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25. 六日目夜②
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サンドイッチをモシャモシャしながら、ヒバはとても複雑な気分で飛竜の手綱を握っていた。サンドイッチはとても美味しい。一緒についてきたお茶も素晴らしい。飛竜の上で、片手で食べるご飯としては極上だ。
「ヒバさん、こちらのクッキーもいかがですか? ワグの実入りで香ばしいんですよ」
薦められたクッキーも美味い。中に混ざっているカリカリした木の実は、コクのある砂糖がまぶしてあって、店で売っててもおかしくない美味しさだ。
ゼンの横でにこにこしているシウは、乗馬用と思われるパンツスタイルの上にゼンのフードつきの服を羽織っている。「これで顔を隠すので、女性ってバレません!」と、暗色のスカーフをまとって自信満々だが、全体的な輪郭からしてバレバレである。
(しっかし、あの隊長がねぇ)
今までゼンについて浮いた噂は全く聞いたことがない。そもそもあの家に、ゼン以外の人間がいるのをヒバは初めて見た。
ゼンはあの若さでオルクスのトップだし、財力もある。女性といえば、魔獣狩りの後に女を買いに行く程度だが、金払いが良いからか、買った女から言い寄られることが少なくない。しかし、一度言い寄られたら二度とそこには行かないと聞く。
つまり、性欲発散には興味あるが、女性には興味が無い。他人に興味が無いのは女性相手でも同じはずだった。
それが、いきなり女の子と風呂でいちゃいちゃしていたのだ。世の中わからないものである。
「ヒバさん、この飛竜、大きいですよね。何人くらい乗れるんですか?」
「ああ、ええっと、はい」
出し抜けに話しかけられて、思わず要領を得ない返事をしてしまう。ヒバ的には、シウの裸までバッチリみているだけに、話しかけられるたびに気まずいったらない。あの風呂場の情景をどうしても思い出してしまう。
深呼吸して、脳内のピンク色の光景を追い払った。
「黒樫は、大人五人は乗れるっすよ。隊長は二人分ですけど」
シウは珍しそうに飛竜の背中をなでている。飛竜の肌には細かな産毛が生えていて、ビロードのような感触だ。意外と撫で心地は良い。
「ゼンさんと、大人三人と子供一人はどうですか」
「んー、子供一人くらいならいけますけど、飛行速度はおちるっすね」
妙な質問だなと思いながら、ヒバは答えた。まるで、何か具体的な利用イメージがあるかのようだ。
「ちなみに、ヒバさんって、もしかしてアクムリア出身?」
「そですよ。飛竜の里っていうど田舎っす」
「シルクスタまできて魔獣と戦うって珍しいですね」
「いや、俺は戦闘部隊じゃなくて、医療担当なんです。基本、剣はもたないですね」
「もう故郷にはもどらないんですか?」
シウと話しながら、雪に包まれた故郷をヒバは思い出す。北方のアクムリアの中でもさらに北の地。季節によっては夜も明けず、太陽も沈まない。
医療施設の乏しい故郷のために、妻と子を置いてヒバは里を出た。医療技術獲得と、診療所開設の金を稼ぐために。
先日も、吹雪の中、娘のために薬草を取りに山に入った母親が遭難して亡くなったと、実家からの手紙に記されていた。溜息混じりに、なんとはなしに、自身の故郷についてシウに語る。
「もう少し金がたまったら、戻ろうとおもってるんすよね」
いやに喋りすぎたと思いながら、ヒバはサンドイッチの残りを口に突っ込んだ。そろそろ目的地だ。前方に黒紫色の靄に包まれる森が見えてくる。あれこそが魔獣の森、シルクスタと魔族の地の境目だ。
「ヒバさん、こちらのクッキーもいかがですか? ワグの実入りで香ばしいんですよ」
薦められたクッキーも美味い。中に混ざっているカリカリした木の実は、コクのある砂糖がまぶしてあって、店で売っててもおかしくない美味しさだ。
ゼンの横でにこにこしているシウは、乗馬用と思われるパンツスタイルの上にゼンのフードつきの服を羽織っている。「これで顔を隠すので、女性ってバレません!」と、暗色のスカーフをまとって自信満々だが、全体的な輪郭からしてバレバレである。
(しっかし、あの隊長がねぇ)
今までゼンについて浮いた噂は全く聞いたことがない。そもそもあの家に、ゼン以外の人間がいるのをヒバは初めて見た。
ゼンはあの若さでオルクスのトップだし、財力もある。女性といえば、魔獣狩りの後に女を買いに行く程度だが、金払いが良いからか、買った女から言い寄られることが少なくない。しかし、一度言い寄られたら二度とそこには行かないと聞く。
つまり、性欲発散には興味あるが、女性には興味が無い。他人に興味が無いのは女性相手でも同じはずだった。
それが、いきなり女の子と風呂でいちゃいちゃしていたのだ。世の中わからないものである。
「ヒバさん、この飛竜、大きいですよね。何人くらい乗れるんですか?」
「ああ、ええっと、はい」
出し抜けに話しかけられて、思わず要領を得ない返事をしてしまう。ヒバ的には、シウの裸までバッチリみているだけに、話しかけられるたびに気まずいったらない。あの風呂場の情景をどうしても思い出してしまう。
深呼吸して、脳内のピンク色の光景を追い払った。
「黒樫は、大人五人は乗れるっすよ。隊長は二人分ですけど」
シウは珍しそうに飛竜の背中をなでている。飛竜の肌には細かな産毛が生えていて、ビロードのような感触だ。意外と撫で心地は良い。
「ゼンさんと、大人三人と子供一人はどうですか」
「んー、子供一人くらいならいけますけど、飛行速度はおちるっすね」
妙な質問だなと思いながら、ヒバは答えた。まるで、何か具体的な利用イメージがあるかのようだ。
「ちなみに、ヒバさんって、もしかしてアクムリア出身?」
「そですよ。飛竜の里っていうど田舎っす」
「シルクスタまできて魔獣と戦うって珍しいですね」
「いや、俺は戦闘部隊じゃなくて、医療担当なんです。基本、剣はもたないですね」
「もう故郷にはもどらないんですか?」
シウと話しながら、雪に包まれた故郷をヒバは思い出す。北方のアクムリアの中でもさらに北の地。季節によっては夜も明けず、太陽も沈まない。
医療施設の乏しい故郷のために、妻と子を置いてヒバは里を出た。医療技術獲得と、診療所開設の金を稼ぐために。
先日も、吹雪の中、娘のために薬草を取りに山に入った母親が遭難して亡くなったと、実家からの手紙に記されていた。溜息混じりに、なんとはなしに、自身の故郷についてシウに語る。
「もう少し金がたまったら、戻ろうとおもってるんすよね」
いやに喋りすぎたと思いながら、ヒバはサンドイッチの残りを口に突っ込んだ。そろそろ目的地だ。前方に黒紫色の靄に包まれる森が見えてくる。あれこそが魔獣の森、シルクスタと魔族の地の境目だ。
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