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第90話 滝壺裏の洞窟
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ばしゃっ!
ナナイの剣に両断されたフィッシュマンが池に落ちる。
何とか僕たちは、問題の洞窟がある滝壺の傍までやって来た。
どわどわと派手な音を立てながら水飛沫を上げる滝の裏側に回れる道があり、岩壁に大きな穴が空いているのが見える。
どうやら、あれが洞窟の入口らしい。
「思ってたよりも安全に来られて良かったよ、ほんと」
「……それ、本気で言ってるのか?」
笑顔で洞窟に目を向けるナナイに半眼になる僕。
スローモンキーに追い回されたりフィッシュマンと戦ったり、全然安全じゃなかったと思ってるのは僕だけなんだろうか。
隣にいるシルバーに目を向ける。
シルバーは滝の音に耳をしきりにぴくぴくさせながら、滝の上の方を見つめていた。
……滝の上に、何かあるのか?
つられて滝を見上げてみるが、僕には木しか見えなかった。
「洞窟はそんなに大きくはないから、すぐに茸の生えてる場所に着くよ」
「……分かった」
僕は肩から下げている鞄を撫でた。
この中には、僕が普段薬品の調合に使っている道具が入っている。
今までの騒ぎで壊さなくて良かったよ、本当に。
ナナイは背に剣を戻して、僕に言った。
「それじゃあシルカちゃん、明かりを宜しく」
「……ライティング」
僕は掌を上に向けて魔術を唱えた。
白々と輝く魔光が掌の上に現れる。
僕たちは滝の裏手に回り、冷やりとする空気を肌に感じながら洞窟の入口をくぐった。
洞窟は全体的にでこぼこしており、足場はそれほど良くなかった。
シル・ベスク岩礁域のダンジョン、あれに似ている感じだ。
滝の裏側にあるからか空気は全体的に湿っぽく、あちこちに水溜まりがある。
こんなに湿っぽい環境なら茸も育つよな、と思った。
魔光に照らされた薄暗い道を、ナナイはどんどん進んでいく。
その足取りは、魔物の出現をまるで警戒していない感じだ。
本当に彼女が言う通り、この洞窟には魔物が生息していないのだろうか。
途中分岐している道を迷わず進み、大きな穴が空いて下を水が流れている場所を通り抜けて。
ようやく、アイスマッシュルームが群生している場所に辿り着いた。
行き止まりになっている壁に、床に、青白く発光している小さな茸がびっしりと生えている。
これは……僕が予想していたよりも大量だ。
これだけ茸があれば、かなりの数のコールドドリンクを作ることができる。
思いがけない収穫に、僕の頬は緩んだ。
「此処だよ」
茸の目の前で立ち止まり、ナナイは振り向いた。
「シルカちゃん、どう? 薬、作れそう?」
「ああ」
僕は早速鞄から道具を取り出して、床に並べた。
床がぼこぼこで置いた道具が安定しないのがネックだが、風が吹いているわけじゃないし、何とかなるだろう。
「僕は薬作りを始めるから、ナナイはその間見張りを頼む。この洞窟に何もいないと決まったわけじゃないからな」
「何もいないとは思うけど……分かったよ。それじゃあそっちは宜しくね」
『これ、食べられる?』
シルバーはアイスマッシュルームに興味津々だ。
僕はナイフを持ってアイスマッシュルームに近付いて、岩肌から剥がすようにどんどん収穫していった。
「食べられないよ。シルバーは大人しくしてて」
『そっか、残念』
シルバーはその場に寝そべり、目を閉じた。
コールドドリンクの調合はスピード勝負だ。収穫した茸が枯れる前に薬にしなければならない。
コールドドリンクを作るのは初めてだが……僕ならできる。店のためにも、大量に作ってやるぞ。
それから僕は、無言でせっせと薬品作りに勤しんだのだった。
ナナイの剣に両断されたフィッシュマンが池に落ちる。
何とか僕たちは、問題の洞窟がある滝壺の傍までやって来た。
どわどわと派手な音を立てながら水飛沫を上げる滝の裏側に回れる道があり、岩壁に大きな穴が空いているのが見える。
どうやら、あれが洞窟の入口らしい。
「思ってたよりも安全に来られて良かったよ、ほんと」
「……それ、本気で言ってるのか?」
笑顔で洞窟に目を向けるナナイに半眼になる僕。
スローモンキーに追い回されたりフィッシュマンと戦ったり、全然安全じゃなかったと思ってるのは僕だけなんだろうか。
隣にいるシルバーに目を向ける。
シルバーは滝の音に耳をしきりにぴくぴくさせながら、滝の上の方を見つめていた。
……滝の上に、何かあるのか?
つられて滝を見上げてみるが、僕には木しか見えなかった。
「洞窟はそんなに大きくはないから、すぐに茸の生えてる場所に着くよ」
「……分かった」
僕は肩から下げている鞄を撫でた。
この中には、僕が普段薬品の調合に使っている道具が入っている。
今までの騒ぎで壊さなくて良かったよ、本当に。
ナナイは背に剣を戻して、僕に言った。
「それじゃあシルカちゃん、明かりを宜しく」
「……ライティング」
僕は掌を上に向けて魔術を唱えた。
白々と輝く魔光が掌の上に現れる。
僕たちは滝の裏手に回り、冷やりとする空気を肌に感じながら洞窟の入口をくぐった。
洞窟は全体的にでこぼこしており、足場はそれほど良くなかった。
シル・ベスク岩礁域のダンジョン、あれに似ている感じだ。
滝の裏側にあるからか空気は全体的に湿っぽく、あちこちに水溜まりがある。
こんなに湿っぽい環境なら茸も育つよな、と思った。
魔光に照らされた薄暗い道を、ナナイはどんどん進んでいく。
その足取りは、魔物の出現をまるで警戒していない感じだ。
本当に彼女が言う通り、この洞窟には魔物が生息していないのだろうか。
途中分岐している道を迷わず進み、大きな穴が空いて下を水が流れている場所を通り抜けて。
ようやく、アイスマッシュルームが群生している場所に辿り着いた。
行き止まりになっている壁に、床に、青白く発光している小さな茸がびっしりと生えている。
これは……僕が予想していたよりも大量だ。
これだけ茸があれば、かなりの数のコールドドリンクを作ることができる。
思いがけない収穫に、僕の頬は緩んだ。
「此処だよ」
茸の目の前で立ち止まり、ナナイは振り向いた。
「シルカちゃん、どう? 薬、作れそう?」
「ああ」
僕は早速鞄から道具を取り出して、床に並べた。
床がぼこぼこで置いた道具が安定しないのがネックだが、風が吹いているわけじゃないし、何とかなるだろう。
「僕は薬作りを始めるから、ナナイはその間見張りを頼む。この洞窟に何もいないと決まったわけじゃないからな」
「何もいないとは思うけど……分かったよ。それじゃあそっちは宜しくね」
『これ、食べられる?』
シルバーはアイスマッシュルームに興味津々だ。
僕はナイフを持ってアイスマッシュルームに近付いて、岩肌から剥がすようにどんどん収穫していった。
「食べられないよ。シルバーは大人しくしてて」
『そっか、残念』
シルバーはその場に寝そべり、目を閉じた。
コールドドリンクの調合はスピード勝負だ。収穫した茸が枯れる前に薬にしなければならない。
コールドドリンクを作るのは初めてだが……僕ならできる。店のためにも、大量に作ってやるぞ。
それから僕は、無言でせっせと薬品作りに勤しんだのだった。
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