40 / 78
第40話 背水の陣
しおりを挟む
メネとカエラの力は拮抗していた。
しかし、持っている得物の差が、じりじりと勝負の行方を一方に傾けつつあった。
そりゃそうだろう。ただの棒と、鎌なのだ。
あの鎌の切れ味がどの程度のものなのかは分からないが、そんなものを叩き付けられ続けるメネの立場からしたら、気持ちに余裕がなくなるのも無理はないと思う。
いつしか、カエラが斬撃を仕掛け、それをメネが受け止めるという、メネが防戦一方に回る構図が出来上がっていた。
妖精たちは、争いに魔法を使わない。彼女たちが使う魔法には、戦いに役立つものがないからだ。
だから、この戦いが終わるのは──
どちらか一方の得物が相手を叩きのめした時、なのだ。
「くっ……」
カエラから距離を取って肩を上下させるメネ。
長い間鍔迫り合いを続けていたせいもあって、彼女の体力は限界に近付いていた。
身体はふらふらとしており、必死に羽ばたいてはいるが一点に留まれていない。
それを、同じように肩で息をしてはいるがメネよりも余裕を見せているカエラが笑いながら見据える。
「どうやら、勝負あったようね。貴女にはもう、私の鎌を防ぐ余力はないわ」
カエラは鎌をぐるりとバトンのように回転させて、上段に構えた。
「さあ、今すぐこの牧場作りをやめて神界に帰りなさい。そうすれば、痛い目を見ずに済むのよ?」
「……断るわ」
メネはぐっと息を飲んで棒の先端をカエラに向けた。
「メネはこの世界を蘇らせるために一生懸命この牧場を作ってるの。それをやめるなんて、できるわけないじゃない!」
「……馬鹿な子ね。大人しく私の忠告を聞いていれば、誰も傷付かずに済んだというのに」
カエラは鎌を振り下ろした。
それを、最後の力を振り絞って受け止めるメネ。
がいん、と金属がぶつかり合う音がして──
ぼろり、とメネの手から棒が落ちた。
「ちょっと痛いわよ。覚悟なさい」
鎌の刃がひゅっと風を切る。
メネは無防備に佇んでいる。
このままだと、カエラの鎌はメネの身体を切り裂くことになるだろう。
そうは──させない!
僕は二人の間に割って入り、力を込めた左腕を顔の前で構えた。
ざく、と鎌の先端が僕の左腕を切り裂く。
痛みを感じると同時に血が溢れ出て、肘を伝ってぽつぽつと地面に落ちた。
「!……邪魔──」
「……僕もいることを忘れてもらったら困るよ」
痛さに声を上げそうになったが、何とかそれは堪えた。
奥歯を噛み締めながら、僕はまっすぐにカエラを見据えた。
「僕も、メネと一緒にこの牧場を作ってる仲間なんだ。メネ一人に苦しい思いをさせたりなんかしない。僕とメネは、肩を並べて支え合う仲間なんだ!」
「……魔法ひとつ使えない人間のくせに!」
カエラは険しい顔をして僕を睨むと、僕から離れて左手をこちらに向けて翳した。
「思い知らせてやるわ、人間が妖精に逆らうことが如何に愚かなことかを!」
彼女の掌が、茜色に輝く。
人の頭ほどの大きさがある炎の球が、彼女の眼前に出現した。
「……そんな、まさか!」
メネが素っ頓狂な声を上げる。
「カエラ! 掟を破ったの!? 神界の神たちが黙ってないわよ!」
「私にはもう後がないの。掟を守ろうが破ろうが、同じことよ!」
声を張り上げるカエラ。
彼女が生んだ火球は、僕の頭を狙って高速で宙を飛んだ。
「キラ! 避けて!」
メネの声に押されるように、僕はその場を横跳びに離れた。
火球は僕が立っていた位置を横切って、メネの脇を掠め、地面に着弾し派手な火の粉を撒き散らした。
しかし、持っている得物の差が、じりじりと勝負の行方を一方に傾けつつあった。
そりゃそうだろう。ただの棒と、鎌なのだ。
あの鎌の切れ味がどの程度のものなのかは分からないが、そんなものを叩き付けられ続けるメネの立場からしたら、気持ちに余裕がなくなるのも無理はないと思う。
いつしか、カエラが斬撃を仕掛け、それをメネが受け止めるという、メネが防戦一方に回る構図が出来上がっていた。
妖精たちは、争いに魔法を使わない。彼女たちが使う魔法には、戦いに役立つものがないからだ。
だから、この戦いが終わるのは──
どちらか一方の得物が相手を叩きのめした時、なのだ。
「くっ……」
カエラから距離を取って肩を上下させるメネ。
長い間鍔迫り合いを続けていたせいもあって、彼女の体力は限界に近付いていた。
身体はふらふらとしており、必死に羽ばたいてはいるが一点に留まれていない。
それを、同じように肩で息をしてはいるがメネよりも余裕を見せているカエラが笑いながら見据える。
「どうやら、勝負あったようね。貴女にはもう、私の鎌を防ぐ余力はないわ」
カエラは鎌をぐるりとバトンのように回転させて、上段に構えた。
「さあ、今すぐこの牧場作りをやめて神界に帰りなさい。そうすれば、痛い目を見ずに済むのよ?」
「……断るわ」
メネはぐっと息を飲んで棒の先端をカエラに向けた。
「メネはこの世界を蘇らせるために一生懸命この牧場を作ってるの。それをやめるなんて、できるわけないじゃない!」
「……馬鹿な子ね。大人しく私の忠告を聞いていれば、誰も傷付かずに済んだというのに」
カエラは鎌を振り下ろした。
それを、最後の力を振り絞って受け止めるメネ。
がいん、と金属がぶつかり合う音がして──
ぼろり、とメネの手から棒が落ちた。
「ちょっと痛いわよ。覚悟なさい」
鎌の刃がひゅっと風を切る。
メネは無防備に佇んでいる。
このままだと、カエラの鎌はメネの身体を切り裂くことになるだろう。
そうは──させない!
僕は二人の間に割って入り、力を込めた左腕を顔の前で構えた。
ざく、と鎌の先端が僕の左腕を切り裂く。
痛みを感じると同時に血が溢れ出て、肘を伝ってぽつぽつと地面に落ちた。
「!……邪魔──」
「……僕もいることを忘れてもらったら困るよ」
痛さに声を上げそうになったが、何とかそれは堪えた。
奥歯を噛み締めながら、僕はまっすぐにカエラを見据えた。
「僕も、メネと一緒にこの牧場を作ってる仲間なんだ。メネ一人に苦しい思いをさせたりなんかしない。僕とメネは、肩を並べて支え合う仲間なんだ!」
「……魔法ひとつ使えない人間のくせに!」
カエラは険しい顔をして僕を睨むと、僕から離れて左手をこちらに向けて翳した。
「思い知らせてやるわ、人間が妖精に逆らうことが如何に愚かなことかを!」
彼女の掌が、茜色に輝く。
人の頭ほどの大きさがある炎の球が、彼女の眼前に出現した。
「……そんな、まさか!」
メネが素っ頓狂な声を上げる。
「カエラ! 掟を破ったの!? 神界の神たちが黙ってないわよ!」
「私にはもう後がないの。掟を守ろうが破ろうが、同じことよ!」
声を張り上げるカエラ。
彼女が生んだ火球は、僕の頭を狙って高速で宙を飛んだ。
「キラ! 避けて!」
メネの声に押されるように、僕はその場を横跳びに離れた。
火球は僕が立っていた位置を横切って、メネの脇を掠め、地面に着弾し派手な火の粉を撒き散らした。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。
Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。
そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。
二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。
自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる