おれより先に死んでください

星むぎ

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まだあげない

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「恭兄……」
「ん?」

 ひと息ついて、お互いの手をティッシュで拭う。気恥ずかしさに顔が見られないでいたら、朝陽が間近から覗きこんできた。

「もっとしたい」
「……え?」
「恭兄はさ、男同士の、セックス……知ってる?」
「そ、れは……朝陽は知ってんのか?」
「知ってるよ。恭兄としたくて、いっぱい調べたから」

 思いも寄らない質問に、危うく咽そうになった。
 恥じらっていたという朝陽は、一体どこに消えてしまったのか。

 もっととねだられただけでも驚いたのに、朝陽の口からセックスなんて単語が出たことにたじろぐ。ましてや、男同士のそれを知っている、だなんて。

「お、オレも知ってる。けど……」
「じゃあ、したい。だめ?」
「それは……だめ、だろ」
「なんで? 俺とそこまではしたくない?」
「違う、そうじゃなくて……」

 恭生だって、いつか朝陽と、と夢見ていた。だがそれはもっと遠いことのように思えて、深くまで考えていなかった。例えばポジションをどうするか、ということだ。

 だが今、恭生の中にたしかに芽生えている感覚がある。

「あ、あのさ、朝陽はどっちがいい、とかあんの? ……その、挿れるか、挿れられるか」
「それは……」
「オレは……はは、どうしよ。オレ、朝陽に抱かれたい、みたい」
「っ、恭兄……」

 口に出したことで、欲望がくっきりと形を持ってしまった。

 経験があるのは自分だけだから、リードしてあげたい。だとしたら自分は抱くほうになるのだろうか、なんてぼんやり考えたこともあったのに。

 だが朝陽と触り合って、触れられる幸せを知ってしまった。自分はずっと、こうされたかったのだと気づいてしまった。

 男が好きで、いや、朝陽が好きで。そうされたいのだと魂だけは、きっと分かっていた気がする。

「え、っと。朝陽、嫌だったらごめんな。でも、オレは……」
「嫌じゃない」
「っ、朝陽?」

 朝陽がきつく抱きしめてくる。首筋の薄い皮膚にそっと吸いつかれる。その感触に震えると、くちびるにキスが落ちてきた。

「恭兄とちゃんと相談するつもりだったよ。でも俺は、出来れば……恭兄のこと抱きたい、って。思ってた」
「朝陽……」

 またひとつ想いが通じ合って、緩みっぱなしの涙腺から涙が落ちる。それを啜っていると、シャツの中に手が忍びこんできた。

 だが恭生は、服の上から朝陽の手を掴む。
 抱かれたい、今すぐに。でも拒まなければならない理由があった。

「朝陽、だめ」
「っ、なんで?」
「退院したばっかだから、じっとしてろって言ったろ。まだお預け。な?」
「……っ。いつまで?」
「ちょっと調べたんだけど、スポーツ選手が脳震盪になったら、一週間は休むらしい」
「俺はアスリートじゃないし、問題なしって先生も言ってた」
「そうだけど。でも頼む、心配だから。朝陽も一週間はなるべく安静にしててほしい」

 朝陽の膨らんだ頬にキスをする。しぼんでくれなくてもう片方に、それからくちびるにも。

 朝陽の言い分は分かる。恭生だって、昂ぶった想いを今すぐここでぶつけ合いたい。

 でもそれでも。朝陽の体以上に大事なものなんてない。

「一週間経ったら、抱いてほしい」
「……恭兄はずるい」
「うん、ごめん」
「ううん、わがまま言って俺もごめん。大事にしてくれてるんだって分かってるよ。ちゃんと待つ」
「うん、いい子だな。その間にさ、オレちゃんと、準備……したりしとくから」
「準備?」
「うん、その……知ってるだろ。すぐ入るわけじゃないって」
「……自分でほぐすってこと?」
「そういうことだな」
「……恭兄のせいでまた勃った」

 ぎゅっとしがみついて、首筋を甘噛みされる。跡がつかない加減なのに、そんなことをされては恭生のそこもまた兆し始める。

「あ、バカ。そんなこと言われたら、オレも……」

 ゆるゆるとパンツ越しに擦りつけ合って、それだけでうっとりするような心地で。深く舌を絡めて、最後にぐっと押しつけ合って。

 一週間後を切望しながらふたりで高みを目指すのは、胸が震えるほどに切なくて、ひどく気持ちがよかった。
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