新宿プッシールーム

はなざんまい

文字の大きさ
上 下
68 / 113

猫たちの新生活(2)

しおりを挟む
新郎あっち側のメンバー、どういう集まり?」

滋の招待客の俳優、諏訪緑人すわりょくとが、シャンパンに口をつけながら女優の長沼彩々ながぬまささに耳打ちした

「知らない。シロートに興味ない」
「いやいや、見てみなよ。タダモノじゃなさそうな面々がいるんだよ」
「旦那がバンドマンだからでしょ?」

彩々は料理から目を離そうとしない

美人で演技もうまいが、愛想のなさはかなりのものだ


緑人はもう一度、新郎側の席を見た


バンドメンバーもいるが、それとは明らかに違う、異彩を放つ団体

「俺も気になってた」

プロデューサーが横から口を挟んだ

華のある素人が気になってしまうのは、もはや職業病の域だ


「俺は気づいちゃいましたー」

緑人の目の前に座る若手俳優の戸田山壮馬とだやまそうまがドヤ顔で緑人とプロデューサーを見た

「何々?」

「右端の黒のパンツスーツにパールのネックレスの美人は九ちゃんですよ。モデルの。あと、レイくんもいますね。ゲイビのAV俳優なんですけど、去年引退したはず」

「ゲイビなんて、あんたなんで知ってるのよ」

興味がないと言っていた彩々が食いついた

「ダチにレイくんファンがいたんですよ。見せてもらったことがあるんですが、すっげー美人で俺もしばらくはまりました。あとで写真撮らせてもらおーっと」

壮馬はレイことヒヤに視線を送ったが、全然気づかれない

ヒヤは他人にあまり興味がないため、視野が狭い

今でこそプッシールームのメンバーとはよく話すが、入ってしばらくはマサトとエチゼンしか名前と顔が一致していなかった


「九って、聞いたことあるな。彼も確か関係で騒がれてなかった?」

プロデューサーが九を見た

九なら視線に気がつけば手くらい振ってきそうだが、目が悪いからプロデューサーが自分を見ていることに気づいてすらいない


「プッシールームっつうゲイ向けの風俗店で働いてる動画が流出したんですよ。あのメンバーその繋がりなのかな?だとしたら新郎何者?って話になりますよね」

「何その交遊関係。の知り合い多いんですアピール?わたしはLGBTやらに理解ありますよーって?」

「彩々さん」

彩々の毒舌には慣れていたが、さすがにこの場にそぐわない発言だと感じ、緑人は彩々をたしなめた






「なんか視線を感じる…気がする」

新婦側の席に背を向けて座っているエチゼンが、フォークを握りしめたまま、背中を丸めた

「エチゼンって、そんなに自意識過剰だった?」

大好物のフォアグラを頬張りながらミナミが言った

「あんたらとつるんでたら、嫌でもそうなります!」

「失礼なヤツだなあ。ヒヤ、こいつはいつもこんなか?」

ミナミが、自分の隣に座るヒヤに聞いた

「俺といてもそこまでではないんですけど、確かに九さんやコノエさんと遊びに行くと卑屈になって帰ってくるかも」

ヒヤは、エチゼンと付き合いはじめてから、自殺未遂をしなくなった

爪噛みは、客に嫌な言葉を投げ掛けられた時や、エチゼンと喧嘩をした時などに出るが、それも親指だけとコントロールしている

そのお陰で、カトラリーを操る手は、どこに出しても恥ずかしくないくらいきれいだった



「お前ら、楽しんでるか?」

各テーブルを回ってデザートをサーブしていたマサトと滋が、プッシールームのテーブルにやってきた

「おめでとうございまーす!」

全員で声を張り上げたため、新郎友人席はにわかに騒がしくなり、周りの視線が集まった

「お前ら、学生ノリかよ」

今日のマサトは無精髭も剃り、髪もワックスできれいに整えていて、滋の隣に立っていても見劣りしないほどかっこよかった

「みんな、来てくれてありがとう」

滋が一人一人の顔を見て言った

幸せというベールをまとった花嫁の美しさは格別だ

「好きなデザートを取り分けるから、言ってね」

滋の言葉を聞いて、
「滋さんきれー!」
「打掛もよかったけど、ウェディングドレスも似合ってますね!」
九、ヒヤ、タキがいち早く滋のところに群がった

話しながらもしっかりとデザートを指定する姿は女子そのものだ


「あれで合コンできねーかなー」
「あれ、滋さん以外は男だから」

4人がウフフと話す姿を見たコノエの発言に、エチゼンがすかさずツッこんだ



「二次会も来るだろ?」

残りのメンバーには、マサトが適当に盛ったものを渡した


「行きまーす」
アヤメが手を挙げた横で、コタローも手を挙げた

「そういえば、リンは?」

ミナミは、神前式の時から気になっていたことをマサトに聞いた


「…ちょい急用ができたらしくて、昨日、連絡もらったよ」

ずっと笑顔だったマサトの表情が一瞬曇った


「そっか、俺も久しぶりだから会いたかったんですけどね」

ミナミにも、リンに対して思うところがあるのだろう

結果的に、決別をさせてしまったことを、マサトは心苦しく思っていた

「二次会は来れるって言ってたから、安心しろ」

マサトはミナミの頭をポンポンと叩いた

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

自称チンタクロースという変態

ミクリ21
BL
チンタク……? サンタクじゃなくて……チンタク……? 変態に注意!

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...