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第11話 最果てに潜むもの
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横穴を抜けると、そこには先に見た広場と同じような滝壺のある風景が広がっていた。
道は此処で終わっており、滝壺の周辺は巨大な湖になっている。
壁に生えた光る珊瑚が、辺りを星のように照らしている。
そのせいもあって、滝壺周辺の暗さが、蟠っている闇のように見えた。
「……此処が最深部らしいな。行き止まりだ」
途切れた道の端に立ち、アラグは滝壺に目を向けた。
「何か、浮かんでるな……」
彼が言う通り、滝壺の近くに銀色の塊がぷかぷかと浮かんでいた。
フィッシュマンの頭だ。それもひとつではない。
さっきの池に浮かんでいたフィッシュマンの残骸は、此処から流れていったもののようだ。
「如何にも何か大物が棲んでそうな場所だね」
フラウはそう言いながら、湖の中に足を踏み入れた。
僕は声を上げた。
「何かいそうって言っといて中に入るのかよ!」
「大丈夫。此処は浅いから」
確かに、彼女は湖の中に平然と立っている。
深さは、足首くらい……およそ十センチといったところか。
当然奥に行けば行くほど深くなっていくのだろうが。
奥に行かなければ沈まないと分かったからなのか、アラグも湖の中に入った。
そのまま、剣を片手にフィッシュマンの頭が浮いている場所まで歩いていく。
フィッシュマンの頭が浮いている場所の深さは、アラグの腰ほどまでしかなかった。
何かが棲んでいるとしたら……もっと奥。本当に滝壺の近くか。
アラグは周囲を見回して、フィッシュマンの頭をひとつ担ぎ上げた。
そしてそれを、こともあろうに滝壺に向かって投げつけた。
どぷん、と水柱を立てて沈んでいくフィッシュマンの頭。
水面に波紋が広がり、そして消える。
「……ハズレか」
肩を竦めて、彼は踵を返した。
その胴に、太い何かが絡み付く!
「!?」
アラグの姿が水面下に消える。巻き付いた何かに水中へと引き摺り込まれたのだ。
異変に気付いた僕とフラウが、同時に彼がいた場所に目を向けた。
「アラグ!」
「トルネード!」
フラウが魔法を滝壺に向けて放った。
巨大な竜巻が辺りの水を巻き上げて派手に撒き散らす。
そして、水面下に潜んでいたそれを強引に表へと引き摺り出した。
十メートルはあろうかという巨大なぶよぶよとした体。くるりと巻いた太い八本の触手。金色に輝く丸い眼。
蛸だ──それも、規格外の大きさの。
「あれは……」
僕は息を飲んだ。
「オクトラーケン……!」
オクトラーケン──本来は海域に生息する魔物で、その大きさは巨大なものになると二十メートルを超える。同じ海域に生息するイカの魔物であるクラーケンの亜種と言われているが、その生態は謎に包まれており、嵐になった時しか海面に姿を見せないので普段は海底に生息しているのではないかというのが定説だが、その実体は定かではない。
普通はこんな穴倉の中にいるような生物ではないのだが、おそらくこの湖の何処かに大きな穴が空いており、そこから入り込んでそのまま棲みついたのだろう。
水面に浮いているフィッシュマンの残骸は、オクトラーケンが襲って食べた跡か。
このままでは、オクトラーケンに捕まったアラグも同じ目に遭うことになる。
僕は精一杯の声量でオクトラーケンの触手に捕まっているアラグに向かって叫んだ。
「アラグ! 食われる前に何とか振り払え!」
「言われなくても、やってる!」
アラグは胴に巻き付いた触手に剣を突き立てていた。
しかし、剣では触手の薄皮を切るのが関の山のようだ。振りほどくほどのダメージは与えられていない。
おそらく、並の武器では駄目なのだ。もっと、強烈な一撃を与えられる手段がないと。
「フラウ! 触手を狙え!」
「分かってる!」
フラウは杖の先端をアラグが捕まっている触手に向けて、叫んだ。
「アイシクルランス!」
どがっ、と氷の槍が触手に深く突き刺さる。
衝撃で、触手の力が緩んだ。
その隙に、アラグは束縛から逃れて湖に飛び込んだ。
フラウは更に数発同じ魔法を叩き込みながら、何とかアラグがこちらに逃れてくるまでの時間を稼いだ。
獲物を逃したオクトラーケンが、怒りの目を向けるようにぎょろりと僕たちを睨んだ。
「こいつは……狩り甲斐があるな!」
アラグは剣を構え直して唇をぺろりと舐めた。
あんな目に遭っても、この男は目の前のこの魔物を狩ることを諦めはしないらしい。
全く……無謀な連中ばっかりだな、冒険者っていうのは!
道は此処で終わっており、滝壺の周辺は巨大な湖になっている。
壁に生えた光る珊瑚が、辺りを星のように照らしている。
そのせいもあって、滝壺周辺の暗さが、蟠っている闇のように見えた。
「……此処が最深部らしいな。行き止まりだ」
途切れた道の端に立ち、アラグは滝壺に目を向けた。
「何か、浮かんでるな……」
彼が言う通り、滝壺の近くに銀色の塊がぷかぷかと浮かんでいた。
フィッシュマンの頭だ。それもひとつではない。
さっきの池に浮かんでいたフィッシュマンの残骸は、此処から流れていったもののようだ。
「如何にも何か大物が棲んでそうな場所だね」
フラウはそう言いながら、湖の中に足を踏み入れた。
僕は声を上げた。
「何かいそうって言っといて中に入るのかよ!」
「大丈夫。此処は浅いから」
確かに、彼女は湖の中に平然と立っている。
深さは、足首くらい……およそ十センチといったところか。
当然奥に行けば行くほど深くなっていくのだろうが。
奥に行かなければ沈まないと分かったからなのか、アラグも湖の中に入った。
そのまま、剣を片手にフィッシュマンの頭が浮いている場所まで歩いていく。
フィッシュマンの頭が浮いている場所の深さは、アラグの腰ほどまでしかなかった。
何かが棲んでいるとしたら……もっと奥。本当に滝壺の近くか。
アラグは周囲を見回して、フィッシュマンの頭をひとつ担ぎ上げた。
そしてそれを、こともあろうに滝壺に向かって投げつけた。
どぷん、と水柱を立てて沈んでいくフィッシュマンの頭。
水面に波紋が広がり、そして消える。
「……ハズレか」
肩を竦めて、彼は踵を返した。
その胴に、太い何かが絡み付く!
「!?」
アラグの姿が水面下に消える。巻き付いた何かに水中へと引き摺り込まれたのだ。
異変に気付いた僕とフラウが、同時に彼がいた場所に目を向けた。
「アラグ!」
「トルネード!」
フラウが魔法を滝壺に向けて放った。
巨大な竜巻が辺りの水を巻き上げて派手に撒き散らす。
そして、水面下に潜んでいたそれを強引に表へと引き摺り出した。
十メートルはあろうかという巨大なぶよぶよとした体。くるりと巻いた太い八本の触手。金色に輝く丸い眼。
蛸だ──それも、規格外の大きさの。
「あれは……」
僕は息を飲んだ。
「オクトラーケン……!」
オクトラーケン──本来は海域に生息する魔物で、その大きさは巨大なものになると二十メートルを超える。同じ海域に生息するイカの魔物であるクラーケンの亜種と言われているが、その生態は謎に包まれており、嵐になった時しか海面に姿を見せないので普段は海底に生息しているのではないかというのが定説だが、その実体は定かではない。
普通はこんな穴倉の中にいるような生物ではないのだが、おそらくこの湖の何処かに大きな穴が空いており、そこから入り込んでそのまま棲みついたのだろう。
水面に浮いているフィッシュマンの残骸は、オクトラーケンが襲って食べた跡か。
このままでは、オクトラーケンに捕まったアラグも同じ目に遭うことになる。
僕は精一杯の声量でオクトラーケンの触手に捕まっているアラグに向かって叫んだ。
「アラグ! 食われる前に何とか振り払え!」
「言われなくても、やってる!」
アラグは胴に巻き付いた触手に剣を突き立てていた。
しかし、剣では触手の薄皮を切るのが関の山のようだ。振りほどくほどのダメージは与えられていない。
おそらく、並の武器では駄目なのだ。もっと、強烈な一撃を与えられる手段がないと。
「フラウ! 触手を狙え!」
「分かってる!」
フラウは杖の先端をアラグが捕まっている触手に向けて、叫んだ。
「アイシクルランス!」
どがっ、と氷の槍が触手に深く突き刺さる。
衝撃で、触手の力が緩んだ。
その隙に、アラグは束縛から逃れて湖に飛び込んだ。
フラウは更に数発同じ魔法を叩き込みながら、何とかアラグがこちらに逃れてくるまでの時間を稼いだ。
獲物を逃したオクトラーケンが、怒りの目を向けるようにぎょろりと僕たちを睨んだ。
「こいつは……狩り甲斐があるな!」
アラグは剣を構え直して唇をぺろりと舐めた。
あんな目に遭っても、この男は目の前のこの魔物を狩ることを諦めはしないらしい。
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