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エピローグ-1
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“ごめん、今日はどうしても欲しい雑誌の発売日なんだ”
アフレコの休憩中、“夕方から空いているか”と午前中に送ったメッセージへの返信を見て、飲んでいたコーヒーを咽そうになったのを梓はどうにか堪えた。
自惚れだけれど、怜が欲しがっている雑誌は梓が初めて表紙を飾っているものだろう。
発売情報を見つけた怜に『梓くんこれ見て! 表紙だって! すごい!』と興奮しながら教えられたのは、半月ほど前だったか。
もちろんそこに写る本人なのだから知っていたのだが、敢えて内緒にしていたので怜の鮮やかな反応は宝物にしたいほど嬉しいものだった。
“俺も一緒に行きたいです”
こんな事が以前にもあったなと懐かしく思いながら、梓は返事を送信する。
怜との関係、自分が相山梓だと怜が知っている事――変わった事はたくさんあるが、怜への想いだけは変わらない。いや、あの頃より怜を好きになっている自信があるし、あの頃より仕事も増えているから生まれ変わったかのように違っているのかもしれない。
怜が齎したこの今をしっかり歩いて、未来に繋いでいきたい。意気込んだ梓はスマートフォンを仕舞って、ぐっと背伸びをした。
「次はこっちのお店に行ってもいい?」
「もちろん。今度は何を買うんですか?」
白く染まった二人分の息が、暮れた繁華街の夜空に吸い込まれる。
春に訪れた時、手を繋いで走り出したショップで目当ての雑誌を購入した怜は、それを大事そうに両手で抱えながら梓を見上げた。
「同じだよ」
「同じ?」
「梓くん知らない? お店ごとに特典で貰えるポストカードが違うんだよ」
「……え、もしかしてそれ全部揃えるんですか!?」
「うん」
当然、とでも言うように得意げに鼻を鳴らして頷く怜は堪らなく可愛いが、梓はつい目を丸くした。
もちろん知らないわけがない。特典のそのポストカードだって、写っているのは全て自分なのだから。
怜が欲しがっていた雑誌は梓の想像通り自身が表紙のもので、それだけでスキップでもしてしまいそうなくらいだったのに。それを何冊も買うと恋人は言うのだ。
「…………」
「梓くん? どうかし……顔真っ赤」
「見ないでください……」
手で覆い隠していた火照った頬が、怜に見つかってしまった。熱の引かない肌をどうにか紛らわせようとしていたのに、ちらりと見やった先で怜も頬を染めているのに梓は気づいてしまう。
「なんで怜さんも赤いんですか?」
「え……あー、はは、なんでだろうね? 梓くんのがうつっちゃったのかな」
手を取って路地裏に引き込んでしまいたい衝動を、梓はどうにか堪える。つい今まで相山梓のファンの顔をしていた愛しい人が、恋人の顔で瞳を揺らしているのだから仕方ないだろう。
「外じゃなかったらキスしてました」
「え……え!?」
「怜さん、早く行きましょ? 全部って事はあと三件ありますよね」
怜の背に手を添えて歩き出す。急かしたくはないのだが、今すぐに抱きしめたくなったのを我慢しているのだから許してほしい。
人の波を縫って進みながらたまに絡まる視線にときめいている事を、冬の息は途切れ途切れに恋人に知らせてしまうから参った。
雑誌の日も夕飯は買って済ませますか、と梓が問えば、怜は『雑誌は初めてだけど……それもいいね』と笑って頷いた。
特典のために同じ雑誌を何冊も買ってくれる事は、梓にとって喜びの中に申し訳なさが入り混じるのもまた事実だった。半分は自分が買うと申し出れば『今までCDしか買ってなかったから、僕は嬉しいんだよ』と返って来て、その言葉に甘んじるしか術はなかった。
それならせめて、とコンビニに向かおうとした怜をデパートの地下へと強引に引き込み、遠慮されてしまうのを見越して次々と惣菜やデザートを購入した。僕の好きなのばっかり……と赤い顔でむくれながら梓の好物を指し『これも欲しい』とねだられ、やっぱり抱きしめたいのを我慢するのが大変だった。
アフレコの休憩中、“夕方から空いているか”と午前中に送ったメッセージへの返信を見て、飲んでいたコーヒーを咽そうになったのを梓はどうにか堪えた。
自惚れだけれど、怜が欲しがっている雑誌は梓が初めて表紙を飾っているものだろう。
発売情報を見つけた怜に『梓くんこれ見て! 表紙だって! すごい!』と興奮しながら教えられたのは、半月ほど前だったか。
もちろんそこに写る本人なのだから知っていたのだが、敢えて内緒にしていたので怜の鮮やかな反応は宝物にしたいほど嬉しいものだった。
“俺も一緒に行きたいです”
こんな事が以前にもあったなと懐かしく思いながら、梓は返事を送信する。
怜との関係、自分が相山梓だと怜が知っている事――変わった事はたくさんあるが、怜への想いだけは変わらない。いや、あの頃より怜を好きになっている自信があるし、あの頃より仕事も増えているから生まれ変わったかのように違っているのかもしれない。
怜が齎したこの今をしっかり歩いて、未来に繋いでいきたい。意気込んだ梓はスマートフォンを仕舞って、ぐっと背伸びをした。
「次はこっちのお店に行ってもいい?」
「もちろん。今度は何を買うんですか?」
白く染まった二人分の息が、暮れた繁華街の夜空に吸い込まれる。
春に訪れた時、手を繋いで走り出したショップで目当ての雑誌を購入した怜は、それを大事そうに両手で抱えながら梓を見上げた。
「同じだよ」
「同じ?」
「梓くん知らない? お店ごとに特典で貰えるポストカードが違うんだよ」
「……え、もしかしてそれ全部揃えるんですか!?」
「うん」
当然、とでも言うように得意げに鼻を鳴らして頷く怜は堪らなく可愛いが、梓はつい目を丸くした。
もちろん知らないわけがない。特典のそのポストカードだって、写っているのは全て自分なのだから。
怜が欲しがっていた雑誌は梓の想像通り自身が表紙のもので、それだけでスキップでもしてしまいそうなくらいだったのに。それを何冊も買うと恋人は言うのだ。
「…………」
「梓くん? どうかし……顔真っ赤」
「見ないでください……」
手で覆い隠していた火照った頬が、怜に見つかってしまった。熱の引かない肌をどうにか紛らわせようとしていたのに、ちらりと見やった先で怜も頬を染めているのに梓は気づいてしまう。
「なんで怜さんも赤いんですか?」
「え……あー、はは、なんでだろうね? 梓くんのがうつっちゃったのかな」
手を取って路地裏に引き込んでしまいたい衝動を、梓はどうにか堪える。つい今まで相山梓のファンの顔をしていた愛しい人が、恋人の顔で瞳を揺らしているのだから仕方ないだろう。
「外じゃなかったらキスしてました」
「え……え!?」
「怜さん、早く行きましょ? 全部って事はあと三件ありますよね」
怜の背に手を添えて歩き出す。急かしたくはないのだが、今すぐに抱きしめたくなったのを我慢しているのだから許してほしい。
人の波を縫って進みながらたまに絡まる視線にときめいている事を、冬の息は途切れ途切れに恋人に知らせてしまうから参った。
雑誌の日も夕飯は買って済ませますか、と梓が問えば、怜は『雑誌は初めてだけど……それもいいね』と笑って頷いた。
特典のために同じ雑誌を何冊も買ってくれる事は、梓にとって喜びの中に申し訳なさが入り混じるのもまた事実だった。半分は自分が買うと申し出れば『今までCDしか買ってなかったから、僕は嬉しいんだよ』と返って来て、その言葉に甘んじるしか術はなかった。
それならせめて、とコンビニに向かおうとした怜をデパートの地下へと強引に引き込み、遠慮されてしまうのを見越して次々と惣菜やデザートを購入した。僕の好きなのばっかり……と赤い顔でむくれながら梓の好物を指し『これも欲しい』とねだられ、やっぱり抱きしめたいのを我慢するのが大変だった。
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