2 / 87
第2話 魔王城の厨房
しおりを挟む
厨房は城の地下にあった。
煌びやかな上階とは違って生活臭漂う雰囲気の造りをした場所に、俺はつい見入ってしまった。
魔族って人間みたいに生活しているイメージなかったけど、こうして見ると人間と何ら変わらないんだな。
厨房は俺が通っていた高校の教室くらいの広さがある部屋で、中には竈や流し台、食材を入れた箱などが所狭しと並んでいる。
その狭い中を総勢二十名くらいの料理人がうろついているのだから、余計に手狭に見える。
衛兵は俺を引っ張って厨房の中に入ると、奥で他の料理人にあれこれと指示を飛ばしている一人の料理人の元へと向かった。
「シーグレット」
シーグレット、と呼ばれた料理人は、灰色の肌に青い髪、白い瞳の少々厳つそうな顔をした魔族の男だった。
年の頃は二十代か、三十代か……あくまで見た目の話なので実年齢は違うのだろうが、それくらいに見える。
「何だ、ロキ。衛兵がこんな場所に来るなんて、つまみ食いでもしに来たのか」
「王の命令で、新しい下働きを連れて来た」
この衛兵、ロキって名前だったんだな。どうでもいいけど。
ロキは俺の髪を掴んで引っ張ると、強引にシーグレットの前に立たせた。
「此処で料理をさせよとのことだ。料理長のお前に預ける」
「何だこいつ……人間じゃねぇか」
シーグレットの淡い光を帯びた瞳が俺の全身を舐めるように見た。
こいつ一七〇センチの俺より頭二つ分もでかいから無駄に迫力あるな。
「王も酔狂だな。人間を雇うなんざ……オレだったら遠慮するところだね。人間は食うもんであって人手にするもんじゃねぇ」
へっと笑いを零して、シーグレットは俺に言葉を向けた。
「人間。名前は」
「……真央」
これも隷属の首輪の効果なのか、俺はすんなりと相手の問いかけに答えていた。
「マオか。その首輪があるってことはオレの命令には逆らわねぇようになってるんだろうが、厨房ではオレがルールだ。肝に銘じとけ」
俺の手に填められた枷を指差して、これは外せとロキに言う。
ロキは懐から取り出した鍵で、俺の枷を外した。
やっと手が自由になった。ずっと何かで縛られてたもんだから手首がちょっと痛い。
手首を摩る俺の肩を掴んで、シーグレットは厨房を見回した。
「此処では、王に出す食事の他に城で働いている兵士の食事も作っている。そういうわけで此処は常に戦場だ。お前も此処で働くからには、そのことを常に頭に入れておけ。分かったな」
兵士って何人いるんだか知らないが、これだけ巨大な城だ。勤めている兵士の数はそれなりにいるのだろう。
それだけの人数分の食事を作るのだから、確かに此処は戦場になるな。
「まず、お前がどれほどの腕前を持ってるのか見せてもらう」
シーグレットは俺を調理台に連れて行くと、目の前にまな板と包丁を置いた。
「まかないを作れ。材料は此処にあるもんなら何を使ってもいい。できるな?」
……いきなり料理を作れときたか。
俺は、自慢じゃないが家庭科の成績は良かった。料理をするのは嫌いではないのだ。
魔族のために料理をするのは、勇者としては思うところがあるが……
やってやるよ。俺がただの人間じゃないってことを、これで証明してみせるからな。
煌びやかな上階とは違って生活臭漂う雰囲気の造りをした場所に、俺はつい見入ってしまった。
魔族って人間みたいに生活しているイメージなかったけど、こうして見ると人間と何ら変わらないんだな。
厨房は俺が通っていた高校の教室くらいの広さがある部屋で、中には竈や流し台、食材を入れた箱などが所狭しと並んでいる。
その狭い中を総勢二十名くらいの料理人がうろついているのだから、余計に手狭に見える。
衛兵は俺を引っ張って厨房の中に入ると、奥で他の料理人にあれこれと指示を飛ばしている一人の料理人の元へと向かった。
「シーグレット」
シーグレット、と呼ばれた料理人は、灰色の肌に青い髪、白い瞳の少々厳つそうな顔をした魔族の男だった。
年の頃は二十代か、三十代か……あくまで見た目の話なので実年齢は違うのだろうが、それくらいに見える。
「何だ、ロキ。衛兵がこんな場所に来るなんて、つまみ食いでもしに来たのか」
「王の命令で、新しい下働きを連れて来た」
この衛兵、ロキって名前だったんだな。どうでもいいけど。
ロキは俺の髪を掴んで引っ張ると、強引にシーグレットの前に立たせた。
「此処で料理をさせよとのことだ。料理長のお前に預ける」
「何だこいつ……人間じゃねぇか」
シーグレットの淡い光を帯びた瞳が俺の全身を舐めるように見た。
こいつ一七〇センチの俺より頭二つ分もでかいから無駄に迫力あるな。
「王も酔狂だな。人間を雇うなんざ……オレだったら遠慮するところだね。人間は食うもんであって人手にするもんじゃねぇ」
へっと笑いを零して、シーグレットは俺に言葉を向けた。
「人間。名前は」
「……真央」
これも隷属の首輪の効果なのか、俺はすんなりと相手の問いかけに答えていた。
「マオか。その首輪があるってことはオレの命令には逆らわねぇようになってるんだろうが、厨房ではオレがルールだ。肝に銘じとけ」
俺の手に填められた枷を指差して、これは外せとロキに言う。
ロキは懐から取り出した鍵で、俺の枷を外した。
やっと手が自由になった。ずっと何かで縛られてたもんだから手首がちょっと痛い。
手首を摩る俺の肩を掴んで、シーグレットは厨房を見回した。
「此処では、王に出す食事の他に城で働いている兵士の食事も作っている。そういうわけで此処は常に戦場だ。お前も此処で働くからには、そのことを常に頭に入れておけ。分かったな」
兵士って何人いるんだか知らないが、これだけ巨大な城だ。勤めている兵士の数はそれなりにいるのだろう。
それだけの人数分の食事を作るのだから、確かに此処は戦場になるな。
「まず、お前がどれほどの腕前を持ってるのか見せてもらう」
シーグレットは俺を調理台に連れて行くと、目の前にまな板と包丁を置いた。
「まかないを作れ。材料は此処にあるもんなら何を使ってもいい。できるな?」
……いきなり料理を作れときたか。
俺は、自慢じゃないが家庭科の成績は良かった。料理をするのは嫌いではないのだ。
魔族のために料理をするのは、勇者としては思うところがあるが……
やってやるよ。俺がただの人間じゃないってことを、これで証明してみせるからな。
0
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる