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10. 三日目夜②
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ゼンがシウの眠る部屋に戻ってきたのは、深夜だった。部屋まで案内してくれた診療所スタッフは、ゼンが例を言う前に、無言でそそくさと立ち去った。
いそいそと薄暗い部屋の中に入る。脇机の上にランプが置かれており、その灯りでほんのり照らされているのみだ。
相変わらず、ベッドの横の仕切りカーテンは閉められている。マリーがいないことを三回くらい確認して、仕切りカーテンを開けた。あの老婆はそのへんの影から、ぬっと出てきそうなところがある。用心するに越したことはない。
カーテンの中では、シウが変わらずすやすや寝ていた。近くの丸椅子に座り、穏やかな寝顔をながめる。起こさないように、そっと頬に指先で触れてみる。頬を撫でながら、シウの規則正しい寝息に耳を傾けた。
次第にゼンも眠さを感じて、あくびを噛み殺す。考えてみれば、昨夜もよく寝てないし、今日は昼寝もしていない。
もう少し眺めていたかったが、睡魔には敵わない。もう一度あくびをして、ランプの灯りを消そうと手を伸ばし、机の上に何か乗っていることに気づいた。
紙だ。びっしりと文字が書いてある。文字が多すぎて目がちかちかした。げんなりと顔を背ける直前、そこに載っている絵に釘付けになる。慌てて紙をとりあげ、ランプにかざす。まばたきして何回か絵を見て、そして、ベッドの上のシウを見た。
間違いなく、その絵はシウの似顔絵だった。
さらに目を凝らして文字を読む。
(なんだこれ、むず……)
ゼンは、ほとんどまともに教育を受けていない。そのせいもあり、文字を読むのが苦手だった。書くのもだめだ。ちなみに数は、千までなら数えられる。
眉の間を指で揉む。字と向き合いすぎて頭が痛くなってきた。
とりあえずわかったのは、シウの絵の下に、”シウリール・ズコット”と書かれていること。
タジルについても何か書かれていること。
そして、一番驚いたのだが、シウに懸賞金らしきものがかけられていること。その額、百ダルク。
ゼンは諦めた。詳細については、後でシウに聞けばいい。懐に紙をしまい、ランプの灯りを消す。またシウの横に座って、うとうとした。
どのくらい経っただろう。ゼンは廊下から忍び寄る気配に覚醒した。意識を研ぎ澄ませる。きしりと、ほんのわずかに板張りの床が遠くで軋む。狙いはこの部屋だ。
(四人、いや、五人か。懸賞金目当てか?)
ここに来る途中、ゼンの顔は隠していたが、シウの顔は全く隠していなかった。いつ誰に目撃されていてもおかしくない。ランプの灯りが消えたのを見計らって、忍びこんできたのだろう。
ゼンは気配を消して扉の前に立つ。カチャリとドアノブが回り、ゆっくりときしみながら部屋の内側に押し開く。その扉を、勢い良く内側に引っ張った。たたらを踏む男の首の後ろを手刀で打ちすえ、続く一人は顎を殴って昏倒させた。残る三人のうち、二人は銃のようなものを構え、最後の一人はナイフを構えている。
カチリと撃鉄があがる音と、ささやかな魔力の流れ。魔力銃だ。
その方向に向けて、すっとゼンが空間を撫でるように手の平を横に引く。ボンッと爆発にも似た音が二回して、苦悶の絶叫があがった。銃が暴発して男二人の両手を吹き飛ばしたのだ。
「魔力操作だと⁉ あんた、まさか!」
ナイフを構えていた男は、踵を返して逃げ出した。ゼンは一気に距離を詰めると、のしかかるように押し倒し、男の手からナイフをもぎ取る。
迫る白刃に、男は観念して呻いた。
「あんたのこと、知ってるぜ。俺は何人目だい?」
「千から先は数えてない」
いそいそと薄暗い部屋の中に入る。脇机の上にランプが置かれており、その灯りでほんのり照らされているのみだ。
相変わらず、ベッドの横の仕切りカーテンは閉められている。マリーがいないことを三回くらい確認して、仕切りカーテンを開けた。あの老婆はそのへんの影から、ぬっと出てきそうなところがある。用心するに越したことはない。
カーテンの中では、シウが変わらずすやすや寝ていた。近くの丸椅子に座り、穏やかな寝顔をながめる。起こさないように、そっと頬に指先で触れてみる。頬を撫でながら、シウの規則正しい寝息に耳を傾けた。
次第にゼンも眠さを感じて、あくびを噛み殺す。考えてみれば、昨夜もよく寝てないし、今日は昼寝もしていない。
もう少し眺めていたかったが、睡魔には敵わない。もう一度あくびをして、ランプの灯りを消そうと手を伸ばし、机の上に何か乗っていることに気づいた。
紙だ。びっしりと文字が書いてある。文字が多すぎて目がちかちかした。げんなりと顔を背ける直前、そこに載っている絵に釘付けになる。慌てて紙をとりあげ、ランプにかざす。まばたきして何回か絵を見て、そして、ベッドの上のシウを見た。
間違いなく、その絵はシウの似顔絵だった。
さらに目を凝らして文字を読む。
(なんだこれ、むず……)
ゼンは、ほとんどまともに教育を受けていない。そのせいもあり、文字を読むのが苦手だった。書くのもだめだ。ちなみに数は、千までなら数えられる。
眉の間を指で揉む。字と向き合いすぎて頭が痛くなってきた。
とりあえずわかったのは、シウの絵の下に、”シウリール・ズコット”と書かれていること。
タジルについても何か書かれていること。
そして、一番驚いたのだが、シウに懸賞金らしきものがかけられていること。その額、百ダルク。
ゼンは諦めた。詳細については、後でシウに聞けばいい。懐に紙をしまい、ランプの灯りを消す。またシウの横に座って、うとうとした。
どのくらい経っただろう。ゼンは廊下から忍び寄る気配に覚醒した。意識を研ぎ澄ませる。きしりと、ほんのわずかに板張りの床が遠くで軋む。狙いはこの部屋だ。
(四人、いや、五人か。懸賞金目当てか?)
ここに来る途中、ゼンの顔は隠していたが、シウの顔は全く隠していなかった。いつ誰に目撃されていてもおかしくない。ランプの灯りが消えたのを見計らって、忍びこんできたのだろう。
ゼンは気配を消して扉の前に立つ。カチャリとドアノブが回り、ゆっくりときしみながら部屋の内側に押し開く。その扉を、勢い良く内側に引っ張った。たたらを踏む男の首の後ろを手刀で打ちすえ、続く一人は顎を殴って昏倒させた。残る三人のうち、二人は銃のようなものを構え、最後の一人はナイフを構えている。
カチリと撃鉄があがる音と、ささやかな魔力の流れ。魔力銃だ。
その方向に向けて、すっとゼンが空間を撫でるように手の平を横に引く。ボンッと爆発にも似た音が二回して、苦悶の絶叫があがった。銃が暴発して男二人の両手を吹き飛ばしたのだ。
「魔力操作だと⁉ あんた、まさか!」
ナイフを構えていた男は、踵を返して逃げ出した。ゼンは一気に距離を詰めると、のしかかるように押し倒し、男の手からナイフをもぎ取る。
迫る白刃に、男は観念して呻いた。
「あんたのこと、知ってるぜ。俺は何人目だい?」
「千から先は数えてない」
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