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第68話 慟哭は天際に響く

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 一階のフロントまで戻ってきたアレクは、ミカを床に横たえた。
 ミカは腹を食い破られ、内臓の大半を食われているという有様だった。
 血が止め処なく流れている。それはアレクの服を濡らし、床にじっとりと広がっていく。
 どう見ても、助かるような状態ではない。
 しかしアレクは、それを認めようとはしなかった。
「ミカさん……ミカさん!」
 彼は必死に、ミカに何度も呼びかけた。
 ミカの閉ざされた瞼に力が篭もる。
 彼女は、ぼんやりと目を開けた。
 虚ろな目が、アレクの顔を捉える。
「……アレク……」
 ひゅう、と笛の音のような呼吸の音が鳴る。
 彼女は今にも消え入りそうな小さな声で、言った。
「……私……アレクの傍に、いていいんだよね……」
「何を言ってるんですか……当たり前じゃないですか!」
 怒鳴り返すアレク。
 ミカの目に涙が浮かび、筋となって零れ落ちた。
「……私……アレクの傍から……離れたくない……」
 力なく床に落ちていた手が、持ち上がる。
 それはアレクのズボンの裾を、縋り付くように握った。
「……離れたくないよ……!」
「……離すものか、絶対に!」
 アレクはミカを抱き起こして、そのまま力強く抱き締めた。
「誰にも、何にも、渡さない! 君は永遠に、僕のものだ!」
 悲鳴が沸き起こる。
 三階にいた『虚無ホロウ』が、血の臭いを辿ってアレクを追ってきたのだ。
 パニックになって辺りを駆け回る人々を押し退けるように、『虚無ホロウ』がアレクの背後にやって来る。
 血と生肉の臭いがする口を大きく開き、アレクに咬みつこうと頭を近付けた。

 どがっ!

 『虚無ホロウ』の頭が大きく割れ、『虚無ホロウ』が叫び声を上げ仰け反る。
 横から飛び込んできたレンが、手にした剣で『虚無ホロウ』の頭を断ち割ったのだ。
 『虚無ホロウ』が怒りの声を上げ、レンに襲いかかる!
 レンはそれに怯むことなく、逆に『虚無ホロウ』に踏み込んで剣を振るった。
 ばっと派手に血がしぶき、『虚無ホロウ』の頭がずるりと胴から離れる。
 頭から黒い血を被って、アレクの全身が真っ黒に染まる。
 しかしそれにも動じることなく、アレクはミカを抱き締め続けていた。
 ミカは動かない。力を失った瞳が、天井を見つめ続けている。
 『虚無ホロウ』が倒れる。黒くなった巨体が、床に転がる。
 レンはそれらを見つめて、ゆっくりと息を吐いた。
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