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第32話 逆さの塔
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森は平和そのもので、道中一度も魔物に襲われることはなく、僕たちは歩いて一時間ほどで目的地である塔に辿り着いた。
逆さの塔、の名が付いている通り、塔は本来の形をひっくり返したような形状をしていた。
普通こんな建て方をしたら下の階が上の階の重みに耐えられずに崩れるものなのだが、此処が普通の世界とは違う場所だからなのか、崩れる様子もなくしっかりと建っている。
内部は迷路になっているのか広い部屋になっているのか、それは入ってみなければ分からないが、どちらにせよ探索は一筋縄ではいかなそうな雰囲気があった。
魔物……いるのだろうか。いないといいのだが、こんな世界だ、何が出てきてもおかしくはない。
「出口……此処にあるといいですね」
僕たちは、アリスさんを先頭に、塔の中へと足を踏み入れた。
逆さの塔、一階。
内部は城のような造りをしていた。
壁には武器を持った甲冑がずらりと並んでおり、脚や縁に綺麗な彫刻が施されたテーブルや椅子といった家具が置かれている。
しかし、それらは全部僕たちから見て天井──本来の床に置かれているものであり、僕たちが手を触れることは叶わなかった。
本来の天井、つまり僕たちから見て床には大きなシャンデリアが誂えられており、通り道を大きく塞いでいる。
まるでシャンデリアが床から生えているような形になっており、何とも違和感を感じる光景がそこにあった。
塔を登るための階段は、壁に沿うように誂えられていた。やはり階段も逆さで、手摺りが逆に付いていた。
この塔の重力は一体どうなっているのだろう。
「魔物は……いないようですね」
部屋を見回して、アリスさんが言った。
確かに、見た感じ魔物の気配はない。しかし──
僕は壁に並んでいる甲冑に目を向けた。
この甲冑、部屋の様子を考えるとちょっと数が多すぎるような気がする。
ひょっとしたら──
「部屋を通り抜けるまで油断は禁物だよ」
僕は甲冑に近寄らないように気を付けながら、階段に足を運んだ。
シャンデリアの横を通り過ぎ、部屋の中央付近に到達した、その時。
甲冑の何体かが、まるで吊られていた糸が切られたかのようにがちゃんと落ちてきた。
それはゆっくりと起き上がり、手にした武器を構えてこちらに迫ってきた。
やっぱり、仕掛けがあったか!
僕はアリスさんに駆け寄って、彼女の背後に身を隠した。
アリスさんは杖を構えて、迫り来る甲冑たちに向けて魔術を放った。
「ウィンドカッター!」
風の刃は甲冑たちの関節──鎧の繋ぎ目をすっぱりと切断した。
ばらばらになった甲冑たちが派手な音を立てて床に転がる。
幸い、これらはばらばらにされたら動かなくなるらしい。静寂と共に、部屋には平穏が訪れた。
「もう大丈夫ですよ」
「……魔術罠か……ある意味魔物よりも厄介だな……」
甲冑の残骸を見つめて、僕は渋い顔をした。
本の中という魔術で創られた世界の中に存在する、魔術罠。
それは、現実にある魔術罠よりも凶悪な効果を持っている可能性がある。
それが山のように眠っているかもしれない、この塔を踏破しなければならないなんて。
魔術師が作るものって本当にろくなものがない。
僕は深い溜め息をついて、階段を上がるアリスさんの後を追いかけた。
逆さの塔、の名が付いている通り、塔は本来の形をひっくり返したような形状をしていた。
普通こんな建て方をしたら下の階が上の階の重みに耐えられずに崩れるものなのだが、此処が普通の世界とは違う場所だからなのか、崩れる様子もなくしっかりと建っている。
内部は迷路になっているのか広い部屋になっているのか、それは入ってみなければ分からないが、どちらにせよ探索は一筋縄ではいかなそうな雰囲気があった。
魔物……いるのだろうか。いないといいのだが、こんな世界だ、何が出てきてもおかしくはない。
「出口……此処にあるといいですね」
僕たちは、アリスさんを先頭に、塔の中へと足を踏み入れた。
逆さの塔、一階。
内部は城のような造りをしていた。
壁には武器を持った甲冑がずらりと並んでおり、脚や縁に綺麗な彫刻が施されたテーブルや椅子といった家具が置かれている。
しかし、それらは全部僕たちから見て天井──本来の床に置かれているものであり、僕たちが手を触れることは叶わなかった。
本来の天井、つまり僕たちから見て床には大きなシャンデリアが誂えられており、通り道を大きく塞いでいる。
まるでシャンデリアが床から生えているような形になっており、何とも違和感を感じる光景がそこにあった。
塔を登るための階段は、壁に沿うように誂えられていた。やはり階段も逆さで、手摺りが逆に付いていた。
この塔の重力は一体どうなっているのだろう。
「魔物は……いないようですね」
部屋を見回して、アリスさんが言った。
確かに、見た感じ魔物の気配はない。しかし──
僕は壁に並んでいる甲冑に目を向けた。
この甲冑、部屋の様子を考えるとちょっと数が多すぎるような気がする。
ひょっとしたら──
「部屋を通り抜けるまで油断は禁物だよ」
僕は甲冑に近寄らないように気を付けながら、階段に足を運んだ。
シャンデリアの横を通り過ぎ、部屋の中央付近に到達した、その時。
甲冑の何体かが、まるで吊られていた糸が切られたかのようにがちゃんと落ちてきた。
それはゆっくりと起き上がり、手にした武器を構えてこちらに迫ってきた。
やっぱり、仕掛けがあったか!
僕はアリスさんに駆け寄って、彼女の背後に身を隠した。
アリスさんは杖を構えて、迫り来る甲冑たちに向けて魔術を放った。
「ウィンドカッター!」
風の刃は甲冑たちの関節──鎧の繋ぎ目をすっぱりと切断した。
ばらばらになった甲冑たちが派手な音を立てて床に転がる。
幸い、これらはばらばらにされたら動かなくなるらしい。静寂と共に、部屋には平穏が訪れた。
「もう大丈夫ですよ」
「……魔術罠か……ある意味魔物よりも厄介だな……」
甲冑の残骸を見つめて、僕は渋い顔をした。
本の中という魔術で創られた世界の中に存在する、魔術罠。
それは、現実にある魔術罠よりも凶悪な効果を持っている可能性がある。
それが山のように眠っているかもしれない、この塔を踏破しなければならないなんて。
魔術師が作るものって本当にろくなものがない。
僕は深い溜め息をついて、階段を上がるアリスさんの後を追いかけた。
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