おれより先に死んでください

星むぎ

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おれより先に、

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 一週間もおあずけをして、待ちわびたからだろうか。とろ火にかけられた欲情がやっと解放される時を迎えたから、ゆるやかな刺激も余すことなく拾ってしまうのだろうか。

 絶頂を見たはずなのに一向に熱は引かず、腹の奥はぐらぐらと沸騰し続ける。

「朝陽。もう本当に体平気か? 頭痛くなったりしてない?」
「一回もないよ。大丈夫」
「よかった。そしたら、こっち……してほしい」

 朝陽の手をとって、後ろのほうへと導く。朝陽の指先がそこに触れた瞬間、ふるりと体を震わせたのはふたりともだった。

 自分の震えの正体は分かっている。朝陽の熱い体を今か今かと待っているからだ。
 だが朝陽はどうだろう。この期に及んで不安を覚える。もしも躊躇するものがあるなら、寄り添ってやりたい。

「朝陽? なあ、やっぱり無理だったら……」
「違う」

 だが朝陽は、恭生の言葉を遮ってまで否定する。

「ふう……指、入れていい?」
「……うん。あっ」
「ああ……やばい。恭兄、痛かったら言って。絶対に言って」

 ひどくゆっくりと、狭いところをつぷつぷと広げるように、ローションを纏った朝陽の指が入ってくる。受け入れているのは恭生なのに、朝陽まで感じ入ったような声をあげる。共鳴し合うみたいに、耳の中にまで快感がひろがる。見上げた先では、朝陽の目に涙が浮かんでいる。

「っ、朝陽? どうした?」
「恭兄、しんどくない?」
「うん、平気。朝陽、キスしよ」
「うん」

 両手を上げて、朝陽の首をそっと引く。くちびるを合わせた後、目尻にたまった雫を拭う。

「俺さ、本当にたくさん調べたんだ。受け入れるほうってさ、最初は痛いとか苦しいとか書いてあって」
「そうだな」
「恭兄にそんな思いさせたくないのに。それでも俺、してほしいって恭兄に言われた時、すげー嬉しくて」
「朝陽……」
「恭兄、ごめん、好き。大好き。俺、ここに入りたい」

 恭生の中でじっとしていた指に、ゆっくり力がこめられる。腹側にじわじわと押し上げられる動きが、脳まで一気に駆け抜ける。

「っ、は? あっ、なんで」
「恭兄?」
「最初から気持ちいいわけじゃない、って、オレも見た。でも、なんで? 朝陽、それ、きもちいい」

 この一週間、風呂場でこっそり中を慣らしてきた。快感を拾える場所があることも、情報としては知っている。それでも自分の指には違和感しかなかったのに。

 朝陽が自分の内側に触れている。痛い思いはさせたくないと葛藤をしながらも。だからだろうか、制御の利かない感覚に襲われる。

 初めてなのに、これ以上なんて知らないのに。もっと先が今すぐ欲しい。

「朝陽、なあ、もう入れてほしい」
「っ、それはだめ、まだ全然狭いから」
「やだ、待てない」
「だーめ」

 苦しそうに眉間を寄せている朝陽だって、今すぐ入りたいだろうに。ひたすら大事にされているのだと胸が詰まる。だが今は、もどかしさが勝る。

「じゃあ、オレもする」
「え?」

 朝陽の指が入っている自分のそこへ、恭生も手を伸ばす。朝陽の指と絡めるように人差し指を沈め、少しずつ押し広げる。

「恭兄、なにして……」
「だって、早くほしい、から。オレもする。朝陽、朝陽」

 羞恥心はある、ものすごく。それを蹴散らすほどに、朝陽が欲しいだけだ。

「あー、もう、勃ちすぎて痛い。恭兄!」
「んあっ」 

 敏感な口の中をひっきりなしに暴かれながら、受け入れたくて堪らないそこに、朝陽の指が増えていく。
 自分の指でほぐしてきた昨日までを、とっくに超えている。なのに、異物感こそあれど痛みはない。朝陽の指に自分の指を絡め、一緒に引き抜く。

「朝陽、本当にもういい。なあ、入れて?」
「ん……じゃあ、入れる」
「うん」

 緊張をした顔で、頬にひとつキスが落ちてきた。髪の中に両手を差しこむと、朝陽が目を眇めた。
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