ルート学園（BLver.）

始まり

04

　広すぎる廊下にコツコツと俺と前を行く阿蘇さんと茶々さんの３人の足音が響く。

　まるでファンタジー映画に出てきそうな大きく太い柱に支えられた高い天井。陶磁器の様な滑らかな壁。ここが日本とは違う国のように思わせるその建物に、俺は目を奪われながら後ろを付いていった。

　迷路の様な廊下を暫く歩いていくと、白い大きな両扉が姿を現す。茶々さんが阿蘇さんの前にささっと回り込むとその扉を開いた。そこを颯爽と通り抜けていく彼女を見送ると、ピタリ、と扉の前で足を止めた。


　なんていうかこの２人･･････変。

　どうみても、あの阿蘇って子ま俺と同じくらいの歳だよな？　15？　16？　いや、大まけにまけて18ってとこか。

　そんな子供に大の大人が付き従うって･･････でも阿蘇さんは経営者で茶々さんは秘書だって言ってたからあれが普通･･････なのか？


　そんな事を思いながら遠目で茶々さんを眺めていると、突然歩みを止めた私を不思議に思ったんだろう。茶々さんが小さく首を傾げながら｢どうぞ｣と部屋の中へ入るよう促してくる。

　それに｢ど、どうも｣と言葉を返しつつ扉を潜れば･･････。



「ちょっ･･････」


　部屋に入るなり目に飛び込んできたのは淡いピンク色のブラウスの襟を下げ、肌をはだけさせた彼女の後ろ姿で。

　俺は慌てて彼女に駆け寄ると、がしっと服を掴んで引き上げる。


「ちょっと！　そんな簡単に女の子が肌をみせちゃダメだろ！？」

「は？」


　俺の行動に瞳を瞬かせ眉根を寄せる茶々さんを横目に彼女の襟を調えると、下まで外されたボタンを一つずつとめていく。


「いくらあの人があんたの秘書だっても女だったらもっと恥じらいを持つべきだと思うけど。てか俺も男なんだぞわかってんのかよ」

「あー･････恥じらい、ですか」

「そうだ恥じらい！　ばあちゃんが若い頃は夏場のノースリーブ１枚でも近所のオバサン達にイヤラシイだとかなんだとか怒られてたんだってよ。まぁその時と今じゃ時代は違うだろうけど……」


　でもそこはしっかりしなきゃダメだ、とうんたらかんたら年寄り臭い説教をしながら最後のボタンに指をかけた時。


「あのさ」


　という言葉と共に、細くしなやかな指先が俺の手を掴む。そしてその手を誘導する様に自分の胸へと押し付けた。


「ちょっ！？」


　言った側から何してんだよこいつ！！

　かぁっと俺の顔が真っ赤に染まる。ぺったりと押さえつけられたままの掌から感じる感触に「ん？　でもこれは」と違和感を覚えつつ、俺は彼女の奇行に目を白黒させた。

　これってどうすべきなんだ？　てか今どきの女子って簡単に服を脱ぎ捨てようとするばかりか平気でこんな胸触らせたりするもんなのか？　前いた学校の女子は風で煽られたスカートから見えたパンチラ一つにもスケベだのエッチだの大騒ぎしてたのに。

　でもこの感触。貧乳って言ってもこれはなんか･･････そう、これは女の子の身体っていうよりどちらかと言えばよく知ってる硬さ･･････。


　･･････。

　･････････。

　！？！？！？！？



　その違和感がなんなのか。それに気が付くと同時に、俺は飛び退く様に彼女から放れた。


「なっ、なっ、なっ、なあっ･･････」

「あれ、やっと気が付いた？」


　驚きに口をわななかせ、声にならない叫びを上げる俺とは裏腹に悪戯が成功した時の様に無邪気な笑顔をみせる彼女＿＿もとい彼。

　つい今とめたボタンをもう一度プチプチと外していくと、バッとブラウスを先程と同じ様に両腕に絡めながらはだけさせる。

　中性的な顔立ちの首から下に現れたのは女性特有のふくよかなお山二つなどではない。

　そう、見間違えるはずもないよく見慣れた男の胸板だったのだ。


「阿蘇日和。性別、お・と・こ。改めてよろしく、山梨さかえくん？」

｢ぎっ･･････｣


　ぎゃあああああああっ＿＿＿＿。