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24. 六日目夜➀

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 外はとっぷりと暗い。
 漆黒の飛竜が闇にまぎれて見えないくらいに暗い。時々、飛竜の金の瞳がぱちくりするので、顔がここにあるというのだけはわかる。
 窓の外を見るふりをして、シウは着替えているゼンを盗み見る。真正面から堂々と見るのは、さすがにシウの良識が許さなかった。他人を脱がすのはよくても、着替えを見るのはだめである。
 
 飛竜に乗った男はヒバと名乗った。癖のある栗毛を気まずそうに掻きながら、ゼンに仕事道具一式とやらから、せっせと装備を渡している。
 渡された防具を、慣れた手つきでゼンは身につけていく。動きやすさ重視なのだろう、身軽そうなライトアーマーに手甲をつけて、ナイフらしき細々したものを胸や腰のベルトに装着していく。腰に二本の細身の剣をさし、マントを羽織る。基本的に全て黒っぽい。

「あの、ゼンさんのお仕事ってなんですか?」

 一通り着替えサポートが終わり、豪快にシウの出したおやつ試作品を食べてるヒバに訊いてみる。ヒバは、シウの問いかけに頬張っていたおやつを喉につめて、苦しげに胸をたたく。水を渡すと、一気に飲み干した。
 
「しらないんすか!? 魔獣狩りっすよ」
「魔獣狩り……オルクス対魔獣特殊部隊のメンバーなの!?」

 あっと、シウは口に手を当てた。教本に乗っていた内容を思い出す。
 
 対魔獣特殊部隊「オルクス」。
 通称「シルクスタの翼」。
 
 魔獣の森に隣接し、常に魔獣の脅威に脅かされるシルクスタを守るために、ここ二、三年で新設された魔獣狩り専門組織だ。
 彼らにより、今まで追い払う程度しかできなかった魔獣を「狩る」ことができるようになった。
 今までは貴族達が保持する私有軍が、唯一の魔獣への対抗手段だった。それよりも遥かに強力なオルクスは、実質シルクスタ最強部隊ともささやかれている。

 どうりで人間相手に無双するわけだと、シウは納得した。そしてあの山のような郵便は、オルクスがらみだったのだ。

「隊長、ゼンって名前なんだ。初めて知ったなあ」

 のほほんと、水を飲むヒバの話を聞き流しながら、シウは考えた。魔獣狩りならば国境近くに行くはずだ。ある意味チャンスかもしれない。
 しかも「隊長」という呼び名から、ゼンは下っ端ではなさそうだ。つまり、多少の無理がとおる立場。

「いつ、出発するんです? 私も、ご一緒できませんか?」
「はあっ!?」

 飲んでた水を、ぶっとヒバが吹く。
 綺麗な飛沫があがるのを、シウはさっとよけた。

「遊びじゃないんすよ!? 死ぬ人のほうが多いくらいなんすよ!?」
「でも、国境って行ったことないから、いってみたくて」

 えへへーと、シウは微笑んでみる。
 ヒバの猛反対は、シウには想定の範囲内だ。

「ゼンさんのお仕事、見に行きたいです。行く途中に一緒にサンドイッチ食べましょ? おやつもたくさん持っていきますよ」

 シウはゼンのところに駆け寄り、ごろにゃんとばかりに腕に寄りかかってねだる。行きたいですー、ピクニックー、とねだるシウの頬を撫でてゼンは即答した。

「いいよ」
「ちょ、だめでしょ! 怪我したらどうするんですか!」

 ばんざーいと抱きついてくるシウを撫でるゼンを見て、ヒバは唖然とした。

(隊長、こんな人だったっけ!?)

 他人に興味を示さない。
 それが、ヒバのゼンに対する印象だった。基本、話しかけても答えてくれないし、ガン無視なんてしょっちゅうだ。たまに挨拶を返してもらえたときは、しばらくウキウキしてしまう。
 それが、シウを優しげに見つめているし、頬が緩みまくってる。しかもちょっとしゃべる。

「隊長、ほんとだめですよ。他の人になんて説明すればいいか」

 ヒバがたしなめると、ゼンはシウを抱きしめて、ぷいっと明後日の方向を向いてしまった。シウを連れていけないなら、ゼンも行かないということだろう。
 
 ヒバは焦った。ゼンに来てもらわないと、魔獣狩りができない。無理に決行しようものなら、全滅してしまう。

「隊長、三日に一度は、なんか殺してないとだめなんでしょ!? 前回からもう三日あいてますよ。行かないとまずくないですか」

 無言でゼンは首を振る。
 ヒバはゾッとした。ゼンが三日に一度は何か殺さないと落ち着かないというのは、仲間うちでは有名な話だった。それを満たすために魔獣狩りをやっていたはずだ。つまり、魔獣狩りに行かなくていいということは、別の何かを殺して鬱憤を晴らしていることになる。
 
 なんとしても、今ここで、自分がゼンを魔獣狩りに連れ出すことが、シルクスタの平和につながる。そう、ヒバは確信した。

「わっ…………かりま、した」

 苦渋。
 その二文字を顔に浮かべて、ヒバは折れた。
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