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15. 来たるべきその時まで力をためているはなし※
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硬質な音を立て、グラスが壁にあたり砕けちる。白い壁にべったりと赤黒い染みが弾けて垂れた。
「まだシウリールは見つからないのか!」
「すみません、アストン様。手は尽しているのですが」
アストン・クローディルは、ここしばらく苛だちっぱなしだった。シウリール・ズコットが、手違いにより奴隷商に引き取られてから五日あまり。
いまだに消息すらつかめていない。
「どこのどいつだ、シウリールを買ったのはっ」
ぎりぎりと、ハンカチを噛んで引っ張る。上等な絹のハンカチは、ここ数日でボロボロになっていた。
「商人風情が。手を煩わせやがって」
吐き捨てるように言いながら、さらにハンカチを噛む。右で噛んで左で噛んで、真ん中で噛んで引っ張った。
商人風情。アストンは陰でシウリールのことを、そう呼んでいた。
⸺ご機嫌よう、アストン様。あなたを、選ぶことにしました。よろしくお願いしますね
婚約が決まったときに、挨拶に訪れた彼女の一言。
今思い出しても、腹が煮えくりかえる。
クローディル家は、先々代の散財がかさみ、ずいぶん前から家計は火の車だった。それにくわえて、あの魔獣狩りどもの台頭だ。元々、魔獣退治の利権を握っていたクローディル家の経済状況は、一気に悪くなった。
苦渋の決断としてくだされたのが、アストンの結婚相手に商家を選び、財政支援をしてもらうというものだった。
シウリールをひと目見て、アストンは気に入った。可憐な容貌に、栗色に金が混じる珍しい髪色。あれだけ整った容姿は、社交界でもなかなか見ない。加えて、身体つきもアストンの好みにぴったりだった。というか、あれが嫌いな男はまずいないのではないか。腰や腕は、引き締まっているのに、胸はずいぶんとふくよかで、肌は透き通るように滑らかで美しい。痩せすぎず、太すぎず、絶妙なバランスで、抱き心地を想像するだけで胸が高鳴る。
ただ、問題は性格だった。ハキハキとした物言いに、強い意思の宿る琥珀色の瞳。少し話しただけで、アストンは気後れし、それがまた彼のプライドを傷つけた。
女性に学などいらない、というのがアストンの持論だった。なのにシウリールは、非常に高度な教育を受けており、しかもすでに商才を開花しているというではないか。なんでも、女性のくせに、店舗経営をしており、莫大な利益をあげているとか。
そのうえ商人程度、喜んで嫁に来るかと思えば、他の貴族と天秤にかけて選んでやったときた。シウリールの態度も気に入らなければ、喜んでいる父親も腹立たしかった。
そんなおり、アストンは知ったのだった。台頭目覚ましい商人に危機感を持った貴族の一部が、その勢力を削ぐために彼らを失脚させる計画を立てていることを。
アストンは、彼らに加担した。婚約者であることを利用し、ズコット邸に忍び込み偽造書類を作るような真似までした。
アストンが望んだ報酬は、ひとつは金。
もうひとつは、奴隷としてのシウリールである。
シウリールが憲兵に連れて行かれる直前、奴隷となる前の彼女をはずかしめようと、買った女をはべらせて言いたい放題侮辱した。
懇意にしている貴族令嬢を何人か呼び、盛大に嘲笑したものだった。女だてらにバリバリと成功しているシウリールを、よく思わない令嬢は少なくなかった。
あれは実に胸のすく思いだった。次は奴隷となった彼女を心身ともにはずかしめようと楽しみにしていたのに。
地下へと向かう暗い階段を降りた先には、いくつか部屋がある。その最も奥まった鉄製の扉の先が、アストンの趣味部屋だった。重厚な扉はどんな音も通さない、完全防音仕様だ。
シウリールのことでイライラするたびに、アストンはここにくるのだった。
扉をあけ、灯りをつける。照らし出された室内の左手の壁には、一面にびっしりといくつもの性具、つまり大人のおもちゃが飾られている。他の壁には、拘束具や鎖など、人間を吊して固定するような器具が設置されていた。部屋の奥には、ベッドや、ベンチなどが置かれており、そのうちのひとつには女性が一人乗っている。女性は、足を開いて固定したまま拘束されていた。
栗色の髪色は、色合いや長さが、シウリールに少し似ている。首輪と口枷、目隠しがつけられている以外は全裸だ。
「今日もシウリールにお仕置きしなきゃね」
女性の膣に深く埋められた性具を、ぐりぐりと押し込み、根元のツマミをまわす。ぐにぐにと性具が振動しだし、くぐもった声をあげて女性が腰をゆらしてのけぞった。もうひとつ、尻の穴に埋めてある小ぶりの性具も同じように動かす。
ビクビク痙攣する女性が、大量の愛液を漏らしながら身体をこわばらせた。
もちろん、彼女はシウリール・ズコットではない。シウリールが逃げたという奴隷商⸺彼もまた夜逃げしたのだが⸺のところにいたのを、二束三文で引取ってきたのだ。シウリールに見立てて、ウサを晴らすという最低なことを、ここ毎日アストンはしていた。
「僕のところにくれば、散々かわいがってあげるのに」
すでに赤い痣がたくさんついている胸の膨らみを、きつく掴む。残念ながら、シウリールほど大きくはない。それに苛立ち、アストンは力任せにぎゅむぎゅむと揉んだ。
「毎日、昼も夜も閉じ込めて快楽漬けにして、生意気な性根を叩き直してやるのに」
揉んでるうちにたかぶってきて、ズボンのベルトに手をかけ、思いなおす。
「ふうう、こんなところで無駄に力を使うわけにはいかないんだった」
ぱんぱんと手を打つと、さらに奥の扉がひらき、大柄な男がのっそりと現れる。男は女性から性具を引き抜くと、無言で犯しはじめた。
「ああ、シウリール、君の処女もこんな風に散らされてしまったのかい。まったく、悪い子だ。僕というものがありながら」
奴隷商から若い女性を買う場合、大抵、性奴隷として買う。シウリールほどの美貌と身体ならば、使いみちは十中八九それだろう。奴隷の人権はほとんど保証されていない。どうしようが雇用主次第だ。
もしかしたら、あのタジル自ら味見したかもしれない。
今この目の前で繰り広げられる痴態のように。
(もしかしたら、おっぱい揉まれまくってたりして)
(もしかしたら、気持ち悪いキスとかされてたりして)
(もしかしたら、男の身体を舐めろとか強要されてたりして)
(もしかしたら、ガブガブ噛まれながら無理矢理されてたりして)
様々に妄想を巡らせ、アストンはたまらなく興奮するのだった。
「はやくシウリールにたっぷりお仕置きして、君のすべてを僕のものにしたい」
苦しげなうめき声と、激しく肉をうつ音が室内に響き渡る。
眼前の卑猥な光景を見ながら、アストンはぐっと己の欲望を吐き出したいのを、こらえるのだった。
シウリールを手に入れるその時まで、力をためねばならない。
「まだシウリールは見つからないのか!」
「すみません、アストン様。手は尽しているのですが」
アストン・クローディルは、ここしばらく苛だちっぱなしだった。シウリール・ズコットが、手違いにより奴隷商に引き取られてから五日あまり。
いまだに消息すらつかめていない。
「どこのどいつだ、シウリールを買ったのはっ」
ぎりぎりと、ハンカチを噛んで引っ張る。上等な絹のハンカチは、ここ数日でボロボロになっていた。
「商人風情が。手を煩わせやがって」
吐き捨てるように言いながら、さらにハンカチを噛む。右で噛んで左で噛んで、真ん中で噛んで引っ張った。
商人風情。アストンは陰でシウリールのことを、そう呼んでいた。
⸺ご機嫌よう、アストン様。あなたを、選ぶことにしました。よろしくお願いしますね
婚約が決まったときに、挨拶に訪れた彼女の一言。
今思い出しても、腹が煮えくりかえる。
クローディル家は、先々代の散財がかさみ、ずいぶん前から家計は火の車だった。それにくわえて、あの魔獣狩りどもの台頭だ。元々、魔獣退治の利権を握っていたクローディル家の経済状況は、一気に悪くなった。
苦渋の決断としてくだされたのが、アストンの結婚相手に商家を選び、財政支援をしてもらうというものだった。
シウリールをひと目見て、アストンは気に入った。可憐な容貌に、栗色に金が混じる珍しい髪色。あれだけ整った容姿は、社交界でもなかなか見ない。加えて、身体つきもアストンの好みにぴったりだった。というか、あれが嫌いな男はまずいないのではないか。腰や腕は、引き締まっているのに、胸はずいぶんとふくよかで、肌は透き通るように滑らかで美しい。痩せすぎず、太すぎず、絶妙なバランスで、抱き心地を想像するだけで胸が高鳴る。
ただ、問題は性格だった。ハキハキとした物言いに、強い意思の宿る琥珀色の瞳。少し話しただけで、アストンは気後れし、それがまた彼のプライドを傷つけた。
女性に学などいらない、というのがアストンの持論だった。なのにシウリールは、非常に高度な教育を受けており、しかもすでに商才を開花しているというではないか。なんでも、女性のくせに、店舗経営をしており、莫大な利益をあげているとか。
そのうえ商人程度、喜んで嫁に来るかと思えば、他の貴族と天秤にかけて選んでやったときた。シウリールの態度も気に入らなければ、喜んでいる父親も腹立たしかった。
そんなおり、アストンは知ったのだった。台頭目覚ましい商人に危機感を持った貴族の一部が、その勢力を削ぐために彼らを失脚させる計画を立てていることを。
アストンは、彼らに加担した。婚約者であることを利用し、ズコット邸に忍び込み偽造書類を作るような真似までした。
アストンが望んだ報酬は、ひとつは金。
もうひとつは、奴隷としてのシウリールである。
シウリールが憲兵に連れて行かれる直前、奴隷となる前の彼女をはずかしめようと、買った女をはべらせて言いたい放題侮辱した。
懇意にしている貴族令嬢を何人か呼び、盛大に嘲笑したものだった。女だてらにバリバリと成功しているシウリールを、よく思わない令嬢は少なくなかった。
あれは実に胸のすく思いだった。次は奴隷となった彼女を心身ともにはずかしめようと楽しみにしていたのに。
地下へと向かう暗い階段を降りた先には、いくつか部屋がある。その最も奥まった鉄製の扉の先が、アストンの趣味部屋だった。重厚な扉はどんな音も通さない、完全防音仕様だ。
シウリールのことでイライラするたびに、アストンはここにくるのだった。
扉をあけ、灯りをつける。照らし出された室内の左手の壁には、一面にびっしりといくつもの性具、つまり大人のおもちゃが飾られている。他の壁には、拘束具や鎖など、人間を吊して固定するような器具が設置されていた。部屋の奥には、ベッドや、ベンチなどが置かれており、そのうちのひとつには女性が一人乗っている。女性は、足を開いて固定したまま拘束されていた。
栗色の髪色は、色合いや長さが、シウリールに少し似ている。首輪と口枷、目隠しがつけられている以外は全裸だ。
「今日もシウリールにお仕置きしなきゃね」
女性の膣に深く埋められた性具を、ぐりぐりと押し込み、根元のツマミをまわす。ぐにぐにと性具が振動しだし、くぐもった声をあげて女性が腰をゆらしてのけぞった。もうひとつ、尻の穴に埋めてある小ぶりの性具も同じように動かす。
ビクビク痙攣する女性が、大量の愛液を漏らしながら身体をこわばらせた。
もちろん、彼女はシウリール・ズコットではない。シウリールが逃げたという奴隷商⸺彼もまた夜逃げしたのだが⸺のところにいたのを、二束三文で引取ってきたのだ。シウリールに見立てて、ウサを晴らすという最低なことを、ここ毎日アストンはしていた。
「僕のところにくれば、散々かわいがってあげるのに」
すでに赤い痣がたくさんついている胸の膨らみを、きつく掴む。残念ながら、シウリールほど大きくはない。それに苛立ち、アストンは力任せにぎゅむぎゅむと揉んだ。
「毎日、昼も夜も閉じ込めて快楽漬けにして、生意気な性根を叩き直してやるのに」
揉んでるうちにたかぶってきて、ズボンのベルトに手をかけ、思いなおす。
「ふうう、こんなところで無駄に力を使うわけにはいかないんだった」
ぱんぱんと手を打つと、さらに奥の扉がひらき、大柄な男がのっそりと現れる。男は女性から性具を引き抜くと、無言で犯しはじめた。
「ああ、シウリール、君の処女もこんな風に散らされてしまったのかい。まったく、悪い子だ。僕というものがありながら」
奴隷商から若い女性を買う場合、大抵、性奴隷として買う。シウリールほどの美貌と身体ならば、使いみちは十中八九それだろう。奴隷の人権はほとんど保証されていない。どうしようが雇用主次第だ。
もしかしたら、あのタジル自ら味見したかもしれない。
今この目の前で繰り広げられる痴態のように。
(もしかしたら、おっぱい揉まれまくってたりして)
(もしかしたら、気持ち悪いキスとかされてたりして)
(もしかしたら、男の身体を舐めろとか強要されてたりして)
(もしかしたら、ガブガブ噛まれながら無理矢理されてたりして)
様々に妄想を巡らせ、アストンはたまらなく興奮するのだった。
「はやくシウリールにたっぷりお仕置きして、君のすべてを僕のものにしたい」
苦しげなうめき声と、激しく肉をうつ音が室内に響き渡る。
眼前の卑猥な光景を見ながら、アストンはぐっと己の欲望を吐き出したいのを、こらえるのだった。
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