人間手引き

百鬼 碧

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与太話

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風を感じる、
いつもの場所で
やりたいことがあった
やろうとしていたこと
出来ていなかったこと

いつもは独り占めしていた
勇気のつかぬ
場所に
珍しく先客がいた。

着ていた外套を丁寧に畳み、
いつの間にか隣に並んでみる
おおよそ幸福そうには見えない
おじさんが、ふいに話しかけてくる。

「君若いなぁ。
おじさんその年頃は…
何してたかなぁ
…あぁ、
なにも分からない
何も感じないね

きっと、
きっと昔よりは
幸せな生活なんだろうけど

こりゃあもうダメだね
やっぱり
死にたくてたまらない
わからないかい?」

「分かるから困っているんです」
「…取り繕い方がダメなんです」

「ははっ!君よりは取り繕うのは
上手さ、きっとね、良ければ教えて
あげようか」

「いいや、もう、それにきっと
 僕じゃあ真似出来ない事だね
 何より手際が悪いから
 知っていても出来ないんじゃあ仕方が無い
 聞かないでおく」

「はっはっはっ
 それがいいね」

「…おじさん夢とかないの」

「夢?今この瞬間
この年でもう夢なんて…あっ
あぁ…


あるよ、夢」
「僕は、
僕はね、鳥。
鳥になりたい。
どこまでも自由に、ね」

「…いい夢だね。」

 「ははっ
それじゃあ与太話はこんぐらいで

もういってしまうよ

 じゃあね見知らぬ少年よ
また会おう。」




 微かに手を振っていた気がする

 おじさんが

 ビルの上から

 姿を消した。


 鳥になった

 きっと



 鳥になったのだ。


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