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借りてきた猫たち
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「久しぶり」
ミナミの声だとすぐにわかった
ミナミは、以前と変わらない意思の強そうな瞳でリンを見ていた
プッシールームで働いていたときより血色がよく、健康的に見えて、リンはホッとした
ミナミが自分のことを好きだと勘違いしていた時期もあった
それは、自分がミナミのことを好きだったからだ
「お元気そうで何よりです。カフェの評判上々みたいですね。こないだ雑誌に載ってるの見ましたよ」
「マジ?俺よく撮れてたっしょ?!」
店長の写真として、ミナミの顔写真も載っていて、それを見て感傷的になったりもした
「長谷川さんとはうまくやってますか?」
「ああ、あの人は店のことにはあまり口出ししないから助かるよ」
「信頼されてるんですよ」
ミナミは、結局どこまで知っているのだろうか
リンと長谷川が自分のことを取り合っていたとか、それがきっかけで決別したとかは、ミナミは知らなくていいことだとリンは思った
※※※※※※※※※※
「マサトさんかっこいー!」
エチゼンが拍手をしながら呟いた
「エチゼンは初めて見るんだっけ?」
カクテルグラスを手にした九が聞いた
「はい!」
「俺とコタは結構一緒にライブ行くよね?」
同意を求められたコタローがうなずいた
「次はお前も誘うよ。ヒヤも行く?」
「行きたいです!」
緑人は、4人の会話を眺めながら、九が、なぜこの一人だけ場違いな平凡な男に絡むのか、不思議に思っていた
「ところで、披露宴の時から気になってたんだけど、みんなはどういう知り合いなのー?」
緑人が聞こうとしたことを、戸田山が奪った
(なんでお前までちゃっかり紛れてんだよ…!)
緑人は目の前に座る戸田山を忌々しく眺めた
九とタキに他のメンバーを紹介してもらって話していると、戸田山がいきなり参加してきたのだ
そして、しっかりお目当ての【レイちゃん】の隣を陣取っている
「え~?なんだろ?腐れ縁?」
九のはぐらかし方は、女子のやり口に似ている
そして、九をはじめとして、誰一人としてはっきり答えないことに、緑人はしびれを切らしていた
「俺、実はレイちゃんの大ファンだったの。いまはプッシールームにいるの?」
戸田山がヒヤに囁きかけている声が聞こえた
ピリッとした空気が場に張りついた
緑人は(まずい)と瞬時に思った
だが、誰一人、プライベートなことを話さないこの状況においては、戸田山を生贄にして、情報を引きずり出すのもアリかと思った
ゲスい手ではあるが、正直、戸田山の好感度が下がることなんて、知ったことじゃない
「プッシールームにいるなら行きたいなあ…オナニー見せてくれるんでしょ?」
戸田山がテーブルの下で、ヒヤの手を握った
「おい!あの!」
平凡な男がいきなり立ち上がった
強気なのか低姿勢なのかわからない
「俺のツレなんで、やめてもらってもいいですか?い、嫌がってるんで…」
声が震えていた
今にも泣きそうなその姿に、緑人も心を打たれた
そして、周りからはおお~という歓声が上がった
「俺のツレ…ってことは、君ら付き合ってるの?」
戸田山の、空気を読まずグイグイいく精神は尊敬に値する
人間として好き嫌いかは別として
「そうそう!俺らゲイ仲間なのー!」
九がそれに乗っかった
しまった、と緑人は思った
ゲイ仲間でくくられてしまったら、それ以上突っ込めない
緑人が次のアプローチを思案していると、意外にも戸田山が切り返した
「へ~。君なんか、一見フツーそうなのに意外。どうやってレイちゃんと知り合ったの?俺も仲良くなりたいなー」
戸田山がエチゼンを見た
何気ない言葉のなかに、トゲトゲしいものを感じる
戸田山も、チャラそうに見えて、過酷な芸能界レースを生き残ってきただけのことはある
エチゼンは席を回ると、ヒヤの腕を引っ張って席を立たせた
その露骨な態度に戸田山の目付きが変わった
一触即発の雰囲気を察した九が、
「そういう人間だけの付き合いがあるんだよね。芸能界と一緒じゃない?」
とフォローした
会話のバランス感覚がいいモデルだ
フォローだと気づかせないところもいい
この容姿と会話力なら、テレビでも十分通用すると緑人は思った
「でも女の子もいるじゃん」
戸田山がなおも食い下がった
戸田山が言ったのは、丸いサングラスをかけたエモ系美女のことだ
「ばか。バイなんだろ」
緑人はここで九に加勢した
いま、戸田山の味方をしてもメリットはない
その時、静かに会話を聴いていたタキが吹き出した
「あはは。確かにバイもいるけど、ここに女の子はいないよ」
「え?だって、このコは?」
戸田山がエモ系美女を指差した
アキラは、ちょうど別の席から戻ってきたコノエの影に、照れくさそうに隠れた
※※※※※※※※※※※※※
「楽しそうだったじゃん。いいな~イケメンと話できて。わたしは興味ないけど」
緑人と戸田山が席に戻ると、シャンパングラスを持った彩々が絡んできた
見ると、テーブルの上に、空になったシャンパンのボトルが置いてあった
「楽しくない。あいつらぜってープッシールームのキャストなのに、口割らないの、なんなん?」
「あんたみたいなのに詮索されたくないんでしょ?」
口は悪いが、彩々の言っていることは的を射ている
二次会は、お祝いムードを残したまま、和やかに、賑やかに幕を閉じた
例え個々間で何が起きていたにしろ、それは当人たちしか知らない
当人たちしか知らないのなら、それは二次会の当初の【結婚をお祝いする】という目的に照らしてみれば、なかったことと同義だ
ミナミの声だとすぐにわかった
ミナミは、以前と変わらない意思の強そうな瞳でリンを見ていた
プッシールームで働いていたときより血色がよく、健康的に見えて、リンはホッとした
ミナミが自分のことを好きだと勘違いしていた時期もあった
それは、自分がミナミのことを好きだったからだ
「お元気そうで何よりです。カフェの評判上々みたいですね。こないだ雑誌に載ってるの見ましたよ」
「マジ?俺よく撮れてたっしょ?!」
店長の写真として、ミナミの顔写真も載っていて、それを見て感傷的になったりもした
「長谷川さんとはうまくやってますか?」
「ああ、あの人は店のことにはあまり口出ししないから助かるよ」
「信頼されてるんですよ」
ミナミは、結局どこまで知っているのだろうか
リンと長谷川が自分のことを取り合っていたとか、それがきっかけで決別したとかは、ミナミは知らなくていいことだとリンは思った
※※※※※※※※※※
「マサトさんかっこいー!」
エチゼンが拍手をしながら呟いた
「エチゼンは初めて見るんだっけ?」
カクテルグラスを手にした九が聞いた
「はい!」
「俺とコタは結構一緒にライブ行くよね?」
同意を求められたコタローがうなずいた
「次はお前も誘うよ。ヒヤも行く?」
「行きたいです!」
緑人は、4人の会話を眺めながら、九が、なぜこの一人だけ場違いな平凡な男に絡むのか、不思議に思っていた
「ところで、披露宴の時から気になってたんだけど、みんなはどういう知り合いなのー?」
緑人が聞こうとしたことを、戸田山が奪った
(なんでお前までちゃっかり紛れてんだよ…!)
緑人は目の前に座る戸田山を忌々しく眺めた
九とタキに他のメンバーを紹介してもらって話していると、戸田山がいきなり参加してきたのだ
そして、しっかりお目当ての【レイちゃん】の隣を陣取っている
「え~?なんだろ?腐れ縁?」
九のはぐらかし方は、女子のやり口に似ている
そして、九をはじめとして、誰一人としてはっきり答えないことに、緑人はしびれを切らしていた
「俺、実はレイちゃんの大ファンだったの。いまはプッシールームにいるの?」
戸田山がヒヤに囁きかけている声が聞こえた
ピリッとした空気が場に張りついた
緑人は(まずい)と瞬時に思った
だが、誰一人、プライベートなことを話さないこの状況においては、戸田山を生贄にして、情報を引きずり出すのもアリかと思った
ゲスい手ではあるが、正直、戸田山の好感度が下がることなんて、知ったことじゃない
「プッシールームにいるなら行きたいなあ…オナニー見せてくれるんでしょ?」
戸田山がテーブルの下で、ヒヤの手を握った
「おい!あの!」
平凡な男がいきなり立ち上がった
強気なのか低姿勢なのかわからない
「俺のツレなんで、やめてもらってもいいですか?い、嫌がってるんで…」
声が震えていた
今にも泣きそうなその姿に、緑人も心を打たれた
そして、周りからはおお~という歓声が上がった
「俺のツレ…ってことは、君ら付き合ってるの?」
戸田山の、空気を読まずグイグイいく精神は尊敬に値する
人間として好き嫌いかは別として
「そうそう!俺らゲイ仲間なのー!」
九がそれに乗っかった
しまった、と緑人は思った
ゲイ仲間でくくられてしまったら、それ以上突っ込めない
緑人が次のアプローチを思案していると、意外にも戸田山が切り返した
「へ~。君なんか、一見フツーそうなのに意外。どうやってレイちゃんと知り合ったの?俺も仲良くなりたいなー」
戸田山がエチゼンを見た
何気ない言葉のなかに、トゲトゲしいものを感じる
戸田山も、チャラそうに見えて、過酷な芸能界レースを生き残ってきただけのことはある
エチゼンは席を回ると、ヒヤの腕を引っ張って席を立たせた
その露骨な態度に戸田山の目付きが変わった
一触即発の雰囲気を察した九が、
「そういう人間だけの付き合いがあるんだよね。芸能界と一緒じゃない?」
とフォローした
会話のバランス感覚がいいモデルだ
フォローだと気づかせないところもいい
この容姿と会話力なら、テレビでも十分通用すると緑人は思った
「でも女の子もいるじゃん」
戸田山がなおも食い下がった
戸田山が言ったのは、丸いサングラスをかけたエモ系美女のことだ
「ばか。バイなんだろ」
緑人はここで九に加勢した
いま、戸田山の味方をしてもメリットはない
その時、静かに会話を聴いていたタキが吹き出した
「あはは。確かにバイもいるけど、ここに女の子はいないよ」
「え?だって、このコは?」
戸田山がエモ系美女を指差した
アキラは、ちょうど別の席から戻ってきたコノエの影に、照れくさそうに隠れた
※※※※※※※※※※※※※
「楽しそうだったじゃん。いいな~イケメンと話できて。わたしは興味ないけど」
緑人と戸田山が席に戻ると、シャンパングラスを持った彩々が絡んできた
見ると、テーブルの上に、空になったシャンパンのボトルが置いてあった
「楽しくない。あいつらぜってープッシールームのキャストなのに、口割らないの、なんなん?」
「あんたみたいなのに詮索されたくないんでしょ?」
口は悪いが、彩々の言っていることは的を射ている
二次会は、お祝いムードを残したまま、和やかに、賑やかに幕を閉じた
例え個々間で何が起きていたにしろ、それは当人たちしか知らない
当人たちしか知らないのなら、それは二次会の当初の【結婚をお祝いする】という目的に照らしてみれば、なかったことと同義だ
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