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第31話 兵士の世間話

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「今日の飯、美味かったな」
「ああ、野菜かと思ったら中に肉が入ってたやつな! 美味かったよな~」
 風呂に入って寛いでいると、そこかしこから兵士たちの話し声が聞こえてくる。
 彼らは周囲に遠慮して小声で話すということをしないので、会話の内容が丸聞こえだ。
「最近美味い飯が出るようになったよな。そう思わないか?」
「思う思う。今までもまあまあ美味かったんだけど、比較にならない美味さだよな」
「美味い飯食ってるからか、俺、最近身体のキレが良くってさ。訓練でもいい動きができたって部隊長に褒められたんだよな」
「おれもだよ。ひょっとして人間と戦っても勝てちゃったりして?」
「馬鹿、それは流石に自信過剰ってもんだろ」
 わはは、と大声で笑い合う魔族の背中を何気なく見つめながら、俺は湿った髪を掻き上げた。
 俺が作っている料理が兵士たちに好評だって話は何となくは聞いていたけど、実際に話しているのを聞くと「ああ、本当なんだな」って実感が湧くな。
 俺が作る料理は異世界日本でお馴染みの調味料をふんだんに使った味付けの仕方をしてるから、この世界の者たちからしたら目新しく感じられるんだろうな。
 魔王が異世界の馳走を、って騒ぐ心理も、ちょっとだけ理解できるような気がする。
「明日の朝飯も楽しみだなぁ」
「そうだな。おれとしては最近肉が多かったから魚が食いたいな」
 魚料理か……そういえば俺がこの城で料理を作るようになってから、魚っていうのは目にする機会がなかったな。
 魚は肉と比較してあまりメジャーじゃないのかね?
 魚で何か一品、作ってみるのはありかもしれないな。
「魚もいいけど、やっぱ人間だろ。獲って新鮮なやつが食いたいね、俺は」
「あー、人間な。城の食事でもたまに人間の肉は出るけど、新鮮なやつの味には敵わんよな」
 人間……食ってるのか。
 城の食事でもたまに出るって、冷蔵室にある肉に人間の肉も混じってるってことなのか?
 俺、知らず知らずのうちに人間の肉食ったりなんて、してないよな?
 何の肉なのか分からないけどとりあえず使っちゃえって感じで使ってたからなぁ……可能性は無きにしも非ずだ。
 これからは肉を使う時は気を付けないとな。
「誰か獲ってきてくれないかね、人間」
「それは遠征でもない限り無理だろ。現状人間と戦り合う機会があるのは遠征の時だけだからな」
「人間のこと考えてたら腹減ってきた」
「馬鹿、夕飯食ったばかりだろうが。太るぞ」
 ……人間が此処にいるって気付かれたら騒ぎになるな。
 風呂はゆっくりと堪能したかったんだけど、騒がれるのはいただけない。
 早々に退散するか。
 腰を浮かしかけたところで、湯船に入ってくる人影がひとつ。
「……何だ、もう上がるのか。マオ」
 グレンだ。
 全身が濡れてる狼男って何かシュールだな。
 乾いている時はふさふさなんだろう身体の毛並みがぺたっとなっていて変な感じだ。
「早風呂なんだな」
「何か落ち着いて入ってられる状況じゃなくてな。部屋でゆっくりすることにするよ」
「そうか」
 グレンは肩まで湯船に浸かって、はぁ……と息を吐いた。
 随分と気持ち良さそうだ。
 気兼ねなしに風呂に入れるグレンがちょっと羨ましい。
「それじゃ、お先」
「ああ」
 俺はざぶざぶと湯を蹴って、風呂から上がった。
 髪を乾かしたらさっさと寝よう。明日も忙しいんだろうしな。
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