卒業生に視線をやる。
目があった生徒はビクリとして、ぴしっと背筋を伸ばした。
「私事でパーティの開始を遅らせてごめんなさいね」
「いえ、トンデモナイです!」
「完璧な結界魔法を見せていただき光栄です」
「今日もお美しい」
「歴代一位の魔力、すばらしい」
口々に生徒と、それに混じって教員からの賛辞が響く。
妖精の血。
王家が何より望んだもの。
人間を遥かに超える魔力量と技術で、フェミアの成績は歴代一位。魔法関係だけでなく、座学でも一位の実力。記憶魔法を使うことで、読んだ本は全て記憶できるのだ。
さらには、小さい体では無理な剣術も、成長魔法によって筋肉や骨を成長させて、トーナメントで一位になったのだ。
魔力至上主義の魔法学園において、ヒエラルキーのトップは王太子ではなく、伯爵令嬢にすぎないフェミアだった。
外見年齢が3歳だとしても。
妖精の寿命は人間より遥かに長い。そのため妖精の子供時代は成長に人間の6倍の時間が必要だった。
体は3歳までしか成長してないが、フェミアの固有魔法である成長魔法によって、短時間だけなら、見た目を自由に変えることができた。
主に体育の時は、パッと、同級生と同じ年齢の姿に。他者にはまねできない魔法力を持つフェミアは、生徒だけでなく教師からも尊敬の的だった。
絶対に逆らってはいけない権力者は、この学園においては、魔力が一番多いフェミアだったのだ。
「皆、この邪悪な女に騙されてるんだ」
ブツブツとマキシムは独りごちる。
「あら、マキシム様の望み通り婚約解消しましたでしょ。そちらから無理に結んだ婚約ですもの。これくらいの慰謝料は当然ですわ」
紫色の羽飾りの付いた扇を口元に寄せ、フェミアは優雅に笑う。
その隣では、美貌の精霊が、執着を込めた紅い瞳でうっとりとフェミアを見つめていた。
マキシムはそれを横目に思った。
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