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第30話 時には戦うこともある
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男の一人が拳を振り上げてアレクに殴りかかってくる。
アレクはそれを纏わり付く風のように避け、カウンターで男の腹に左の拳を叩き込んだ。
「ぐ、っ!?」
男が呻いて腹を抱え、上体を折る。
アレクはその隙に男の横を駆け抜けて、別の男に肉薄した。
足を高く振り上げて、回し蹴りを男の頭めがけて食らわせる。
男はそれを間一髪で避けたが、体勢を崩した。
アレクは空振りした足をそのまま振り抜き、弧を描きながら男に背を向ける。
そのまま、背面蹴りを繰り出した。
アレクの踵は男の顎を蹴り上げた。がつんと音がして、男が尻餅をついた。
「こいつ、優男じゃないのかよ!」
「言ったよな、後悔させてやるって」
体勢を戻して三人目の男の懐に飛び込む。
体重をかけて肘を突き出す。尖った肘の先端は男の胸の中心に吸い込まれるように直撃し、男は派手に咳き込んでよろけた。
「……こいつ!」
四人目の男が険しい顔をして、ズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出した。
ぱちんと刃が起き上がり、光を反射してきらりと輝く。
アレクは怯まない。拳を構えて、真っ向から男に向かっていく!
がっ、と二人の体がぶつかり合う。
男のナイフは、アレクの脇腹に深々と突き刺さっていた。
血が滲み、じわりとシャツにしみを作っていく。
「は、はは……やってやったぜ! どうだ!」
「…………」
アレクはにやりとした。
刺さったナイフに手を掛けて、それを何の躊躇いもなく引き抜く。
男の顔から笑みが消えた。
「……くそ、アンデッドかこいつ!」
「僕を殺したかったら大砲でも持ってくるんだな」
「この野郎!」
自棄になった男が拳を振りかぶる。
突き出される拳を、アレクは首を傾けてすれすれのところで避けた。
そのまま腕を掴み、血にまみれたナイフを突き立てる!
男が悲鳴を上げる。その顔の中心めがけて、拳を叩き込む。
男は吹っ飛んで、三人目の男を巻き込んで地面の上に転がった。
「……まだやるか?」
男たちを冷たく見下ろし、アレクは言った。
男たちはよろよろと立ち上がり、口々に汚い言葉を喚きながらこの場から逃げていった。
「…………」
ふん、と彼らが去っていった方を一瞥して、アレクはミカの元に戻る。
喧嘩の一部始終を見つめていた彼女の隣に腰を下ろして、微笑みかけた。
「とんだ邪魔が入りましたね」
「……アレク、大丈夫?」
ミカの目はアレクの腹に向いている。
血がしみたシャツに目を落とし、ああ、とアレクは言った。
「大丈夫です。痛くはありませんから」
「……そう、なんだ」
「腕をもがれても、足を折られても、何も感じない……それが僕です。普通の人間とは根本的に違うんですよ」
アレクの微笑が、ふっと淋しさを帯びたものへと変わる。
「……怖いですか? 僕のこと」
この通り、僕は怪物なんだよと見せられて。
彼女は、そのことがまるで自分から距離を置こうとしているかのように思えた。
それが、何となく淋しかった。
「……ううん」
だから、精一杯否定する。
怪物でも構わない。アレクはアレクなのだと声高に主張するために。
「守ってくれて、ありがとう」
地面につかれたアレクの手に、そっと手を触れる。
アレクは穏やかに笑って、ミカの手を握り返した。
空がゆっくりと黄金に染まり、太陽が西へと落ちていく。
そよ風が吹く並木道を、二人は並んで手を繋ぎながら歩いていた。
どうやら、二人の仲はほんの少しだけど、距離が縮まったようだね。
アレクの方は、彼女に抱いている自分の気持ちを自覚はしていないようだけど──
この調子なら、それに気が付く日も遠くはない。私はそう思うよ。
アレクはそれを纏わり付く風のように避け、カウンターで男の腹に左の拳を叩き込んだ。
「ぐ、っ!?」
男が呻いて腹を抱え、上体を折る。
アレクはその隙に男の横を駆け抜けて、別の男に肉薄した。
足を高く振り上げて、回し蹴りを男の頭めがけて食らわせる。
男はそれを間一髪で避けたが、体勢を崩した。
アレクは空振りした足をそのまま振り抜き、弧を描きながら男に背を向ける。
そのまま、背面蹴りを繰り出した。
アレクの踵は男の顎を蹴り上げた。がつんと音がして、男が尻餅をついた。
「こいつ、優男じゃないのかよ!」
「言ったよな、後悔させてやるって」
体勢を戻して三人目の男の懐に飛び込む。
体重をかけて肘を突き出す。尖った肘の先端は男の胸の中心に吸い込まれるように直撃し、男は派手に咳き込んでよろけた。
「……こいつ!」
四人目の男が険しい顔をして、ズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出した。
ぱちんと刃が起き上がり、光を反射してきらりと輝く。
アレクは怯まない。拳を構えて、真っ向から男に向かっていく!
がっ、と二人の体がぶつかり合う。
男のナイフは、アレクの脇腹に深々と突き刺さっていた。
血が滲み、じわりとシャツにしみを作っていく。
「は、はは……やってやったぜ! どうだ!」
「…………」
アレクはにやりとした。
刺さったナイフに手を掛けて、それを何の躊躇いもなく引き抜く。
男の顔から笑みが消えた。
「……くそ、アンデッドかこいつ!」
「僕を殺したかったら大砲でも持ってくるんだな」
「この野郎!」
自棄になった男が拳を振りかぶる。
突き出される拳を、アレクは首を傾けてすれすれのところで避けた。
そのまま腕を掴み、血にまみれたナイフを突き立てる!
男が悲鳴を上げる。その顔の中心めがけて、拳を叩き込む。
男は吹っ飛んで、三人目の男を巻き込んで地面の上に転がった。
「……まだやるか?」
男たちを冷たく見下ろし、アレクは言った。
男たちはよろよろと立ち上がり、口々に汚い言葉を喚きながらこの場から逃げていった。
「…………」
ふん、と彼らが去っていった方を一瞥して、アレクはミカの元に戻る。
喧嘩の一部始終を見つめていた彼女の隣に腰を下ろして、微笑みかけた。
「とんだ邪魔が入りましたね」
「……アレク、大丈夫?」
ミカの目はアレクの腹に向いている。
血がしみたシャツに目を落とし、ああ、とアレクは言った。
「大丈夫です。痛くはありませんから」
「……そう、なんだ」
「腕をもがれても、足を折られても、何も感じない……それが僕です。普通の人間とは根本的に違うんですよ」
アレクの微笑が、ふっと淋しさを帯びたものへと変わる。
「……怖いですか? 僕のこと」
この通り、僕は怪物なんだよと見せられて。
彼女は、そのことがまるで自分から距離を置こうとしているかのように思えた。
それが、何となく淋しかった。
「……ううん」
だから、精一杯否定する。
怪物でも構わない。アレクはアレクなのだと声高に主張するために。
「守ってくれて、ありがとう」
地面につかれたアレクの手に、そっと手を触れる。
アレクは穏やかに笑って、ミカの手を握り返した。
空がゆっくりと黄金に染まり、太陽が西へと落ちていく。
そよ風が吹く並木道を、二人は並んで手を繋ぎながら歩いていた。
どうやら、二人の仲はほんの少しだけど、距離が縮まったようだね。
アレクの方は、彼女に抱いている自分の気持ちを自覚はしていないようだけど──
この調子なら、それに気が付く日も遠くはない。私はそう思うよ。
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