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≪ごめん、今日はちょっと寄りたいところがあるんだ≫
休憩時間に梓がスマートフォンを開くと、一時間以上前に怜から返信が届いていた。
コーヒーを片手に短い文章を何度も目で追っていると、通りすがったスタッフに冷やかすように声をかけられる。
「あれ、梓くんどうしたの? ニヤニヤしちゃって~」
「へ……俺ニヤニヤしてました? うわぁ、恥ずかしい」
軽快に笑ってすぐに去っていったので、梓は小さく会釈をしてからもう一度、怜からのメッセージに目を戻した。
指摘された通り、浮つくような感情を梓はしっかり自覚している。返信の内容が今夜は会えないと示していても、そんな顔をしてしまうほどのものだ。
冬以降も、月に二~三度は怜と夕飯を共にしている。桜が散る季節になってもある日常を、もう手放せそうにない。
ありがたいことに少しずつ仕事は軌道に乗り始めていて、それは怜のおかげだと梓は強く感じる日々だ。
怜の言葉で確かに奮い立った自分がいる。忙しない毎日は贈りものだ。
さて、どう返事を返そうか。今日は久々に夕方には仕事を終えられる予定で、怜と過ごすチャンスを逃したくはない。
それに梓には、怜の“寄りたいところ”に思い当たるものがあった。
≪もしかして、例の人のCD買いに行くとか? 俺も一緒に行きたいです≫
悩んだ末にそう送り、デニムのポケットにスマートフォンを戻す。
これを読んだら怜はどんな顔をするだろう。慌てる表情が浮かび、今度は自分でも分かるくらいに口角が上がる頬を手のひらで覆う。
「梓くん! いたいた!」
「あ、お疲れ様です」
「ねぇねぇちょっとこれ見て。このオーディションなんだけどさ、受けてみない? 今までに梓くんがやったことないようなタイプだけど、受かったら幅が広がると思うんだよね」
「これ……ありがとうございます! 受けたいです!」
「はは、やる気いっぱいだね。了解、資料準備しておく」
事務所のスタッフが持ってきてくれたオーディション情報に梓は目を輝かせ、迷う間もなく首を縦に振った。
さあ、もう一仕事だ。天井を仰ぎひとつ深呼吸をしてから、梓は多くの同業者がいるブース内へと戻った。
休憩時間に梓がスマートフォンを開くと、一時間以上前に怜から返信が届いていた。
コーヒーを片手に短い文章を何度も目で追っていると、通りすがったスタッフに冷やかすように声をかけられる。
「あれ、梓くんどうしたの? ニヤニヤしちゃって~」
「へ……俺ニヤニヤしてました? うわぁ、恥ずかしい」
軽快に笑ってすぐに去っていったので、梓は小さく会釈をしてからもう一度、怜からのメッセージに目を戻した。
指摘された通り、浮つくような感情を梓はしっかり自覚している。返信の内容が今夜は会えないと示していても、そんな顔をしてしまうほどのものだ。
冬以降も、月に二~三度は怜と夕飯を共にしている。桜が散る季節になってもある日常を、もう手放せそうにない。
ありがたいことに少しずつ仕事は軌道に乗り始めていて、それは怜のおかげだと梓は強く感じる日々だ。
怜の言葉で確かに奮い立った自分がいる。忙しない毎日は贈りものだ。
さて、どう返事を返そうか。今日は久々に夕方には仕事を終えられる予定で、怜と過ごすチャンスを逃したくはない。
それに梓には、怜の“寄りたいところ”に思い当たるものがあった。
≪もしかして、例の人のCD買いに行くとか? 俺も一緒に行きたいです≫
悩んだ末にそう送り、デニムのポケットにスマートフォンを戻す。
これを読んだら怜はどんな顔をするだろう。慌てる表情が浮かび、今度は自分でも分かるくらいに口角が上がる頬を手のひらで覆う。
「梓くん! いたいた!」
「あ、お疲れ様です」
「ねぇねぇちょっとこれ見て。このオーディションなんだけどさ、受けてみない? 今までに梓くんがやったことないようなタイプだけど、受かったら幅が広がると思うんだよね」
「これ……ありがとうございます! 受けたいです!」
「はは、やる気いっぱいだね。了解、資料準備しておく」
事務所のスタッフが持ってきてくれたオーディション情報に梓は目を輝かせ、迷う間もなく首を縦に振った。
さあ、もう一仕事だ。天井を仰ぎひとつ深呼吸をしてから、梓は多くの同業者がいるブース内へと戻った。
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