新宿プッシールーム

はなざんまい

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スコティッシュフォールド(2)

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(クソッ!クソッ!)

ミナミは繁華街の裏道に並ぶゴミ箱を蹴飛ばしながら歩いた

昨日のうちに彼女は出ていった

一発殴ってやろうかと思ったがそんな度胸もない

それどころか、言い返しもせずにこんなところで憂さ晴らしをしてるなんて、彼女の言う通り、本当に底辺になった気分だった

(気分ってなんだよ。実際底辺なんだよ)

グレーの蓋付きのゴミ箱を蹴飛ばすと、中から生ゴミと一緒に一匹のネズミが出てきた

ネズミは走った先で立ち止まり、鼻をヒクヒクさせて辺りを見回すと、振り返ってミナミを見た

その時、店の裏口が開いて、ガタイはいいが品の良さそうなバーテンが出てきた

バーテンは倒れたゴミ箱から散乱した生ゴミとミナミを見比べた

「お前何してんだよっ!」

男の声に驚いてネズミが逃げていった

「あー!」

ネズミにも裏切られたような気がして、ミナミはその場に座りこんだ

もう限界だった

※※※※※※※※※※※

バーテンに店の中に入れられ、ミナミは他のスタッフに見張られる形でカウンター席に座った

やがて、裏口の掃除をし終わったバーテンが、他のスタッフに二言三言何か伝えてからミナミのところにやって来た

「で、どういうこと?」
「理由話せば帰してくれんのかよ。いまからバイトなんだよ」
「理由もなくゴミ箱蹴飛ばして回ってたらサイコパスでしょ」

若いと思ったバーテンは、よく見ると、40代くらいの渋い中年だった

バーテンは、ミナミの全身をなめ回すように見て、
「素面でこの辺でうろついてあんなことしてるってことは、飲み屋か水商売…ホスト…にしては歳いってるか」
と言った

鋭い見立てだ

「どこの店?」

男はカウンターの中のスタッフに水を持ってこさせて、ミナミの前に置いた

ミナミは半ばやけくそ状態で
「プッシールーム2号店」
と答えた

バーテンは、店名を聞くと驚いたような顔をして、

「あそこの…プレイヤーか?」
「そうだけど、あんた行ったことあるの?」

プレイヤーという名称は店独特のもので、行ったことがなければわからないはずだ

「いや、知り合いが働いていてね」

バーテンは、あご髭を触りながら何やら考えていた

「で、何か?仕事で嫌な思いでもしたか?」

バーテンは、『話してみろよ』とでも言ってるかのように、優しく微笑んだ



ミナミは観念した



「女にフラれたから」
「女にフラれた?」

バーテンが吹き出した

「女にフラれてゴミ箱蹴飛ばして歩くなんて中坊かよ。ああ、おかしい」


彼女ならまだしも、会ったばかりの人間にまでバカにされるなんて

ミナミは拳を握りしめた

「…底辺って言われたんだ。だから結婚できないって」
「そりゃそうだろうな」

バーテンは深くうなずいた

「お前はどう見ても底辺だよ。これからどうするつもりだ?」
「…仕事したい。まともなやつ。できれば正社員で、きちんと働きたい」
「お前にできるとは思えないけどな」
「何でたよ?!初対面のお前に何がわかるんだよ!」

ミナミはカッとなってカウンターを蹴った

足の爪先がジンジンと痛かった

「ゴミ箱だけじゃなくカウンターまで。お前はいくつ俺の店のものを壊すつもりだよ」
「俺の店?」
「俺、ここのオーナー。他にも新宿に何店舗か持ってるからあんま暴れんなよ。ついでに言うと、プッシールームお前の店のオーナーとはツレだから」

ミナミは目の前が真っ暗になった


 
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