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切ない日々をきみと
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鏡越しの朝陽が、少し頬を紅潮させてお願いしますと頷く。頷き返した恭生は、頭を美容師モードに切り替える。
朝陽の髪は少し伸びている。時間はまだたっぷりあるから、カットするのも手だ。だが朝陽の整った顔なら、今の長さのまま前髪を上げるのも新鮮で印象がいいだろう。前髪に指をかけ持ち上げてみると、やはり思った通りだ。更にモテてしまうだろうと思うと、正直面白くはないのだが。
今日は朝陽が世界一格好いい男であってほしい。
もちろん恭生にとっては、毎日そうだけれど。
「ワックスで前髪上げていいか?」
「うん。恭兄に全部おまかせする」
「ありがと。じゃあやってくな」
手元のワゴンには、ワックスが数種類準備してある。朝陽の髪質に合うものを探していると、村井が近づいてきた。今日も今日とて、指名の予約が詰まっているだろうに。一瞬手が空いたようだ。
「こんにちは! 兎野のお知り合いですか?」
「あ……はい。そうです」
「村井ー。朝陽が驚いてるだろ」
「ごめんごめん。仲良さそうだったから、つい声かけちゃった」
ワックスを手に伸ばし、朝陽の前髪に指を通すと、村井もそれいいな、と隣で頷く。恭生は素直に鼻を高くする。だがまだなにか言いかけた村井を、そこまで、と遮る。
「村井のアイディアは絶対的確だけど、朝陽はオレがかっこよくしたいから。それ以上は禁止」
「えー、褒められた?」
「うん、めっちゃ褒めてる」
「やった。てか兎野と朝陽さん、ほんと仲良いんすね」
「そうですね」
喜んだ村井は、朝陽に視線を送りながらそう言った。セットしている最中だからだろう、首を動かすのを耐えつつ朝陽が返事をする。目の前でふたりの視線が交わっているのが、なんだか面白くない。朝陽を連れてきたのはオレなのに、なんて。ガキかよ、と内心苦笑しつつ、恭生は口を開く。
「朝陽はオレのいちばんだから」
「……え?」
村井がぽかんとした顔をして、朝陽は目を見開く。
男同士で付き合っていることを、特別隠すつもりはないと朝陽は以前言っていた。恭生も、村井にはいつか伝えようと思っていたが、美容師談義にばかり花が咲いて機会を逃してきた。村井が勘づいたなら、それでいい。
だが村井が口を開きかけたところで、村井を指名で予約している客が来店した。今行きます、と声を上げながら、恭生の脇腹を肘でつついてくる。
「兎野~! もっとゆっくりできる時に聞きたかったんだけど!」
「はは、ごめん」
「もうー。じゃあ俺行くわ。朝陽さん、今日は卒業おめでとうございます。ごゆっくり」
「あ、はい。ありがとうございます」
名残惜しそうに晴れやかな笑顔を向けた村井は、そのテンションのまま客の待つほうへと歩いていく。
まったく、騒がしくて良いヤツだ。ついくすくすと笑いつつ、朝陽のセットを終える。前髪を上げ、サイドも後ろのほうに向かって流れるようにセットした。
「よし、できた。どう? 後ろはこんな感じ」
「わ、めっちゃいいね。俺じゃないみたい。恭兄すげー……」
「はは、ありがと。じゃあ行くか」
朝陽の髪は少し伸びている。時間はまだたっぷりあるから、カットするのも手だ。だが朝陽の整った顔なら、今の長さのまま前髪を上げるのも新鮮で印象がいいだろう。前髪に指をかけ持ち上げてみると、やはり思った通りだ。更にモテてしまうだろうと思うと、正直面白くはないのだが。
今日は朝陽が世界一格好いい男であってほしい。
もちろん恭生にとっては、毎日そうだけれど。
「ワックスで前髪上げていいか?」
「うん。恭兄に全部おまかせする」
「ありがと。じゃあやってくな」
手元のワゴンには、ワックスが数種類準備してある。朝陽の髪質に合うものを探していると、村井が近づいてきた。今日も今日とて、指名の予約が詰まっているだろうに。一瞬手が空いたようだ。
「こんにちは! 兎野のお知り合いですか?」
「あ……はい。そうです」
「村井ー。朝陽が驚いてるだろ」
「ごめんごめん。仲良さそうだったから、つい声かけちゃった」
ワックスを手に伸ばし、朝陽の前髪に指を通すと、村井もそれいいな、と隣で頷く。恭生は素直に鼻を高くする。だがまだなにか言いかけた村井を、そこまで、と遮る。
「村井のアイディアは絶対的確だけど、朝陽はオレがかっこよくしたいから。それ以上は禁止」
「えー、褒められた?」
「うん、めっちゃ褒めてる」
「やった。てか兎野と朝陽さん、ほんと仲良いんすね」
「そうですね」
喜んだ村井は、朝陽に視線を送りながらそう言った。セットしている最中だからだろう、首を動かすのを耐えつつ朝陽が返事をする。目の前でふたりの視線が交わっているのが、なんだか面白くない。朝陽を連れてきたのはオレなのに、なんて。ガキかよ、と内心苦笑しつつ、恭生は口を開く。
「朝陽はオレのいちばんだから」
「……え?」
村井がぽかんとした顔をして、朝陽は目を見開く。
男同士で付き合っていることを、特別隠すつもりはないと朝陽は以前言っていた。恭生も、村井にはいつか伝えようと思っていたが、美容師談義にばかり花が咲いて機会を逃してきた。村井が勘づいたなら、それでいい。
だが村井が口を開きかけたところで、村井を指名で予約している客が来店した。今行きます、と声を上げながら、恭生の脇腹を肘でつついてくる。
「兎野~! もっとゆっくりできる時に聞きたかったんだけど!」
「はは、ごめん」
「もうー。じゃあ俺行くわ。朝陽さん、今日は卒業おめでとうございます。ごゆっくり」
「あ、はい。ありがとうございます」
名残惜しそうに晴れやかな笑顔を向けた村井は、そのテンションのまま客の待つほうへと歩いていく。
まったく、騒がしくて良いヤツだ。ついくすくすと笑いつつ、朝陽のセットを終える。前髪を上げ、サイドも後ろのほうに向かって流れるようにセットした。
「よし、できた。どう? 後ろはこんな感じ」
「わ、めっちゃいいね。俺じゃないみたい。恭兄すげー……」
「はは、ありがと。じゃあ行くか」
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