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第59話 沈黙した魔列車
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腹が満たされた俺たちは、食品店に訪れていた。
この街は腸詰め発祥の街ということもあって主食は肉らしく、様々な種類の肉が塊肉で売られていた。
この世界では畜産もそれなりに行われているらしく、牛や豚といった魔物ではない生き物の肉もそれなりに売られていたが、メインはやはり魔物肉。他の街よりも遥かに安価で、様々な肉が取引されていた。
アラヤが欲しがっていた腸詰めの材料も売られていた。
シープの腸という羊の魔物の腸で、その見た目は細長いゴム風船に似ていた。他の街ではまず扱っていなさそうな食材ではあるが、この街では特に珍しい品でもないらしく、安い肉よりも更に安い値段で店頭に並べられていた。
この袋に挽き肉を詰めて、腸詰めを作るらしい。その辺の作り方は日本のソーセージと一緒なんだな。
アラヤは早速シープの腸を大量買いしていた。屋台の腸詰め料理を色々と食べているうちに、自分でもオリジナルの腸詰めを作ってみたくなったそうだ。
彼女は他にも料理に使う油やスパイス、野菜など、大量の食材を買い込んでいた。俺たちという旅の同行者が増えて一度の料理で消費する食材の量が増えたので、今まで以上に食材をストックして持ち歩くことにしたらしい。
そんなに買い込んで……腐ったりしないんだろうか。ボトムレスの袋は大量に荷物を入れられる道具ではあるけれど、冷蔵庫じゃないから、生の食材を長期保存するのには向かないと思うんだけどな。
まあ、その辺のことは彼女も分かっているだろう。俺が心配するだけ無駄というやつか。
そんな感じで食糧を大量に補充した俺たちは、街の中心地──魔列車の乗り場である駅へと向かった。
街を二つに分けるようにして、黒い色をした線路が伸びている。
その上に、黒い色をした細長い物体が停まっていた。
見た目は、昔の日本で走っていたSLと殆ど同じだ。煙突があって見た目もごつい先頭車両の後ろに客を乗せるための車両が幾つか連結されており、最後尾には物資運搬用と思われる箱のような車両が付いている。
これが魔列車か。想像していたよりも立派な乗り物だな。
見たところ、中に人が乗っている様子はない。動力も動いていないようだが……
まだ発車時刻じゃないのかな。
俺は乗り場の前に建っている門のような形の建物に向かい、そこに立っている駅の関係者と思わしき人物に声を掛けた。
「あの。魔列車に乗りたいんだけど……いつ発車するんだ? これ」
「魔列車は当分走らないよ。線路を魔物が塞いじゃってるからな」
係員の男は、渋い顔をしながら説明してくれた。
何でも、線路の上にヒュージバジリスクという魔物が巣を作ってしまったらしく、それが邪魔でここしばらくは魔列車が走っていない状態なのだそうだ。
ヒュージバジリスクとは、蜥蜴の魔物の一種だ。心臓の鼓動すら一瞬で止めてしまうほどの強烈な麻痺毒を持っており、家ほどの大きさもある巨体から繰り出される力は岩をもあっさり砕く。竜ではないが、竜に匹敵するほどの脅威となりうる魔物なのである。
街に立ち寄る冒険者に討伐を依頼してはいるものの、冒険者の方もヒュージバジリスクの恐ろしさを知っているためか、仕事を引き受けてくれる者がいなくて難儀しているらしい。
ヒュージバジリスクか……下手をすれば以前戦ったツインヘッドよりも手強い相手だ。加えて咬まれたら即死するかもしれない毒持ちともあっちゃ、戦おうとする人間がいないのも分かる気がする。
でも、このまま魔列車が動かないのは困る。
俺たちは、国境を越えるために東に行かねばならないのだ。そのためには、何としても魔列車には動いてもらわなければならないのである。
俺は後方に控えているソルたちの方に振り向いた。
彼女たちは俺の言わんとしていることを察しているようで、仕方ないなというニュアンス混じりに言った。
「魔列車に乗れなきゃ先に行けないんだろ? ま、仕方ないよな。一肌脱いでやるよ」
「此処で魔列車に乗れなかったら、険しい山道を幾つも越えていく羽目になっちゃう。そんなのはボクは御免だなぁ」
「ヒュージバジリスク……初めて見る魔物ね。どんな味がするのかしら? 楽しみだわぁ」
皆もやる気満々だし(若干一名やる気の方向性がずれているような気もするが)、何より街の人が困っているというのならそれを見過ごすつもりはない。
俺は、自分たちがその魔物を討伐してやると申し出た。
ヒュージバジリスクが巣を作っている場所は、街を出て少し進んだところにあるという。徒歩で一日ほどかかる距離らしいが、その近くまで魔列車で運んでもらえることになった。魔列車に乗って行けばその場所まで一時間もかからないのだそうだ。
先頭車両を切り離して身軽になった魔列車に、魔物討伐の話を聞きつけて集まってきた駅の関係者や街の商人たちに見送られながら乗り込んだ。
煙突が勢い良く蒸気を吐き出した。魔列車は魔石に秘められた魔力を動力に動く乗り物なのでSLのように炭が燃える匂いはしなかったが、特別な乗り物に乗っているという雰囲気満載で何だかどきどきする。
がたん、と車体を揺らしながら魔列車がゆっくりと発車する。
その速度は新幹線並みに速く、みるみるうちにグステルの街並みは後方に流れていき、見えなくなった。
目的地まで、一時間。それまではのんびりと景色を楽しみながら待つことにしよう。
俺は車両の先頭に移動して、そこに胡坐をかいて座り、風を全身に浴びながら魔列車が走る様子を眺めて過ごすことにした。
この街は腸詰め発祥の街ということもあって主食は肉らしく、様々な種類の肉が塊肉で売られていた。
この世界では畜産もそれなりに行われているらしく、牛や豚といった魔物ではない生き物の肉もそれなりに売られていたが、メインはやはり魔物肉。他の街よりも遥かに安価で、様々な肉が取引されていた。
アラヤが欲しがっていた腸詰めの材料も売られていた。
シープの腸という羊の魔物の腸で、その見た目は細長いゴム風船に似ていた。他の街ではまず扱っていなさそうな食材ではあるが、この街では特に珍しい品でもないらしく、安い肉よりも更に安い値段で店頭に並べられていた。
この袋に挽き肉を詰めて、腸詰めを作るらしい。その辺の作り方は日本のソーセージと一緒なんだな。
アラヤは早速シープの腸を大量買いしていた。屋台の腸詰め料理を色々と食べているうちに、自分でもオリジナルの腸詰めを作ってみたくなったそうだ。
彼女は他にも料理に使う油やスパイス、野菜など、大量の食材を買い込んでいた。俺たちという旅の同行者が増えて一度の料理で消費する食材の量が増えたので、今まで以上に食材をストックして持ち歩くことにしたらしい。
そんなに買い込んで……腐ったりしないんだろうか。ボトムレスの袋は大量に荷物を入れられる道具ではあるけれど、冷蔵庫じゃないから、生の食材を長期保存するのには向かないと思うんだけどな。
まあ、その辺のことは彼女も分かっているだろう。俺が心配するだけ無駄というやつか。
そんな感じで食糧を大量に補充した俺たちは、街の中心地──魔列車の乗り場である駅へと向かった。
街を二つに分けるようにして、黒い色をした線路が伸びている。
その上に、黒い色をした細長い物体が停まっていた。
見た目は、昔の日本で走っていたSLと殆ど同じだ。煙突があって見た目もごつい先頭車両の後ろに客を乗せるための車両が幾つか連結されており、最後尾には物資運搬用と思われる箱のような車両が付いている。
これが魔列車か。想像していたよりも立派な乗り物だな。
見たところ、中に人が乗っている様子はない。動力も動いていないようだが……
まだ発車時刻じゃないのかな。
俺は乗り場の前に建っている門のような形の建物に向かい、そこに立っている駅の関係者と思わしき人物に声を掛けた。
「あの。魔列車に乗りたいんだけど……いつ発車するんだ? これ」
「魔列車は当分走らないよ。線路を魔物が塞いじゃってるからな」
係員の男は、渋い顔をしながら説明してくれた。
何でも、線路の上にヒュージバジリスクという魔物が巣を作ってしまったらしく、それが邪魔でここしばらくは魔列車が走っていない状態なのだそうだ。
ヒュージバジリスクとは、蜥蜴の魔物の一種だ。心臓の鼓動すら一瞬で止めてしまうほどの強烈な麻痺毒を持っており、家ほどの大きさもある巨体から繰り出される力は岩をもあっさり砕く。竜ではないが、竜に匹敵するほどの脅威となりうる魔物なのである。
街に立ち寄る冒険者に討伐を依頼してはいるものの、冒険者の方もヒュージバジリスクの恐ろしさを知っているためか、仕事を引き受けてくれる者がいなくて難儀しているらしい。
ヒュージバジリスクか……下手をすれば以前戦ったツインヘッドよりも手強い相手だ。加えて咬まれたら即死するかもしれない毒持ちともあっちゃ、戦おうとする人間がいないのも分かる気がする。
でも、このまま魔列車が動かないのは困る。
俺たちは、国境を越えるために東に行かねばならないのだ。そのためには、何としても魔列車には動いてもらわなければならないのである。
俺は後方に控えているソルたちの方に振り向いた。
彼女たちは俺の言わんとしていることを察しているようで、仕方ないなというニュアンス混じりに言った。
「魔列車に乗れなきゃ先に行けないんだろ? ま、仕方ないよな。一肌脱いでやるよ」
「此処で魔列車に乗れなかったら、険しい山道を幾つも越えていく羽目になっちゃう。そんなのはボクは御免だなぁ」
「ヒュージバジリスク……初めて見る魔物ね。どんな味がするのかしら? 楽しみだわぁ」
皆もやる気満々だし(若干一名やる気の方向性がずれているような気もするが)、何より街の人が困っているというのならそれを見過ごすつもりはない。
俺は、自分たちがその魔物を討伐してやると申し出た。
ヒュージバジリスクが巣を作っている場所は、街を出て少し進んだところにあるという。徒歩で一日ほどかかる距離らしいが、その近くまで魔列車で運んでもらえることになった。魔列車に乗って行けばその場所まで一時間もかからないのだそうだ。
先頭車両を切り離して身軽になった魔列車に、魔物討伐の話を聞きつけて集まってきた駅の関係者や街の商人たちに見送られながら乗り込んだ。
煙突が勢い良く蒸気を吐き出した。魔列車は魔石に秘められた魔力を動力に動く乗り物なのでSLのように炭が燃える匂いはしなかったが、特別な乗り物に乗っているという雰囲気満載で何だかどきどきする。
がたん、と車体を揺らしながら魔列車がゆっくりと発車する。
その速度は新幹線並みに速く、みるみるうちにグステルの街並みは後方に流れていき、見えなくなった。
目的地まで、一時間。それまではのんびりと景色を楽しみながら待つことにしよう。
俺は車両の先頭に移動して、そこに胡坐をかいて座り、風を全身に浴びながら魔列車が走る様子を眺めて過ごすことにした。
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