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閑話 新たな勇者

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「御主を召喚したのは他でもない。御主に、この国を救ってもらいたいのだ」
 眼前に佇む若者に、王は引き締まった面持ちでそう言った。
「我々の都合で御主を無理矢理この世界に連れてきてしまったことは謝ろう。だが、そうするより他に我々には手がなかったのだ。何とか、引き受けてはもらえぬだろうか」
 勇者召喚の儀。
 クロエミナ国に古代から伝わる秘術を用いて執り行われた儀式によって、その日、新たな勇者が誕生した。
 召喚された若者の名は、来栖圭。日本の高校に通っていた十七歳の男子学生である。
 圭は、戸惑っていた。小説の中だけの話だと思っていた異世界転移が、実際に我が身に降りかかるとは思ってもいなかったからだ。
 何の変哲もない日本人の自分が、勇者になるだって?
 これから未知の体験ができるという期待と、これからどうなるんだろうという不安が、彼の胸中では渦を巻いていた。
「実は、御主を此処に召喚する前にも、別の勇者を召喚してはいたのだがな」
 クロエミナ王は、溜め息をついた。
「魔王討伐に行ったきり、戻ってはこなかった……おそらく魔王に敗れたのだろう。彼こそがこの国を救ってくれると、信じていたのだがな」
「俺の他にも、召喚された勇者がいるんですか?」
「うむ。マオという若者だ。素晴らしい能力を持った、真の勇者と呼ぶに相応しい若者であった」
「……マオ?」
 その名を耳にした圭は、目を見開いた。
 マオという名に聞き覚えがあったのだ。
 同じ高校に通い、休日にはよくつるんで遊んでいた近所に住む親友。
 その者の名こそ、真央。ある日突然行方不明になってしまった若者である。
 圭は王に尋ねた。
「真央もこの世界にいるんですか?」
「ああ。だがおそらく、もう生きてはいまい……」
 王の言葉に、圭は表情を暗くした。
 まさか、親友もこの世界に召喚されていたとは思ってもいなかったのだ。
 しかも、魔王に敗れたとは──
 もう二度と親友には会えないのか、という気持ちが、彼の中に怒りという感情を生んだ。
 怒りは、そのまま決意へと昇華した。
 圭は大きく頷き、王に言った。
「分かりました。俺、勇者になります。必ず魔王を倒して、この国を、この世界を救ってみせます!」
「そうか、引き受けてくれるか!」
 王は嬉しそうに声を上げ、玉座から立ち上がった。
 圭の傍へ歩み寄り、彼の手を取って、続けた。
「我々もただでこの国を救ってもらおうとは考えてはおらん。できる限りの援助はさせてもらう。この国の未来を、どうか宜しく頼んだぞ」
 ──こうして、新たな勇者としてこの国で活動することになった圭は、与えられた装備を手に城を出た。
 まず着手したのは、仲間探しだ。
 人との出会いを求めるには酒場が良いという小説ではお決まりの展開に従って、彼は城下町の酒場に足を運んだ。
 酒場には、昼間だというのに多くの客がいた。殆どが冒険者で、その種族も人間だけに留まらずエルフやドワーフなど、実に多様な顔ぶれが揃っている。
 真央。絶対に仇を取ってやるからな。
 胸中の思いに唇をきゅっと引き締めて、圭は酒場のマスターと思わしき男に声を掛けた。
「すみません。訊きたいことがあるのですが……」

 圭の魔王討伐の旅は、まだまだ始まったばかりだ。
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