【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか

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色の違うカップ

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 一人きりになっても、時は過ぎてゆく。

 手袋の先を眺めていると、クラスメイトの陰口が耳に入る。

「あんなのが、未来の王太子妃だなんて」

「魔法が使えないんだったら、せめて座学でも頑張ったらいいのに、異世界人にさえ負けてるんでしょ」

「ほんっと、いい恥さらし」

 戯言は気にならない。
 ただ、全く会ってくれなくなったマキシムのことだけを思う。
 なぜ、会ってくれないの。

 いつもマキシムが、ヒナコ達とランチを食べている中庭の前をわざと通ってみる。
 ヒナコがなにか言うと、みんなで楽しそうに笑う。

 私のことは誰も見ない。
 私を見て、私を。
 私のマキシム。


 授業をさぼって生徒会室に来てみる。
 誰もいない。
 そうっとドアを開けた。
 初めて入る部屋。
 生徒会長の椅子。

 ここにマキシムが座っているのね。

 テーブルの上には揃いのマグカップが5つ。一つだけ色が違う。ピンク色。
 きっとこれは、いつも手伝いに来るあの黒髪の女のもの。 
 手にとって床に投げつけたい衝動にかられる。

 だめだ。

 手袋をつかんで指を強く握りしめる。
 痛みを歓迎するように。
 この気持ちから逃げられるように。


 しばらくそうして立っていると、部屋の外から足音と話し声が聞こえてきた。
 とっさに壁とロッカーの間の隙間に滑り込む。
 こんなに狭い隙間に入れるのは私くらいね。
 頭の後ろに硬いスイッチが当たる。

 このスイッチがあるから、わざと隙間を開けてロッカーを置いたのかしら。
 押さないように首をずらしていると、
 話し声が近づき、ドアが開けられた。

「ああ、もう、疲れたぁ」

「いや、ヒナに怪我がなかったからいいものの、階段から突き落とすなんて酷いことするな」

「犯人は、また、カンザート公爵令嬢だろう。殿下、放置しておいてよろしいのですか」

「あの令嬢は王太子妃の座を狙ってるのでしょう。フェミア嬢があの調子だから、自分にチャンスがあると勘違いをしている」

「何とかしようとは思っているのだが、カンザート公爵は隣国とのつながりも太くてな。ヒナコに怪我がなくてよかった」

 マキシムと生徒会役員とヒナコが話をしているようだ。
 ヒナコは、カンザート公爵令嬢とその取り巻きから嫌がらせを受けているみたいね。
 すこし、気分がいい。


「それより、あの素晴らしい魔法を教えてください。転落した瞬間に、マットのようなものが出現したのが見えました!」

「ああ、これね。マットレス魔法。ここの制服はさ、足首まであるじゃん。絶対いつか階段で転ぶと思って、開発しといてよかった。日本でも超ロングスカートが流行った時に、よく、階段で裾を踏んで転びそうになったんだよね~」

 女の甲高い声笑い声が、ロッカーの後ろにも響いてくる。
 雑音を無視して、マキシムの声だけを拾いたいのに、どうしても耳に入ってくる。

「でもさ、フェミちゃんは、ほんっとやばいと思う。今日もさ、昼休みに、こっちのことじっと見つめてたじゃん。もう、なんか目が怖い。病んでるよ。病院連れてった方がいいって」

 ! あの女がマキシムに私の話をしている。

「本当ですよ。彼女に王太子妃なんて重責は務まりませんよ」

「まだ、陛下は婚約解消を許可してくれないのですか?」

「ああ、父上は、妖精の血を王家に入れることにこだわってる。王宮に閉じ込めて、子供を産ませるだけで良いと仰せだ」

「ひっどぉいー。女を子を産む道具だと思ってんの? もう、この世界遅れてるよ~」

「ではヒナコが私の隣で、それを変えてくれないだろうか」

「えっ」

 思わず声がもれ出てしまった。だけど、同時に同じ声を発した女の声に消された。

「私は、ヒナコの新しい知識を好ましく思っている。ヒナコとならこの国をより良くできると思っている」

 うそ、うそ、うそ、うそうそうそうそうそ。

 両手で口を押さえている間に、頭の中にはマキシムの声がぐるぐる渦を作っていく。

「うそっ、マキシム。わたし、嬉しい」

 耳も、耳もふさがなきゃ。ああ、手が足りない。



「ですが、陛下とローデグリーン令嬢はどうします。殿下」

「フェミア嬢は、もう、限界でしょう。同室のヒナコ嬢の物を壊したとか」

「うん、私の机に飾ってた、映像魔法で撮ったみんなとの写真をハサミで切られちゃたのよ。怖くて、すぐ部屋を変
えてもらったんだけど、もう、ホント、病院連れてったほうがいいよ」

「そうしたいのだが方法がなくてな」

「じゃあ、こういうのはどう? 日本でよく読んだ小説ではね、悪役令嬢が卒業式で断罪されるの」

「写真を切った罪でか?」

「それだけだと弱いから、階段から突き落としたり、ならず者に殺人を依頼した罪で」

「いや、それはカンザート公爵令嬢の仕業では?」

「嘘も方便だよぉ。それでフェミちゃんが治療受けられたら、万事オッケーだって」


 もう、何も聞きたくない。何も、聞きたくない。聞きたくない。

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