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第2話 妖精の助手、メネ
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ラファニエルが言う『生命の揺り籠』は、公園の噴水のような形をした湧き水の設備だった。
薄灰色の石が円形に組まれた囲いの中は、透明な水で満たされている。湧き水なのに囲いから溢れ出ないのが不思議だ。
囲いの中央には蔦が絡み合って作られた揺り籠のようなものがあった。大きさは、今僕が抱えている卵が丁度ひとつ入るほどだ。
「これが『生命の揺り籠』です。此処に、エルの卵を置いて下さい」
「こう……ですか?」
僕は抱えていた卵を揺り籠に置いた。
「これで、卵が孵ります」
卵、温めなくてもいいんだ。
それとも、この揺り籠は神が作ったものだから神力が宿ってるとか、そういうものなのかな。
「卵が孵るのを待つ間に、色々と準備しなければならないものがあります」
ラファニエルは遠くを見た。
彼女が見る先には、窓があった。真っ赤な空以外には何も見えない窓だ。
「この世界は精霊がいなくなった影響で荒廃しています。まずは土地を開拓しなければなりません」
ラファニエルは一冊の分厚い本を何処からか取り出して、僕に手渡した。
「この本は、エルの育成方法や土地の開拓方法を記した指南書です。これを貴方に渡します。エルの育成や土地の開拓で困ったことがあったら、この本を参考にして下さい」
本を開くと、彼女の言う通り、これからの僕に必要になるであろう知識が細かい字でずらりと記されていた。
エルの育成について……エルは神果という特別な果実を食べて育つ。神果を得るには専用の畑を作り、種を蒔いて育てることによって収穫できる。か……
まずは、この畑とやらを作らなければならないようだ。
でも、どうやって? ひょっとして何もない土地を一から耕さなきゃならないのか?
僕がラファニエルに視線を送ると、彼女は大丈夫と言って微笑んだ。
「貴方に助手を紹介します。自分の力でどうにもならないことができたら彼女の力を借りて下さい」
部屋をぐるりと見回し、彼女は名を呼んだ。
「メネ。こちらにいらっしゃい」
「はぁーい」
植物の枝葉の陰から、淡いアクアマリン色をした何かが飛び出してきた。
それは、二十センチほどの大きさの小さな少女であった。アクアマリン色の髪を白い花をあしらったカチューシャで飾り、シースルーの服を着ている。背には虹色に透けた昆虫の羽。
妖精だ。
「妖精のメネです。彼女は一通りの魔法が使えるので、土地の開拓などは彼女に任せれば基本的なことはやってもらえます」
「随分若いマスターだねー。メネ張り切ってお手伝いするから、困ったことがあったら何でも言ってね!」
メネは僕の全身を観察するように僕の周囲を飛び回り、小さな手で自分の胸をとんと叩いた。
開拓は彼女が魔法でやってくれるというのなら、とりあえずは困ったことにはならないだろう。
小さな少女に頼み事をするのは少々気が引けるけど、僕はエル育成に関しては素人だし、大いに頼らせてもらおう。
それにしても……助手の魔法頼みか。せっかく異世界に来たんだし、簡単な魔法くらいは僕自身が使えるようになりたかったな。
ま、贅沢を言っても仕方ないか。
ラファニエルはすっと真面目な面持ちになり、僕の顔をじっと見つめて言った。
「私は滅多に此処には来れませんが……貴方たちのことはいつでも気に掛けています。樹良さん、貴方が作る新たな世界が大きく育つことを、楽しみにしていますよ」
「はい。精一杯頑張ります」
僕は本を胸元に抱いて、頷いた。
こうして、僕の異世界でのエル育成生活は幕を開けたのであった。
薄灰色の石が円形に組まれた囲いの中は、透明な水で満たされている。湧き水なのに囲いから溢れ出ないのが不思議だ。
囲いの中央には蔦が絡み合って作られた揺り籠のようなものがあった。大きさは、今僕が抱えている卵が丁度ひとつ入るほどだ。
「これが『生命の揺り籠』です。此処に、エルの卵を置いて下さい」
「こう……ですか?」
僕は抱えていた卵を揺り籠に置いた。
「これで、卵が孵ります」
卵、温めなくてもいいんだ。
それとも、この揺り籠は神が作ったものだから神力が宿ってるとか、そういうものなのかな。
「卵が孵るのを待つ間に、色々と準備しなければならないものがあります」
ラファニエルは遠くを見た。
彼女が見る先には、窓があった。真っ赤な空以外には何も見えない窓だ。
「この世界は精霊がいなくなった影響で荒廃しています。まずは土地を開拓しなければなりません」
ラファニエルは一冊の分厚い本を何処からか取り出して、僕に手渡した。
「この本は、エルの育成方法や土地の開拓方法を記した指南書です。これを貴方に渡します。エルの育成や土地の開拓で困ったことがあったら、この本を参考にして下さい」
本を開くと、彼女の言う通り、これからの僕に必要になるであろう知識が細かい字でずらりと記されていた。
エルの育成について……エルは神果という特別な果実を食べて育つ。神果を得るには専用の畑を作り、種を蒔いて育てることによって収穫できる。か……
まずは、この畑とやらを作らなければならないようだ。
でも、どうやって? ひょっとして何もない土地を一から耕さなきゃならないのか?
僕がラファニエルに視線を送ると、彼女は大丈夫と言って微笑んだ。
「貴方に助手を紹介します。自分の力でどうにもならないことができたら彼女の力を借りて下さい」
部屋をぐるりと見回し、彼女は名を呼んだ。
「メネ。こちらにいらっしゃい」
「はぁーい」
植物の枝葉の陰から、淡いアクアマリン色をした何かが飛び出してきた。
それは、二十センチほどの大きさの小さな少女であった。アクアマリン色の髪を白い花をあしらったカチューシャで飾り、シースルーの服を着ている。背には虹色に透けた昆虫の羽。
妖精だ。
「妖精のメネです。彼女は一通りの魔法が使えるので、土地の開拓などは彼女に任せれば基本的なことはやってもらえます」
「随分若いマスターだねー。メネ張り切ってお手伝いするから、困ったことがあったら何でも言ってね!」
メネは僕の全身を観察するように僕の周囲を飛び回り、小さな手で自分の胸をとんと叩いた。
開拓は彼女が魔法でやってくれるというのなら、とりあえずは困ったことにはならないだろう。
小さな少女に頼み事をするのは少々気が引けるけど、僕はエル育成に関しては素人だし、大いに頼らせてもらおう。
それにしても……助手の魔法頼みか。せっかく異世界に来たんだし、簡単な魔法くらいは僕自身が使えるようになりたかったな。
ま、贅沢を言っても仕方ないか。
ラファニエルはすっと真面目な面持ちになり、僕の顔をじっと見つめて言った。
「私は滅多に此処には来れませんが……貴方たちのことはいつでも気に掛けています。樹良さん、貴方が作る新たな世界が大きく育つことを、楽しみにしていますよ」
「はい。精一杯頑張ります」
僕は本を胸元に抱いて、頷いた。
こうして、僕の異世界でのエル育成生活は幕を開けたのであった。
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