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第29話 喧嘩
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「えーと……こうかな……」
庭先で。僕は右手を構えて、必死に念じていた。
これは、魔法の練習をしているのだ。
ラファニエルにはああ言われたし、それなら仕方ないとメネも僕に魔法の力を諦めるように言ってきたが、僕としてはやはり魔法を使うことを諦め切れなかったのである。
ラファニエルは僕に特別な力は授けてはくれなかったけど、こんな世界だし、ひょっとしたら僕にもちょっとくらいは魔法の力が備わっているかもしれない。
そう思って、先程から魔法の力が発現するように念を込めてはいるのだが、成果はさっぱりだった。
やっぱり、魔法を使える人に教えてもらわないと駄目なのかなぁ……
溜め息をついて、僕は右手に念を込め直した。
そうしていると、家の中からメネが飛んできた。
「キラ、卵が動いたよ。そろそろ生まれるんじゃないかな──」
メネは僕の姿を見て、目を瞬かせて訝った。
「……キラ、何してるの?」
「ああ、メネ」
僕は右手を下ろした。
「魔法の練習だよ。やっぱりどうしても諦め切れなくてさ。ひょっとしたらちょっとくらいはできるかもって、特訓してたんだ」
「……キラは魔法がない世界から来たんでしょ? だったらラファニエルの力もなしに魔法を使うことなんてできっこないよ」
メネは腰に手を当てて、呆れたように言った。
「キラが魔法ができなくても、その分メネが頑張るって言ったじゃない。それじゃ駄目なの?」
牧場が広がっている方の大地に目を向ける彼女。
「このお庭も、牧場も、畑も、休息地もメネの魔法で作ったんだよ。メネがいれば、エルを育てるのに必要なものは作れるでしょ。それなのに……」
「それはそうなんだけど。やっぱり……ね?」
僕は頬を指で掻きながら笑った。
すると、それが気に入らなかったのか、メネはぷうっと頬を膨らませた。
「……キラは、メネのことが信用できないの? だからできもしない魔法の練習をしてるの?」
「そういうわけじゃないよ。ただ、僕は……」
「そういうわけじゃないって、じゃあどういうわけなの!? キラはメネが頼りにならないから、そうして魔法を使えるようになろうとしてるんでしょ!」
急にメネが大声を出したので、僕はぎょっとして言葉に詰まってしまった。
何でメネは怒ったのだろう。僕は、何かメネの機嫌を損ねるようなことを言っただろうか。
胸中で疑問を投げかけるが、それでメネの怒りが収まるわけもなく。
メネは泣きそうな顔をしながら、僕に向かって怒鳴り続けた。
「メネは一生懸命にやってるつもりなの! それなのに酷い! キラの中でのメネの扱いってそんなものだったんだ!」
「……何も、そういう風に言うことはないんじゃないかな」
流石に怒鳴られ続けると、僕の方も良い気分はしないわけで。
僕は表情を暗くして、反論した。
「僕が魔法を使えるようになったらそんなに不都合なわけ? メネこそ、僕のことを無能な人間みたいに扱ってるじゃないか。自分のことは棚に上げて、そういうことを言うんだ?」
睨み合う二人。
そのまま沈黙の時がしばし流れ、やがてメネの方からぷいっと視線を逸らした。
「もう知らないっ!」
そのまま、彼女は何処かへと飛んでいってしまった。
この世界で彼女が行ける場所なんて限られているから、そう遠くへは行かないだろうが……
今の言い合いでちょっと頭にきていた僕には、それを気にする気もなかった。
「……何だよ、全く」
ふう、と溜め息をついて、僕は家の方に目を向けた。
そういえば、卵が動いたってメネが言ってたんだっけ。エルが生まれるかもしれないから、見に行ってあげないと。
卵から生まれたばかりのエルの世話は何度も経験している。メネがいなくたって、一人で立派にやれる。
そう。メネがいなくたって……
早く行こう。
僕は魔法の練習を切り上げて、卵が待つ生命の揺り籠へと向かった。
庭先で。僕は右手を構えて、必死に念じていた。
これは、魔法の練習をしているのだ。
ラファニエルにはああ言われたし、それなら仕方ないとメネも僕に魔法の力を諦めるように言ってきたが、僕としてはやはり魔法を使うことを諦め切れなかったのである。
ラファニエルは僕に特別な力は授けてはくれなかったけど、こんな世界だし、ひょっとしたら僕にもちょっとくらいは魔法の力が備わっているかもしれない。
そう思って、先程から魔法の力が発現するように念を込めてはいるのだが、成果はさっぱりだった。
やっぱり、魔法を使える人に教えてもらわないと駄目なのかなぁ……
溜め息をついて、僕は右手に念を込め直した。
そうしていると、家の中からメネが飛んできた。
「キラ、卵が動いたよ。そろそろ生まれるんじゃないかな──」
メネは僕の姿を見て、目を瞬かせて訝った。
「……キラ、何してるの?」
「ああ、メネ」
僕は右手を下ろした。
「魔法の練習だよ。やっぱりどうしても諦め切れなくてさ。ひょっとしたらちょっとくらいはできるかもって、特訓してたんだ」
「……キラは魔法がない世界から来たんでしょ? だったらラファニエルの力もなしに魔法を使うことなんてできっこないよ」
メネは腰に手を当てて、呆れたように言った。
「キラが魔法ができなくても、その分メネが頑張るって言ったじゃない。それじゃ駄目なの?」
牧場が広がっている方の大地に目を向ける彼女。
「このお庭も、牧場も、畑も、休息地もメネの魔法で作ったんだよ。メネがいれば、エルを育てるのに必要なものは作れるでしょ。それなのに……」
「それはそうなんだけど。やっぱり……ね?」
僕は頬を指で掻きながら笑った。
すると、それが気に入らなかったのか、メネはぷうっと頬を膨らませた。
「……キラは、メネのことが信用できないの? だからできもしない魔法の練習をしてるの?」
「そういうわけじゃないよ。ただ、僕は……」
「そういうわけじゃないって、じゃあどういうわけなの!? キラはメネが頼りにならないから、そうして魔法を使えるようになろうとしてるんでしょ!」
急にメネが大声を出したので、僕はぎょっとして言葉に詰まってしまった。
何でメネは怒ったのだろう。僕は、何かメネの機嫌を損ねるようなことを言っただろうか。
胸中で疑問を投げかけるが、それでメネの怒りが収まるわけもなく。
メネは泣きそうな顔をしながら、僕に向かって怒鳴り続けた。
「メネは一生懸命にやってるつもりなの! それなのに酷い! キラの中でのメネの扱いってそんなものだったんだ!」
「……何も、そういう風に言うことはないんじゃないかな」
流石に怒鳴られ続けると、僕の方も良い気分はしないわけで。
僕は表情を暗くして、反論した。
「僕が魔法を使えるようになったらそんなに不都合なわけ? メネこそ、僕のことを無能な人間みたいに扱ってるじゃないか。自分のことは棚に上げて、そういうことを言うんだ?」
睨み合う二人。
そのまま沈黙の時がしばし流れ、やがてメネの方からぷいっと視線を逸らした。
「もう知らないっ!」
そのまま、彼女は何処かへと飛んでいってしまった。
この世界で彼女が行ける場所なんて限られているから、そう遠くへは行かないだろうが……
今の言い合いでちょっと頭にきていた僕には、それを気にする気もなかった。
「……何だよ、全く」
ふう、と溜め息をついて、僕は家の方に目を向けた。
そういえば、卵が動いたってメネが言ってたんだっけ。エルが生まれるかもしれないから、見に行ってあげないと。
卵から生まれたばかりのエルの世話は何度も経験している。メネがいなくたって、一人で立派にやれる。
そう。メネがいなくたって……
早く行こう。
僕は魔法の練習を切り上げて、卵が待つ生命の揺り籠へと向かった。
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