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第62話 魔列車で行く旅
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街に帰還してヒュージバジリスクの討伐が完了したことを報告すると、街の人々はそれはもうお祭り騒ぎのように喜んだ。
早速残った巣の撤去のために人が派遣され、一日足らずで魔列車は元通り運行可能な状態になった。
余談だが、巣の撤去に向かった人手の大半が街に仕事探しのために滞在していた冒険者だったらしい。ヒュージバジリスクがいなくなったと分かった途端に仕事に食いつくなんて、少しは冒険者らしく体を張る仕事もしろよってツッコミを入れたくなったのはここだけの話だ。
俺たちには、ヒュージバジリスクを討伐した謝礼として街からちょっと高級な腸詰めの詰め合わせが贈られることになった。主に貴族御用達で一般人の口には滅多に入らないような高級肉を使って作られた特製の腸詰めなのだそうだ。
食糧は幾らあったっていい。有難く頂戴することにした。
しばらくは肉づくしね、というのはアラヤの談だ。
運行を再開した魔列車には、大勢の利用客がいた。
その殆どが商人で、後は貴族と思わしき整った見た目の人たちがちらほら。一般人の利用客はおらず、冒険者の姿もなかった。
その理由は、運賃にあった。
隣の街まで一人につき百ルクと、馬鹿みたいな価格設定なのだ。
何でこんなに高額なのかというと、何でも魔列車の動力として使われている魔石が貴重なもののため、その維持費を工面するためにこの値段になってしまったらしい。
それじゃあ一般人はともかく冒険者の利用者がいない理由も分かるよ。百ルクあれば旅に必要な道具が色々揃えられるもんな。
俺たちが目指している国境の街は、この街から数えて四つ目にある街で、そこまでの運賃は一人当たり四百ルクかかるとのこと。
合計千二百ルクの出費とか……一般人の一月分の生活費を超えるなんて、びっくりだ。
魔列車ってセレブの乗り物だったんだな。
魔列車に乗ろうと最初に言い出したのはリンネだけど……彼女はこれだけ運賃がかかることを知っていて乗ろうと言ったのだろうか。
実はリンネって、俺が思っている以上に稼ぎのある商人なのかもしれない。
まあ、乗ると言った以上は仕方ない。俺たちは運賃を払って切符を買い、魔列車に乗車した。
目的地に着くまでの間は、ちょっとした金持ち気分を味わうことにしますかね。
客席は布張りのふかふかとした椅子で、肘掛けも付いている上等な作りのものだった。
走行中の魔列車はそれなりに揺れるが、その衝撃が気にならないくらいに座り心地は良かった。
運賃が高いのは動力の魔石のせい……と言っていたが、どうやらそれ以外の箇所にもそれなりに金がかけられているらしい。
窓から吹き込んでくる風が気持ち良い。
こうしていると、ちょっとした旅行を楽しんでる気分になるな。
俺の目の前では、アラヤが外の景色を眺めながらお茶を飲んでいた。
彼女は食材以外にも色々な種類のお茶を常備しており、気分に合わせて飲むお茶を変えるのだと言っていた。
因みに今彼女が飲んでいるのはラク茶というこの国では比較的安価で手に入る香草茶らしい。
味が気になったので一口味見させてもらったのだが、煮出しすぎて渋くなったウーロン茶みたいな味で、俺の口にはあまり合わなさそうな代物だった。
アラヤの隣では、リンネが地図を描く時に使っているペンを取り出してその先端をあれこれ弄っていた。
彼女曰く、最近インクの出があまり良くないらしい。インクの残量が少ないのか、それともペンに寿命が来ているのかは分からないが、そろそろ何とかしないとなぁと彼女は呟いていた。
目的地の街に着いたら雑貨屋を覗いてみるかな。ペンが書けなくなって地図が作れなくなったら俺も困ることだし。
俺の隣では、ソルが椅子の背凭れに全身を預けて豪快ないびきをかいていた。
彼女は普段から何かと体を張る役割を担ってるから、久々に体を動かさないゆったりとした旅で緊張が解けたのだろう。目的地に到着するまではまだまだ時間があるし、このまま寝かせておこうと思う。
それにしても……凄いいびきだな。とても女のものだとは思えない。
ソルは格好も言動も男っぽいし、顔も中性的だし、彼女が女だということを時々忘れそうになるよ。
……いかん。眠気が移った。
くぁ、と欠伸をする俺。
つんとした鼻頭を指で摘まんで揉みながら、視線を何となく車内に向ける。
丁度隣の車両から移ってきたのか、厚めの生地の外套を身に着けた客が車内に入ってきたところだった。
外套と同じ生地でできたマフラーで顔を隠しており、性別どころか髪の色も分からない。背はそこそこ高く、外套の下に鎧か何かを着ているのか体のラインが歪な形をしている。
同じ格好をした客は全部で四人おり、その人物たちは車内をぐるりと見回した後、外套を翻しながら突如として野太い男の声を張り上げた。
「全員大人しくしろ! この列車は我々が乗っ取った!」
ひゅ、と風が裂ける音。奴らが立っている位置から最も近い場所にあった座席に座っていた貴族と思わしき乗客の一人が、悲鳴を上げながら床に倒れる。
乗客の体に、斜めに入った巨大な傷がある。その傷から少なくない量の血が溢れ出て、床を濡らしていった。
先頭に立っている外套の男が右手を掲げる。その手には、血に濡れた一振りの剣が握られていた。
早速残った巣の撤去のために人が派遣され、一日足らずで魔列車は元通り運行可能な状態になった。
余談だが、巣の撤去に向かった人手の大半が街に仕事探しのために滞在していた冒険者だったらしい。ヒュージバジリスクがいなくなったと分かった途端に仕事に食いつくなんて、少しは冒険者らしく体を張る仕事もしろよってツッコミを入れたくなったのはここだけの話だ。
俺たちには、ヒュージバジリスクを討伐した謝礼として街からちょっと高級な腸詰めの詰め合わせが贈られることになった。主に貴族御用達で一般人の口には滅多に入らないような高級肉を使って作られた特製の腸詰めなのだそうだ。
食糧は幾らあったっていい。有難く頂戴することにした。
しばらくは肉づくしね、というのはアラヤの談だ。
運行を再開した魔列車には、大勢の利用客がいた。
その殆どが商人で、後は貴族と思わしき整った見た目の人たちがちらほら。一般人の利用客はおらず、冒険者の姿もなかった。
その理由は、運賃にあった。
隣の街まで一人につき百ルクと、馬鹿みたいな価格設定なのだ。
何でこんなに高額なのかというと、何でも魔列車の動力として使われている魔石が貴重なもののため、その維持費を工面するためにこの値段になってしまったらしい。
それじゃあ一般人はともかく冒険者の利用者がいない理由も分かるよ。百ルクあれば旅に必要な道具が色々揃えられるもんな。
俺たちが目指している国境の街は、この街から数えて四つ目にある街で、そこまでの運賃は一人当たり四百ルクかかるとのこと。
合計千二百ルクの出費とか……一般人の一月分の生活費を超えるなんて、びっくりだ。
魔列車ってセレブの乗り物だったんだな。
魔列車に乗ろうと最初に言い出したのはリンネだけど……彼女はこれだけ運賃がかかることを知っていて乗ろうと言ったのだろうか。
実はリンネって、俺が思っている以上に稼ぎのある商人なのかもしれない。
まあ、乗ると言った以上は仕方ない。俺たちは運賃を払って切符を買い、魔列車に乗車した。
目的地に着くまでの間は、ちょっとした金持ち気分を味わうことにしますかね。
客席は布張りのふかふかとした椅子で、肘掛けも付いている上等な作りのものだった。
走行中の魔列車はそれなりに揺れるが、その衝撃が気にならないくらいに座り心地は良かった。
運賃が高いのは動力の魔石のせい……と言っていたが、どうやらそれ以外の箇所にもそれなりに金がかけられているらしい。
窓から吹き込んでくる風が気持ち良い。
こうしていると、ちょっとした旅行を楽しんでる気分になるな。
俺の目の前では、アラヤが外の景色を眺めながらお茶を飲んでいた。
彼女は食材以外にも色々な種類のお茶を常備しており、気分に合わせて飲むお茶を変えるのだと言っていた。
因みに今彼女が飲んでいるのはラク茶というこの国では比較的安価で手に入る香草茶らしい。
味が気になったので一口味見させてもらったのだが、煮出しすぎて渋くなったウーロン茶みたいな味で、俺の口にはあまり合わなさそうな代物だった。
アラヤの隣では、リンネが地図を描く時に使っているペンを取り出してその先端をあれこれ弄っていた。
彼女曰く、最近インクの出があまり良くないらしい。インクの残量が少ないのか、それともペンに寿命が来ているのかは分からないが、そろそろ何とかしないとなぁと彼女は呟いていた。
目的地の街に着いたら雑貨屋を覗いてみるかな。ペンが書けなくなって地図が作れなくなったら俺も困ることだし。
俺の隣では、ソルが椅子の背凭れに全身を預けて豪快ないびきをかいていた。
彼女は普段から何かと体を張る役割を担ってるから、久々に体を動かさないゆったりとした旅で緊張が解けたのだろう。目的地に到着するまではまだまだ時間があるし、このまま寝かせておこうと思う。
それにしても……凄いいびきだな。とても女のものだとは思えない。
ソルは格好も言動も男っぽいし、顔も中性的だし、彼女が女だということを時々忘れそうになるよ。
……いかん。眠気が移った。
くぁ、と欠伸をする俺。
つんとした鼻頭を指で摘まんで揉みながら、視線を何となく車内に向ける。
丁度隣の車両から移ってきたのか、厚めの生地の外套を身に着けた客が車内に入ってきたところだった。
外套と同じ生地でできたマフラーで顔を隠しており、性別どころか髪の色も分からない。背はそこそこ高く、外套の下に鎧か何かを着ているのか体のラインが歪な形をしている。
同じ格好をした客は全部で四人おり、その人物たちは車内をぐるりと見回した後、外套を翻しながら突如として野太い男の声を張り上げた。
「全員大人しくしろ! この列車は我々が乗っ取った!」
ひゅ、と風が裂ける音。奴らが立っている位置から最も近い場所にあった座席に座っていた貴族と思わしき乗客の一人が、悲鳴を上げながら床に倒れる。
乗客の体に、斜めに入った巨大な傷がある。その傷から少なくない量の血が溢れ出て、床を濡らしていった。
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